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イタリアひとり旅⑤ 海と、ゴンドラと、私。

波音はいつも、懐かしさと寂しさを運んでくるような気がする。

ヴェネツィア2日目。
午前中は町中を歩き回って過ごした。サン・マルコ広場の鐘楼にも登ったし、いくつかの教会にも入った。もちろんジェラートも食べた。
鐘楼からは街が一望することができ、遠くの島まで見渡す事が出来た。本当は別の島にも行ってみたかったのだが、水上バスに乗れる気がしなかったため諦めたのである。

歩き疲れるとサン・マルコ広場へ足を運んだ。

日陰を見つけて腰掛けながら、ジェラートを食べ、波音やカフェの演奏に耳を傾ける。時々鐘の音が聞こえてくる。贅沢な時間の過ごし方だったと思う。
イタリアまで来てそれでいいのかとも思ったが、それでいいのである。無理はしない。
身の丈に合わせた旅を楽しむのだ。


そして、夕刻、ゴンドラに乗る。

ゴンドラ乗り場には予約済みの人たちがたくさん並んでいた。よくわからないが旅行社からもらった予約券を持って並ぶ。
ゴンドラはどうやら10隻近い数でまとまって水路を進むようだった。


いよいよ乗り込む、そんな時ゴンドラの船員に「1人なのか(意訳)」と聞かれた。ちょっと鼻で笑われた気もする。
なんだか少し恥ずかしい気持ちがした。
だがそんなことを気にするくらいなら、そもそも一人旅なんてしないのである。思い切りドヤ顔で頷いてやった。お一人様ですが、なにか。

船上での時間は素晴らしいものであった。

傾いた日差しに照らされる水面。
響き渡るゴンドリエーレの歌声。
心地のいい波音。
のんびりと流れる時間。
乗船時に沈みかけた心がふわっと軽くなる。
初めて訪れる異国の地にも関わらず、不思議とどこか懐かしく感じるのはなぜだろうか。
この時間が終わることがとても寂しかった。
永遠に続けばいいのに、とすら思った。

しかし空腹には勝てないのである。

船を降り、ノスタルジーに浸り夕暮れの街の散策した。しかし次第に夕食のことで頭がいっぱいになる。食い意地の張り具合は一級品である。ホテル近くのピザ屋で一番美味しそうに見えたピザを1ピースとワインの小瓶をテイクアウトし、ホテルで夕食とした。

明日にはヴェネツィアを離れなければならない。ほんのりとした切なさと、次の都市へ向かう期待とをワインで飲み込みながら眠りについた。

次の目的地は、屋根のない美術館、フィレンツェである。