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「風は西から」 村山由佳

居酒屋チェーン ワタミの過労自殺を題材にした小説です。村山由佳さんといえば恋愛小説、最近では官能小説、というイメージでしたが、今回の作品は今までとはちょっと違いました。村山由佳、やっぱすごい!という感じ。

大学の同級生の健介と千秋は、就職活動でお互いに食品関係を目指したことから意気投合し、付き合い始める。千秋は食品メーカーに、健介はカリスマ社長に魅せられ、大手居酒屋チェーン「山背」に就職を決める。入社5年目、健介は繁盛店の店長となるが…

前半は、千秋と健介の恋愛の物語が描かれます。責任感が増す仕事と恋愛のバランスを取るのが難しいけれど、相手との将来を真剣に考えている27歳の普通のカップル。同級生で同じ食品関係の仕事という立場だからこと、お互いに仕事の弱音を吐きづらいのもとてもよく分かります。そして、恋人の会社がとんでもないブラック企業であることに気付けない、気付いてもどう手を差し伸べればいいか分からないのも。

子供にとって学校が世界の全てとなってしまうように、社会人も会社の風土や文化に多大に影響を受けてしまうもので、どこまでが普通で、どこからが異常なのか分からなくなっていく様子も、死ぬぐらい辛いなら辞めればいい、という正常な判断ができなくなるぐらい追い詰められていく様子も、とてもリアルで読んでいて辛かった。

例えば誰か1人でも、気にかけてくれる人、相談できる人がいれば、結果は違ったはず。「遅くまで大変だね」とか、「無理しないで」とか、そういう些細な一言に本当に救われたりするものです。

ちなみにタイトルは奥田民生の歌。千秋と健介の思い出の曲です。本当に辛かったけど、読んでよかったです。

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