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イタリアひとり旅④ ヴェネツィアと初めての夜。

人間は道に迷うと左に進もうとする、らしい。

ヴェネツィアで一番有名な場所、それはきっとサン・マルコ広場とリアルト橋だと思う。
名所だし、街角のいたるところに落書きのような矢印や看板が描かれているので簡単にたどり着ける。

そう思っていた。

現実はそんなに甘くはないのである。
歩けど歩けどそれらしいものは何も見えてこない。人は迷ったら左折してしまう。某有名漫画に出てくる理論である。ヴェネツィアの路地は迷路のようなのだ。左折し放題だった。
到着初日、ホテルの位置もあやふやな方向音痴の私が、なんとなくでたどり着けるはずもない。当然である。
散々迷いに迷って、路地を歩き回り、やっとの思いでサン・マルコ広場の入り口をくぐることができた。

感無量であった。

やっと到着できた達成感を噛みしめながら目にしたのは、広がるモザイクの石畳とどこか見覚えのある風景だった。
映像でしか見たことのなかった風景の中に立っているという事実に心が震えた。
広場にはカフェから流れる楽器の音色が響き、異国の言葉が聞こえてくる。とてつもない感動に浸りながらジェラートを食べた。ここのジェラテリアでは奇跡的にイタリア語を理解することができた。サン・マルコの魔法だったのかもしれない。読めた単語は「ティラミス」だった。間違いない。美味しい。

幸せに浸りながら、露店を冷やかしたり海や広場を眺めて過ごした。

その後もめちゃくちゃ迷子になりつつジェラートを食べ、なんとか日没前に溜息の橋やリアルト橋など観光名所をぐるっと回り終えた。

そしてつぎの問題が立ちはだかる。


夕食の調達をしなければならないのだ。

ホテルには朝食しか付いていない。なので自力で昼夜の食事を調達する必要がある。
しかし私はもうすでに散策しながらジェラテリアを3軒もハシゴしたのだ。買い物なんて怖くない、と意を決してスーパーへ。外食をする勇気はまだない。
機内食で軽く胃もたれしていたため、出来合いのサラダとおそらく生ハムだと思われる肉、チーズ、水、そして多分ビールと思われる缶を購入した。文字は読めないがなんとなく勘で選んだ。

ホテルに帰ってのささやかな晩餐は至福のものであった。

山盛りのサラダにチーズと生ハムらしき肉を山盛り乗せ、オリーブオイルと塩でいただく即席の夕食。
疲れた体に染み渡るおいしさである。生ハムのような肉は、日本で食べるものより味が濃く旨味が凝縮されていた。

そしてビール。ビールである。ビールと読めないが確かにビールだと飲む前からわかるのだ。醸し出される雰囲気はもしかしたら全世界共通なのかもしれない。そして、冷えた缶のプルタブを引くあの高揚感も、1日を締めくくる晩酌の幸福感も、きっと万国共通に違いない。


明日は念願のゴンドラ乗船が待っている。

期待に胸を膨らませながら、アルコールの誘う眠気に身を任せて眠りについたのであった。