ウイルスとはそうやって生き延びてきたのだ。

『ちなみに、インフルエンザウイルスに感染すると、宿主である人間はなぜ死ぬのか。実はウイルスそのものではなく、感染によって体内に発生する膨大な活性酸素が原因であることを、30年ほど前に発見したのが前田名誉教授だった。インフルエンザウイルスに感染して死んだマウスを調べると、大量にいるはずのウイルスがいない、なぜ死んだのかを調べるうちに、ウイルスをやっつけようと体内のマクロファージや白血球などが大量の活性酸素を放出し、さらに各種サイトカインやプロテアーゼの過剰発生などが細胞毒性となってマウスが死んだとわかる。それを証明するために、SODという活性酸素を消去する酵素を、高分子に繋いで注射するとマウスは死ななくなったそうだ。新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスも同じ1本鎖RNAである。とはいえ、新型コロナウイルスに効果があるかどうかは別だが……。それはさておき、3月24日以降の感染者数の増加を見れば、なんとなくウイルスが変異したのではないかと疑わせるが、それを確かめるには、少なくともゲノムを調べることだろう。COVID-19のゲノムなんて塩基数にして3万ほどだから、すぐに解析できるはず、と思っていたのだが、いつまでたっても報道がない。ところが、海外ではランセット(The Lancet)など、さまざまな学術誌にウイルスのゲノムを解析した論文が掲載され始めた。~ウイルスが拡散するには複製する必要があるが、その際にランダムにコピーミス(突然変異)を頻繁に起こす。おそらく、より生存力が強くなったウイルス株が生き残っていくのだろう。さらにヨーロッパでは国を越えて移動するうちに、さらに突然変異したウイルスが広がっている。論文などでは毒性の比較までしていないので不明だが、イタリアやスペインでウイルスが猛威をふるっているのは、武漢のウイルスが突然変異してより強毒になったせいではないかと考えられる。アメリカには、初期に中国からウイルスが広がったが、それとは別ルートで、ヨーロッパで感染拡大していたウイルスが、さらに突然変異を起こしてアメリカに伝染している。アメリカは複雑で、中国から広がった新型コロナウイルスと、ヨーロッパで変異した新型コロナウイルスの2系統があるらしく、交雑しながら感染爆発が起きていることがうかがえる。わずか2、3週間で、アメリカの死者数が中国を上回り、感染者数も中国の2倍を超えたのも、より強毒株になった可能性も考えられるだろう。つまり、武漢のウイルスは、東南アジアからオーストラリアに広がる一方で、同時期に突然変異して感染力が強くなったウイルスがヨーロッパで広がり始めたといえる。~では、3月24日前後に何があったのか。この前後、ヨーロッパから帰国した旅行者が新型コロナウイルスに感染しているころが発見されている。つまり、強毒株に変異したヨーロッパ型の新型コロナウイルスがまん延し始めたと推定できるのである。さらに悪いことに、ここ数日、アメリカから帰国した人からも発見されている。学術誌に掲載された論文では、毒性の比較までしていないが、もしも、3月24日以降に広がり始めたCOVID-19が、それ以前のウイルスがさらに毒性が強くなるように変異したウイルス株だったら、日本もイタリアやスペインのようにならないとはだれも保証できないのである。1鎖RNAのウイルスは常に変化しているのであって、いま、東京都を中心に感染拡大しているのは、これまでとはまったく違う可能性があることを知っていただきたい。医師たちが危機的状況というのはこういうことなのだ。さらに危機的状況を加速しているのが、日本の医療状況が公的病院の廃統合によって、いまやイタリアやスペインよりも充実しているわけではないことだ。日本集中治療学会のHPによれば、「ドイツでは人口10万人あたり29~30床であるのに対し、イタリアは12床程度です……(日本は)ICUのベッド数は5床程度です。これはイタリアの半分以下であり、死者数から見たオーバーシュートは非常に早く訪れることが予想されます」というから、かなり深刻な事態である。』

1本鎖RNAであるCOVID-19は宿主を渡り歩くごとにより生存に最適化するため容易に変異する可能性があるとの指摘だ。理屈としては同意せざるを得ない。ウイルスとはそうやって生き延びてきたのだ。

2020.04.07
ここにきて「新型コロナ」の日本人感染者が爆発的に増えているワケ
突然変異を繰り返し拡大
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71610

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