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NEUTRINO は VOCALOID ではなく、楽器でもない

どうも、源武 (Genbu) です。

2020年も始まり、音楽業界では 20年代 の領域に入りましたね。

さて、私は NEUTRINO という、まるで VOCALOID のような「歌声合成ソフトウェア」に出逢ってしまいました。それを体験して、こう思ったわけです。

これは VOCALOID ではない。また、楽器でもない。」と。

なぜそう思ったのか。今回はそれについてお話ししようと思います。

NEUTRINO とは?

2020年2月21日、NEUTRINO という、歌声合成ソフトウェアが産声を上げました。

それまでは、「VOCALOID」や「UTAU」などが歌唱合成ソフトウェアのスタンダードでした。これらのツールには、ある特徴を持っています。それは「調教ができる」というポイントです。

調教 は、クリエイターが歌い方に個性を持たせるために必要な作業でもあり、醍醐味でもあります。

聞こえはいいのですが、これは一方で問題を抱えていました。それは「調教が難しい」ということです。この作業には高度な技術と経験、時間が求められます。

つまり、今までコンピュータで上手に歌わせるためには、果てしない労力が求められた、ということです。


そして2020年に登場した「NEUTRINO」は、この問題を見事に解決しました。

その特徴は、歌声や個性を学習 しつつ、さらに 楽譜から歌い方を推定 した上で歌ってくれることがポイントです。

これが何を意味するか。それは「調教が必要ない」ということです。

もちろん、ある程度なら調教を行うこともできますが、それをせずとも高い表現力を備えるようになったのです。

VOCALOID の特徴の裏にあった問題が解決し、ボーカル作りに対する果てしない労力から解放されました。

これは何を意味するか。コンピュータが「ボーカリスト」として成り立つ、ということです。

※ 調教:歌声を調整すること。調声ともいう。

NEUTRINO が楽器ではない理由

前提として、まず VOCALOID は「楽器」です。私の感想ですが。

先述の通り、VOCALOID は調教という概念があります。このおかげで、特定の歌声の「個性」を生み出す過程を、クリエイターに委ねることが出来ました。

これは何に似ているかというと、音楽制作における レコーディング作業 において、楽器をプロデューサーの指示通りに奏でる奏者 です。

当然ながら、VOCALOID に奏者はいません。なので、プロデューサーが譜面を入力し、調教することが必然となるわけです。これは良くも悪くも「楽器」の特徴です。


では、NEUTRINO はどうなのか。

正直なところ、私はこのツールを「楽器ではない」と思っています。

なぜなら、「NEUTRINO そのものが個性を表現できるから」です。

NEUTRINO には「学習」と「推定」という、2つの概念があります。

もちろん VOCALOID と同様「歌声」を持つことができますが、決定的な違いは「誰が個性を握っているか」というポイントです。

VOCALOID は、歌い方の癖などの個性がクリエイターに委ねられていることにより、1つの歌声から様々な個性を生み出すことができます。

しかし、NEUTRINO は違います。歌声ライブラリから 歌い方を自己学習し、かつ譜面から歌い方を推定した上で歌唱すること ができます。

この時点で「NEUTRINO が個性を握っている」のは自明です。

VOCALOID 同様、これを 単なるツール として捉えてもいいでしょう。

しかし、歌声を聴いてしまえば、もはやNEUTRINO が本質的には ツールであること すら疑ってしまいます。

NEUTRINO が起こした革命

このツールが起こした革命。

それは、コンピュータが単体で「個性」と「感情」を表現し、歌えるようになった ということです。

私が初めて NEUTRINO を知ったときは「AIきりたん」という歌声ライブラリの歌声を聴いたときでした。

そして、こう思ったわけです。「これはもう、機械の域を超えた」と。


実は、幼少期に VOCALOID の歌声を聴いたときも、耳を疑いました。

しかし、今になって気付いたわけです。その歌声は、クリエイターによって生み出されたものだったと。

人間 が歌った場合、ただの歌詞と楽譜であっても、歌声に「個性」と「感情」を込めることができます。

しかし、VOCALOID 単体では、それができません。個性と感情を持たせるためには、クリエイターの技量が求められるのです。

では、NEUTRINO はどうか。歌声に「個性」と「感情」が込められています。また一歩、人間 にできることが、コンピュータにもできるようになったのです。


ところで、私は「機械が感情を持つ」という表現を、好ましいとは思っていないのです。

AI(人工知能)を題材とした創作や議論において、毎度毎度「機械が感情を持つ」という事ばかり言うものですから、正直うんざりしていました。

しかし、私は NEUTRINO の歌声を聴いて、不覚ながらも機械が「感情を表現できるようになった」と思いました。

これは、NEUTRINO の歌声ライブラリである「AIきりたん」を用いて パプリカ をカバーしたサンプルです。

このサンプルには、NEUTRINO が表現した「子どもならではの楽しさに満ちた感情」が込められている、そう感じました。

そして、私はこの歌声に涙しました。なぜなら、機械が感情を表現した瞬間を目の当たりにしてしまったからです。


初めてコンピュータが歌唱したのは、1961年のことです。IBM 7094 というコンピュータが「DAISY BELL」を歌った出来事がありました。

それから59年後の2020年、ついにコンピュータが、自発的に歌に対して感情を込めて歌うようになった のです。

ここまでの過程において、2004年の VOCALOID の登場は大きなものでした。

そしてついに「感情表現」を手に入れたのが「NEUTRINO」なのです。


これからの「機械の歌声」のありかた

今までの機械の歌声には、良くも悪くも「不自然さ」が残っていました。

その不自然さを演出できる表現力を持ちながら、人間の歌唱力に肉薄する可能性も秘めた VOCALOID は、これからも機械の歌声の代表格として君臨し続けるでしょう。

そして、NEUTRINO が誕生した今、機械の歌声から「不自然さが消える」という大きな到達点を迎えました。

今後、NEUTRINO が進化・発展すると共に、機械の歌声がどこまで進化するのか、そして、NEUTRINO がどのようなポジションに立つのか、非常に楽しみです。

NEUTRINO の開発者である SHACHI 先生に深い敬愛と感謝を申し上げると共に、今後の活躍に期待しております。

それでは。