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「◯◯とはどういうことか?」隠れた自分だけの問いを軸に、見る・聞く・話す。


こんにちは。私は紫原明子(しはらあきこ)といいます。

私はエッセイストとしての仕事の傍ら、2019年6月から「もぐら会」というコミュニティを主宰しています。もぐら会はもともと、世間に大発見されることなく、しかし必要な人だけが偶然迷い込めるインターネット世界の秘境として細く長く存続させたいと思っていました。そのため、この1年くらいは大きなお知らせを行ってこなかったのですが、あまりに発見されないのも問題なので、今回あらためてこの集まりについてお知らせし、10名の新規メンバー募集を開始します。

もぐら会を始めたきっかけは、ある媒体でお悩み相談の連載を持っていたときに、“友達がいない”、“友達ができない”といったお悩みが少なからず寄せられていたことでした。対面でも文章でも、日々たくさんの言葉を使って他人とやりとりしているはずなのに、友達と呼び得る人にはなかなか巡り会えず、いつも漠然とした寂しさを抱えてしまう人が少なくない。そういうことを知り、どうしてこういうことが起きるのだろう、どんなコミュニケーションを取れば、他人とのつながりを実感できるのだろうと考えているうちに、もしかしたら、他人に受け止めてほしい自分の形そのものが自分でもよくわかっていなくて、だからどんなに言葉をやりとりしても、どこかしっくりこないという感覚が残ってしまうのではないか、と思いました。

何をする集まりなのか

もぐら会の掲げるテーマは「話して、聞いて、書いて、自分を掘り出す」です。具体的には毎月1回、オンラインかオフラインで集まって、一度に5人〜20人くらいの話を、ただ聞く。自分の番がきたらそのとき話したいことを、ただ話す。それだけのことをやっています(これを「お話会」と呼んでいます)。話す時間は平均すると一人につき7〜8分くらい。全体の所要時間は、参加人数によって、2時間のときもあれば、4時間のときもあります。上手に話そうとする必要はありません、と最初にお話ししています。というのも綺麗にまとまった話、ためになる話、役に立つ話というのは私たちの生活の中に既に居場所があって、耳にする機会があります。だからこそお話会では、まとまらない話、誰の役に立ちそうもない話、社会の中にも自分の中にも、まだ置き場の定まっていない話を、他人の存在の力を借りながら取り出す、ということを試みています。お話会の中では、誰かの話を否定したり、逆に、励ましたり慰めたりということも、基本的にはしないことになっています。

私が普段書く文章の傾向のせいか、現在のもぐら会には女性が多めです。でも本当は、男性にももっと参加してもらえたらな、と思っています。目の前にいる人に向けて、仕事や家庭での役割をおろして、一人の自分としての言葉を発する機会というのは、案外少ないのではないでしょうか。今、子育てをしているお父さんであっても、子供はいつか巣立っていくし、今、仕事で責任ある立場にあるとしても、いつかその場を誰かに譲り渡すときがきます。そうなったとき、自分が空っぽになってしまわないように、何者でもない自分の所在を確かめておくというのは、決して悪いことではないと思うんです。

コロナ禍ともぐら会

もぐら会を始めた2019年6月は、まだ世の中がコロナ禍を体験する前でした。あの頃には、長く続く社会の枠組みが細部ではほんの少しずつアップデートされこそすれ、大枠としては絶対に揺るぎそうもないものとして頑なにありました。平日の昼間は学校や仕事に出掛けて、家に帰ればひととき自分の居場所がある。たまの休日には人に会って、会う人の中にはしっくりくる人もいれば、こない人もいる。大きな枠組みの中で生きていくにはある程度画一的な能力を必要とされ、とにかく忙しい毎日の中で、枠組みからはみ出てしまうような自分の特性や嗜好を、ゆっくりと顧みる時間をとることもままならない。3年前、私たちの多くはそんな日々を過ごしていたように思います。

当初からもぐら会のお話会では一切テーマを設けないことにしているのですが、それでも、”話して、聞いて、自分を掘る”という漠然とした作業がなんとなくうまく進んでいたのは、私たちがまだ知らない自分を見つけようとするとき、頑として揺るがない間口の狭い社会が、強力なカウンターになってくれていたからというような気がします。窮屈な社会にフィットしない感覚を頼りに自分を見つけるという作業は、思えばそんなに難しいことではなかったのです。

けれども2020年にコロナ禍がやってきて、私たちの日常は結構変わってしまいました。家にいる時間が長くなり、人によっては仕事もリモートワークとなり、プライベートではどうしても会いたい人には会って、新しい人やしっくりこない人に会う機会は激減しました。その代わりインターネットを通じて、遠いような近いような、不思議な距離の他人に触れる機会は激増ました。

社会の大きな枠組みそのものはやっぱり何も変わっていないけれど、枠組みの中での私たちの暮らし方は大きく変わりました。もぐら会も、当初はオフラインだけの集まりでしたが、コロナ禍を機にオンラインでもやるようになりました。これによって、東京の会場に集まることのできない遠い場所に住む人が参加できるようになったのは嬉しいことだった一方で、コロナ禍になってほどなく、お話会が急に難しくなった、何を話せばいいのかわからなくなった、と何人かの人が立て続けに口にすることがありました。

