数字の見方、統計データの読み方について

今回は統計リテラシーについて解説します。

インターネットSNS上には真偽不明の情報があふれています。
実際のところ、テレビや新聞などの大手メディアでも科学的エビデンスや統計リテラシーを欠いた報道を時々見かけます。
特に、2011年3月11日の震災後、放射線被曝や健康被害に関する不誠実な情報が目立っているのには辟易してしまいます。

統計データの読み方、数値の見方をきちんと身につけておけば、そのような情報に惑わされることもないと思うのですが...

ここでは、例として震災から5年後の2016年3月11日テレビ朝日系列で放映された「報道ステーション」の「放射線被曝による甲状腺がん」の数字にトリックを取り上げてみます。

古舘伊知郎「一般的に18歳以下の甲状腺がんの方の発症率というものを見てますと、100万人に1~2人と言われております。2人で多い方をとってみても5年経過してますから、100万分の10人という事になります。それと比べましても、166人とは異常に多い数字という事が言えます」
(報道ステーション 「震災特集」2016年3月11日)

これについて説明すると、以下のようなになります。


今までに「100万人に1~2人」と言われていたというのは、「自覚症状があり病院で受診した人」且つ「嚢胞の見つかった人」で、さらに検査の結果悪性と診断された人の数なので、図の中で黄色と青色の重なりの緑色で示した部分になります。
それに対して、報道ステーションで報道されていた166人というのは、自覚症状の有無に関わらず全員を調べて「嚢胞の見つかった人」の数なので、図の青色と緑色の部分の合計です。

前者(緑)より後者(緑+青)の方が多いのは当たり前なので、番組内で述べられた「異常に多い数字」という表現に根拠はありません。


また、「甲状腺がんと判定された子供たちの人数はチェルノブイリと比較して多い」という話も、チェルノブイリでの50 mm以上の嚢胞が見つかった子供の人数に対して、今回はスクリーニングで10 mm以上の嚢胞が見つかった子供の数を比較しているので正確ではありません。

実際、番組の中で「調査の過程で見つかった一番大きな嚢胞は31 mm」と言っていたので、チェルノブイリでたくさん見つかっている50 mm以上の嚢胞を持った子供は一人もいないということになります。

正確な数字はわかりませんが、ざっくりと以下のようなグラフが描けます。

グラフの青とオレンジの濃い色で示した部分だけを比較して青の方が数が多いと報道すれば、不誠実な報道と批判されても仕方がないでしょう。


放射線被曝による健康被害であれば、被曝線量と人数の相関が認められるはずですが、番組の中でも報じられていたように「現時点では地域別の発見率に大きな差がない」という話なので、見かけ上 人数が増えているのは、放射線の影響というよりも全員を対象としたスクリーニング効果による影響と考えるのが妥当でしょう。
同様のスクリーニング効果による過剰診断の事例は韓国でも知られています。

情報を発信・拡散する側も受け取る側も、数値を比較する際には単位や集合を揃えるといった基本的なリテラシーは身につけておいてもらいたいものです。

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