自分史的なクリッピング史料

今日も北朝鮮はミサイルらしきものを発射し、EEZ外に落下したとかしないとか。アジアの緊張は続く。日本の大学で教える中国人の教授は中国帰国後行方がわからなくなっている。そういえば未だ日本企業の方が中国に拘留されている。スパイ容疑等とは日本にいればなかなか実感がわかない。こういう地政学的な学びも実は若い層には必要なのじゃないかと思うけど、学校ではどんな教え方をしているのだろうか。地政学を学ぶことは哲学や宗教、地理学を総合的に学ぶことになるのかも知れない。企業だとリスク管理で、カントリーリスクのレーティングをしていたりする。リスク管理とは結構あてにはならない。他国で何かをやろうとすれば勿論のこと、日本国内であっても地域ごとに必ずリスクが伴う。天候や政変、テロなどは自分の思考のコントロール外にある。かつてミャンマーが開放路線に向かおうとしていた頃に関わったことがあるけど、結局再び軍事政権となり開放路線に水がさされたことがあったのは苦い思い出。勿論予見などはできなかった。

2024年4月16日 朝日 明日へのLesson
各地で交易 北前船が育てた富と文化

前段はさておき、国内で若き日本の受験生にはどんな問いが投げかけられているのだろうか。冒頭で日本海に面する地域は太平洋側に比べて過疎化が進む、で始まる。でも歴史をひもとくと、海上交易によって豊かな富はもたらされた時代があった。今年の都立高校入試問題から日本海側地域の可能性を探ろうという論考。

歴史学者・網野善彦は海に関わる生業に注目して日本社会を捉える「海民論」を提唱した。その論拠の一つが能登の戦国時代以来の豪農である時国家の文書だとある。網野は時国家が廻船や製塩、林業など多角的な生業を営んだ立派な企業家だっと見ている。江戸後期から明治にかけては、時国家など多くの能登の商人が蝦夷地や樺太に赴いて北前船で財をなしたという研究者もいる。

北前船の西廻り航路(日本海側航路)と東廻り航路(太平洋側)を江戸時代前期に整備したのが、河村瑞賢(問題文に出てくる)。伊勢の貧農から身を起こし、江戸で財をなした材木商。海上交通の基盤づくりは幕府の命によるもの。高校教科書では河村瑞賢は太字で表記され、暗記必須の人物のよう。

航路整備の目的は年貢米を安定的に運ぶため。幕府や諸藩は年貢米を換金するため大坂や江戸に輸送した。西廻り航路は酒田から佐渡島、能登半島などを経由して、下関で瀬戸内海に入って大坂へと。江戸中期には蝦夷地まで北上する「北前船」が航行することになった。北前船は、もともと北陸の商人が蝦夷地でとれるニシンを魚肥として大坂に運ぶことから広がっていった。

運賃をもらって年貢米を運ぶだけでなく、自ら商品を仕入れて売りさばく「買積」と呼ばれる海上交易が広がっていったとの解説。たくましい商魂。値段の地域差を利用した取引でもうけを出すという基本中の基本。但し当時のハイリスク・ハイリターン取引。こうなると蝦夷地と大坂だけでなく様々な港で取引が浮かれ、その地域の特産品が売買されたと。教科書によっては「食文化」に果たした役割もあったと記載されているらしい。

北前船がクローズアップされたのは1990年代以降。要は郷土史的な視点ではなく、全国的な経済への影響を与える活動だという認識が芽生えたというところだろうか。戦後の歴史学ではマルクス主義の影響で生産を重視する傾向が強かったけど、マルクス主義の見直しで流通への関心が高まり、大きな利益を獲得した北前船の商業活動が認知されていった。

寄港地の自治体の連携もあって日本遺産としても認知されたとある。そんな北前船も陸上輸送の発展で大正には姿を消した。ここで問いが記される。今学ぶべきことはあるのか?

北前船の船主たちは地域に根ざした産業の発展にも貢献したとあるので、ここらあたりが焦点。例えば富山県は米どころでもあり、北前船主は自分でも耕地を所有していた。北海道から魚肥を運んできたけど、やがて人造肥料を地元でつくるようになる。即ち、農業の生産性向上、化学工業の創出、といった地域貢献・いわゆるエコシステムを確立していたということだろうか。

工業化に偏ることなく農業と工業は連携してバランスよく発展を遂げた。SDGs的には地域の自然環境をも包含した持続可能性の成長スタイルは、今の世の中にも広く求められる望ましいもの。そう、こういった地域の背景を知ることで、それがなぜなのかや何をもたらしたのかなどを考える契機にもなる。とはいいつつ、現在の地域間格差は地方対首都圏(特に東京)に集約されていて、地方・地域ごとの連携というのも勿論どこでも検討或いは実行しているのだろうけど、地域にバランスを求めるだけではダメで、基本的な要素は何か、地域的な特異性は何か、競争の源泉は何かなど、たくさん思考をめぐらさなければならない。でも何か解決策はあるんじゃないかなと思っている。

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