もともとはオフラインの会場で顔を突き合わせて行っていた集まりが、急にzoomの小さな画面越しになってしまったわけで、新しいやり方に馴染まないということも多分にあったと思いますが、でも、どうもそれだけじゃない気もしました。もしかしたら、じわじわと変わっていく世の中に少なからず関係がるのではないか、そんな気がしました。

とんでもなく窮屈で無慈悲ながらも、ここの大枠にくらいついていればなんとかなる……もしかしたらならないかもしれないけど、ぎりぎりなんとかなるだろう、と思わせていたのがコロナ前の世の中だったとすれば、コロナ以降の世の中では、暮らし方、働き方の融通が以前よりも少しは効きやすくなりました。と同時に、歴史やSFの世界の出来事だと思っていた非日常が現実に起こり得るのだと思わせる冗談みたいな出来事が、次々と身の回りで起きるようになりました。
縛り付けられることも減ったけれど、揺るがないと信じていたことも次々とぐらつき始め、世の中がどんどん不安定になってしまったので、私たちの日常には不安なことが増えました。だから、これまでと同じように強固な社会に声をぶつけて、弾き飛ばされたものを感じながら自分の形を探る、といったことも、次第に難しくなってしまったように思うのです。

軸を自分の中に見つける、持つ

そんなこんなで4月から、もぐら会の中で一つ新しいことを始めようと思います。それは、自分の中に、自分だけの問い「◯◯とはどういうことか」の◯◯にあたるものを見つけて、それをふまえてお話会に参加していただく、ということです。

以前、私がある媒体の取材を受けたとき、過去の失敗を3つ教えてください、と聞かれました。そのとき私は、子供の頃の失敗を二つと、大人になってからの失敗を一つ挙げました。記者の方に「仕事にまつわることではないんですね」と聞かれ、そのときに初めてそのどれもが、他人との関係性に関わることだったということに気付きました。ありとあらゆる失敗をしてきたはずなのに、仕事をするようになってもう結構経つのに、中でも特に忘れられないものとして残っている失敗が、その3つだったのです。

思い返すと私はいつも、そういうことにばかり気を取られてきたな、と思います。誰かと友達でいること、誰かと恋人でいること、誰かと同僚、夫婦、親子でいること。何かを見ようとするとき真っ先に人と人、自分と人がいて、あらゆる関係性の中にいつもどこか疑問や難しさを感じていて、だからといってそれを放り出すということもできず。だからこそもぐら会のお話会でも、人が集まったものの相互のやり取りはせず、ただ聞くだけ、話すだけという、他者との新しい関わり方を実験してみているようなところがあります。そんなふうに、自分がついやってしまうこと、うっかりやらかしてしまうことの中に、自分の感受性の軸のようなもの、好む好まざるに関わらず、逃れられない自分だけのテーマが隠れているのではないかと思うのです。そしておそらくそれは人によって全然違うんだろうな、とも思います。だからこそ、それをぼんやりとでも自覚した上で人と対峙すると、そこから感じ取るものも変わってくるのではないかと思うのです。

この上で重要なことは、自分だけの問いやテーマというのは、達成すべき課題や克服するべき弱さとは別のものであるということです。たしかに、失敗や苦い経験の近くに転がっているけれど、それは自分でコントロールできない偶然の状況が、自分でも意識しない理屈で動く自分を表出させて、問いが見えやすくなるからです。「◯◯できないのはどうしてだろう」と、自分を責めたり、向上させたりするために持つのではなくて、◯◯にまつわる全てのこと、うんざりしても尚付き合い続けていること、仕方がないのでもうその正体そのものを知るしかない、と思うようなこと。そういうものを自分の中から見つけることで、世の中を見たり、誰かの話を聞いたり、あるいはただ音楽を聞いたり、自然を愛でたりするときにも、そこから何かを感じ取る上での一つの強力な軸ができるのではないかと思うのです。

お誘い

こんな私の新たなる仮説をもとに、4月からのもぐら会では、月に1度「問い」を見つけるための時間を作ります。これもやはり、他の人の力を借りながら行う、ワークショップの形式にしようと思っています。きっと面白いと思うので、気になる方はぜひ、もぐら会に参加してください。突然営業が始まりますが、3月中に申し込みをしていただくと初月無料キャンペーン中なので3月分は無料となり、4月からの本格スタートにぴったりです。

……とはいえ、スケジュールが合うか不安な方もいらっしゃるかと思いますので、もぐら会の今後の主要な行事予定をお知らせしますね。

4/3(日)15:00〜 イベント:紫原の部屋“Cさんに聞く「つながりのデザイン」”
4/8(金)21:30〜 イベント:「◯◯とはどういうことか」自分だけの問いを見つけるワークショップ
4/11(土)11:00〜 <渋谷昼の部>お話会
4/13(水)22:00〜 <zoom夜更けの会>お話会
4/16(土)21:00〜 <zoom夜の部>お話会
4/19(火)21:00〜 <zoom夜の部>お話会
4/22(金)22:00〜 <zoom夜更けの部>お話会

5月某日 理化学研究所見学遠足
6月某日 京都お話会(予定)
10月某日 奄美お話会(予定)

※お話会へのご参加は月に1回です。お子さんを寝かしつけてから参加される子育て中の方のために、22時からの夜更けの会もあります。ご都合の良い回にお申し込みください。

もぐら会では定例のお話会のほかにも、私やメンバーの思いつきでさまざまなイベントが行われます。これまで知らなかった新しい自分と、自分の関心の外側にある新しい世界を、ぜひもぐら会で見つけていただけたらと思います。



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