自分史的なクリッピング史料

GWも今日が最終日。一昨日いち早く小旅行から帰宅したけど、それでも結構高速は混んでいた。景況感や円安基調も続き、節約志向の旅行を心掛けた人も多いとメディアでは盛んに報じている。ちょっと昔にも流行った「安金短」なのだろうか。いずれにしとも、リフレッシュとリラックスをこの時期に満喫される方は多い。日常的にもっと、工夫を凝らして、この時期だけに限らず、通年で穏やかな日々を過ごしたいと思いつつ、ストレスはひょうんなことからも生じるから計画的にとまではなかなかいかないだろう。

2024年5月6日 朝日 心の中の街に刻む「記憶術」 桑木野幸司 阪大教授

冒頭では昨今昭和レトロがブームなのだというから始まる。そういえば、息子たちもやたらと昭和の歌謡曲というかポップスとかを聴いている。竹内まりやなどもシティポップの一角としてアジアでも流行っているとちょっと前に耳にした。桑木野先生は冒頭部分に次いで、都市景観の均質化が進み、昔ながらの風景というものに哀惜もあるのだろうとコメントされている。建物が一つ姿を消すたびに、大切な記憶もまた失われ、心象風景は書き換えられてゆくと。

記憶は、場所や身体感覚と強く結びついている。例えば、過去の経験と場所は強固に結び付けられているらしい。ところが、昨今では当然にスマホやPCという仮想空間に誰もが膨大な記憶を預けていて、情報とリアルな場所が乖離させられている。それはAIやVRの進展で更に加速化する。

次のパラグラフで、先生は、「街並み・記憶・仮想空間」、この3つを巧みに活用した摩訶不思議な術が、西欧の古代世界に存在した、と興味惹かれるテキストが。これ即ち「記憶術」という術だと。要は情報を視覚化し、場所と結びつけるということらしい。心の中に普段見知った建物の空間を刻み付け、次いで、覚えたい事柄を映像化するという手立て。更に戦争なら「兵士の姿」を、平和なら「白い鳩」といった具合に絵文字を作り、これらのイメージを仮想建築内に一定の間隔で置いてゆくとある。心の中で空間を巡り、イメージに出会う度に、その内容を取り出してゆけばよいらしい。非常に原始的な手法ではあると思うけど、当時は紙も貴重だったから、最先端な方法であったのだろう。このイメージは不要になれば削除され、新たなイメージに置き換えられたという。

この「記憶術」は中世を経て、ルネサンス時代に華麗な復活を遂げ、当時、西欧における情報爆発時代において、更に改良が加えられたとある。とにかく有効的であったことは間違いなさそうだ。街には中世までの建築とは打って変わって壮麗かつ多彩な建物や施設が、古い街並みに交じって出現した。そして膨大な情報と物が高速で行き交うようになる。そこで人々は効率的なデータ管理に迫られ、心にというか脳内に信頼できる記憶空間を宿し大切なイメージを作り上げ、固有の物語を紡いでいくことになる。

携帯に格納している写真等は、AIによって、「〇年前の思い出」等々、勝手にリマインドしてくれてその時々の思い出を喚起してくれる。でも違いは脳内に格納したイメージではなく、今ではすっかり携帯に頼りっきりになってしまった。写真はその時のリアルを正確に映し出してくれるけど、物語を紡ぐためのイメージ図までは付加されてはいない。まあでもテキストベースで記憶を残しておくことはできる。

かの「記憶術」は紙の低価格化や出版文化の発展にともない忘却されていくと書かれている。でも先生はこの「記憶術」は古くて新しいとして現代の都市文明の在り方を再考させてくれる貴重なヒントが詰まっているとおっしゃっている。要は豊かな記憶を脳内にとどめていくことで、それぞれの歴史や昔への回顧などが有意に利活用できると。例えば認知症のケアとかにもいいと。古い建築の移築による冷凍保存的な施しではなく、脳内に格納したイメージを次の世代に伝えてゆく有効な手段を手放してはいけない、ということで締めくくられている。これは歴史的な考察においても、後々恣意的に改ざんするようなことにも歯止めをかけることができるとも。

スマホを見ながら下を向き続ける生活から、今目の前にある風景を心に刻みこむことはどうかと提案されている。まさにその通りだと思う。ついつい下を向きがちな生活様式を質すことに、実はリフレッシュやリラックスにもつながっていくと思うから。

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