名前

源氏名を名乗らない日々を久々に過ごした。

空を見上げてはその高さに慄き、地を見下ろしてはそのしぶとさにしゃがみ込む。ただただ視界は霞んでいく。
中動態という揺らぎのなかで行き来する鼓動は、肉体を纏って空間を漂う。

空を登る灰色を見送って、自分もいつかはああなるのだと、物思いに耽る午後。

いつだって曖昧なままの自意識は、名付ける事で輪郭を帯びる。

 名を呼んで 名を告げて 透明じゃない僕にして

自己意識と肉体の乖離を補うために、その現象にたいしての呼び名を付けた。
得てしてそれは様々な面で名詞となり、時には治療され、処方され、隠され、誰かにとってはアイデンティティにもなった。

人は何かに属している。集団、環境、生命体。性別。
属するなかで遣われている名を用いれば、意図も容易く認識可能となる。
その環境において。

現象としての自他。肉体との癒着。
それを一時的に放棄するということ。

そんなこと、できるかっての。

自ら決めた名で、自らを名付け、自らを呼ぶ。

認識の差異が溢れるなかで信じられること。
源氏名のなかの事実を守って過ごしていく。



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