「ノースライト」横山秀夫

こういうミステリーが読みたかったんだよ~とニヤニヤしながら、一気に読んでしまいました。

建築士の青瀬は、吉野という男に切望され、吉野家のマイホームを設計する。情熱を注いで設計したY邸は、建築雑誌にも載るほど高い評価を得、施主である吉野もその出来栄えに感激していた。しかし、しばらくして青瀬がY邸を訪れると、そこには誰も住んいない。一家はどこへ消えたのか? もぬけの空となったY邸には、一脚の椅子だけが残されていた。

吉野一家が消えた理由。残された椅子の謎。青瀬の人生。別れた妻との過去。青瀬の元ライバルであり、今は雇い主となった岡野との関係。様々な要素が絡み合い、謎は深まり、思いもよらない展開へ。そして、最後は感動。1ページ目から、ぐいぐい引き込まれてしまいました。

ミステリーのカギとなるのが、ドイツ生まれの建築家、ブルーノ・タウト。本を読むまで全然知らなかったのですが、タウトはナチスの迫害を逃れるため、数年間、日本に滞在したそうです。桂離宮を「泣きたくなるほど美しい」と表現し、その美を再評価して世界に広めた人としても有名だとか。

ネットで調べてみると、タウトは京都にいた際、大丸百貨店の社長、下村正太郎の自邸である、あの大丸ヴィラに滞在したそうです。なんと…!

烏丸丸太町に建つ大丸ヴィラは、私の憧れの洋館です。レンガでぐるりと囲まれた壁も、そこに生えるツタも、庭の大木も、煙突も、窓の細工も、とてもロマンチックで、想像力を掻き立てられる建築物。前を通るたび、首を伸ばして中を覗こうとしてしまう。掃除婦としてでもいいから入ってみたい。あそこでタウトは寝泊まりしていたのか…。

ブルーノ・タウトについて知れたことも収穫でした。
こんな梅雨のジメジメした季節には、やっぱり読後感が清々しい本じゃないと。


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