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花束の最期なんて知らないまま

花束を喜べるのは、”今”を尊ぶ人間に限られる。
対して、”過去や未来”に囚われる人間にとって、花束は不吉だ。彼らは花束をいずれ捨てなければいけないものと認識する。
”今”の人間は楽観的なことが多く、世間に淘汰されやすい。私は淘汰される。”過去や未来”の人間は悲観的なことが多く、世間の波に呑まれやすい。僕は波に呑まれる。

人間は枯れた花をなかなか捨てられない。割り切れない。まだ、この日々に彩を添えてくれるんじゃないか?枯れた花に水を与え続ける。花の根は腐る。
花屋は花の捨て時を教えてはくれない。花を贈る人間にも分からない。
神様が人間に恋を与えたとして、恋の終わりを教えてくれることはない。神様さえも、この恋の幕切れを知らない。

いま花を手に取り向き合う。花のむこう、ゴミ箱は日常の臭いを吐き出す。
花びらには苦労の皺が彫られ、葉は何かに怯えるように縮みあがっている。カサカサと渇いた花は、手のひらから心の潤いをも奪っていく。

いつか次の花を迎えるために、花瓶を空けておかなければならない。花瓶に水を入れておかねばならない。

「別れよう」
乾いた唇で呟いた。



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