とても気がかりな葛西という男
親が離婚してから団地に引っ越した
人生で一番長く住んだとこ
父親がいないこと、家にほとんど母親がいないこと、ケータイを買ってもらえなかったこと、全部全部恨んでいた
貧乏であることを恨み、金持ちを全員地獄に落とそうと考えていた
でも、銭ゲバというドラマを見てから、お金とか貧富の差にあーだこーだ言うのをやめた
お金に執着したらダメだ
小学校の時の自分はまだ人見知りじゃなかった
家にはいつも誰もいない
寂しさを埋めるように放課後はほぼ必ず誰かと遊んでいた
そのおかげか、団地の人たちとも学校の子たちともすぐに打ち解けられた
小学校のみんな全員友達だった
どんな人とでもうまく遊べた
(今では信じられないくらい人間不信で友達はほぼいない)
学校に友達はたくさんいたけれど反発することは何度もあった
恥ずかしながらケンカばかりの問題児だった
たくさん泣いたし、たくさん泣かせた
先生もすごく困らせた
だけど、その分いろんな経験を積んで、小学生のわりには人の気持ちがよくわかる、思いやりのある人間になれた
そのせいか、国語が一番得意だった
今では人の気持ちがわからなくなってしまい、一番苦手な分野になった
あの頃あった繊細さはのちに自分の首を締める縄となり危うく死にかけるところだったので生きるためにハサミでちょんぎったけれど、あの縄は使いようによっては生きる上でめちゃくちゃ便利だから絶対に切っちゃダメだめだった、うまくほどいて自分の武器にした方がよかった
授業中はよく絵を描いて回していた
みんなで描いて完成させる漫画みたいな
20世紀少年とでんじゃらすじーさんが好きだった
修学旅行では20世紀少年のお面を作った
その後、勝手に親に捨てられるとは知らずに
あのときはぶちギレたなー
逆のパターンもある
一回親のパソコンぶち壊して親が家から帰ってきた瞬間に「ごめんなさい!ごめんなさい!」って泣きながら何度も謝った
メンヘラ子供だったな
今もそうだけど、とにかくなにも知らない小学生だった
やっちゃだめだと教えられてないことはやっていいと思っていた
学校の近くのごみ捨て場のネットの上でジャンプして破ったり
駄菓子屋の前に置いてあるガチャガチャのカプセルの出口に腕を突っ込んでカプセルを引っこ抜いたりして校長室に呼ばれた
お金いれずにカプセル抜くのはもう万引きだよね
あれ思い付いた時自分のことちょっと頭良いと思った(小学2年生)
万引きを最初に思い付いた人も自分のことをちょっと賢いと思ったのかな
普通にいじめてたし、いじめられていた
自分が通ってた小学校では
回覧板みたいにいじめられる番が順に回ってきた
基本的にクラスのみんなに好かれてるとか女子にモテているとか勉強ができているとかなにかしら調子が良いやつはいじめられる
自分がいじめられたとき
放課後、教室から逃げて誰もいない図書室に隠れたけれど、追いかけてきたいじめっ子たちに見つかってしまい、絶体絶命のピンチ、周りを囲まれて行き場を失った俺は、まだなにもされてないのに絶望的なその状況から予測できるこれから巻き起こる惨事を想像して涙があふれでてきた、そんな俺が取った生き残るための選択とは素直に本心を打ち明けることだった。「仲良くしようよ!」と何度も泣きながら訴えるとその想いが伝わったのか、本当に仲良くなれて、いじめを完全に回避できた
そんな感じで小さい頃は泣きまくってたなー
小3の時、大きなマンションが山ほど作られて、校舎に生徒が収まりきらなくなり、学校に新しくプレハブ小屋が作られた、小4からそこが僕ら学年の教室になった、プレハブの入り口は引き戸になっている、授業が始まるチャイムが鳴ったらみんな教室に戻る。誰かがその引き戸を締めて鍵をかけたら、外にいたやつがガラスを素手で殴って引き戸をぶち破って中に入ったことがある、なんでもないやつだったのに、その日で伝説になった。結局引き戸を締めたのは山登りでうんこ漏らしたことあるくせにカーストは上にいると思い込んでいて権力者には逆らえないが下のやつには暴力をふるうなどして強く当たり他人の気をひくためにお菓子を配りお金が足りなくなったら親の財布から金をくすねとる、中学でのちに俺と同じサッカー部員になるやつだった。本当に傲慢で哀れで害悪でしかなかった、たとえ性犯罪絡みで捕まっていても腑に落ちるくらい極悪非道な人間だったけれど、風の噂によると今そいつの方が社会的に俺より上らしい、人生って本当に面白い
授業中に外抜け出して近所のコンビニにジャンプ読みに行くやつがいた、先生に注意されたら拗ねてプレハブの真横にある体育館に飛び移ってそのまま屋根の上に登り昼寝していた
そいつは別の区分ではあるけれど団地住まいだったからなんとなくシンパシーを感じていた
とても暴力的なやつで、小学校の頃は何度ケンカになったのかもわからない
そいつは右利きなのに右手に時計を付けていた、ケンカの時、利き手を左手に見せるためだった
卒業文集にはみんなの将来の夢が載っていた、そいつは「PSPを買う」と書いていた、中学2年くらいでその夢は叶えられていた
中学に入ってからも会うたびに僕らはいがみ合っていた
だけど、ある時から、そいつは急におとなしくなった
高校からは別々になった、風の噂で友達とカラオケ行ってると聞いた、高校から友達がほぼいなくなった俺より人生を楽しんでいることにびっくりした、最後に会ったときは確か、医者になるとか言っていた
会いたいけれど、あいにく小中の連絡先を持っていないから出会うことはできない
だから今何をやってるかも知らない、医学部に進学できたんだろうか、なにやってんだろうか、わからないけれど俺よりうまくいってるといいな
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そいつは問題児だった。ある日、そいつの母親が死んで、荒々しさが以前より増した。だけど、中学に上がってからは問題をそれほど起こさなくなった。衝撃的な出来事がきっかけで、人は壊れたり、色々なことがどうでもよくなったり、人としての何かが欠落してしまうことがあるけれど、そいつはなんとか自分を立て直せていたと思う。不自然な演技をすることなく、そいつはそいつのまま、ちゃんと生きていた。それからどうなったかは知らないけど、狂って破滅せず、あの時のまま生きていてほしい。彼の名は葛西、とても気がかりな男である。
小さい頃からお金をもらうことが好きでした