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指揮者修業、その5

指揮をするようになってから、愛好家のアンサンブルの指揮や、プロの指揮
など様々なレベルの指揮を見ていて色々な事に気が付きます。

メインの旋律を両者が振っていても明らかな違いがあって、愛好家のアンサンブルの指揮は旋律に対して「ここはこう歌って!そうここは~」と自身の歌いまわしを伝える事に必死ですが、プロの指揮者は旋律に対して周りの細かい音型をメインに聞きながら振っていることが多いのです。
たとえ目が旋律を追っていても棒は伴奏を、その逆もしかりで棒が伴奏を振っていても目が旋律をと明らかに飛行場の司令塔のような相互の情報を瞬時に交換する役割を果たしています。勿論オケのレベルでもこれは変わるのでしょう。

愛好家のギターアンサンブルではトップの人が歌い始めるとそのパートが付いていき、その旋律をあまり聞いていない細かい伴奏がパート内で直ぐに乱れ始めます。理由は簡単でその細かい伴奏を揺れ始めた旋律を聴きながら弾いている人と、聞かないでテンポの通りに弾いている人の誤差が出始めるのです。こうなると私はもう旋律を耳で聴きながら、その歌いまわしを全て伴奏に棒で伝える事に専念します。

本番が終わって少し面白いのが、この旋律の揺れに気が付けなかった奏者の方は打ち上げで「あそこシキが先生急に遅くしてびっくりした~!」と話しています。私はその場で素晴らしい歌わせ方を伝えるバーンスタインやカラヤンのような巨匠の指揮者ではないので、ひたすらアンサンブルの崩壊を避けた危機管理のつもりなのでしたが(笑)

大学のギター部でも同じような事が起こります。その時期によって部員の数は変化しますが50人を超える事も。その人数で最初の合わせになるともう皆さん無我夢中で特に音符が細かく譜面が黒いところは赤い布を見て興奮した闘牛の様に必至で弾きます。勿論互いのパートが何をしているのかなどは、まだ音も聴けないので想像も出来ません。
ここで、分奏をしたり(人のパートを弾かないで聴くと他のパートが何をしているのか良くい分かりますよね)各パート練習でこの場所で何をしているのかを確実に認識して、どの役割を今現在自分のパートが担っているのかを理解して貰います。

ギターは指で弾弦する楽器でロングトーンが出ませんので、旋律が2分音符で伴奏が16分音符のアルぺジョだったりするとダイナミクスも聴きにくいですし音量バランスが悪いと2分音符の旋律はなにも聴こえないのです。

このような曲で一度こんなことがありました。白玉の旋律を弾くファーストを無視してセカンドが16分音符のアルぺジョを勝手に弾いています。
あまりにずれるので一度止めて、「セカンドはどうしたのかな?」
と聞くとパートリーダーが「ファーストが全然聴こえないのです!」
「ではファーストだけで聴かせて貰おうか」で皆で聴くと「え!こんなことしていたのですか?しかもpで白玉で!」「では何故聴こえないかわかるかな?」「もしかして私達の音量が大きすぎるからですか?」「それも要因の一つだけれど、まず聴く気がないといけないね」で音量調節した後で、
「ファーストは白玉でもダイナミクスを付けて歌いたい。でも音は伸びにくいし、ここでのトレモロ奏法は合わない。でどうしようか?」
「え!シキさん、もしかして私たちがそのダイナミクスを担ってアルぺジョを弾けばよいのですか?」「おぉ!いいアイディアだね。試してみようか?」元々ギターの発音は強すぎる状態でロングトーンを弾くと波形が急な山形になって、旋律として繋がって聴こえにくいこともあり、ある程度抑えてビブラートをかけたほうが良いので、やっとこれで全て解決しました。
やはり、細かい音型で弾くのに夢中で周りの音も聴く気が無かったら、
アンサンブルは出来ないですよね。

そしてこの手の場面になると、思いだす昔イギリス人ギタリストに聞いたオールドジョークを思い出します。

エレベーターに乗ったら先客の紳士がシルクハットまでかぶっているのに
両耳にバナナを差し込んで牛の角のようになっています。
あまりに不思議なので「すみません、失礼ですが貴方は何故バナナを両耳にさしてらっしゃるのですか?」と聞くと、聞こえなかった紳士は直ぐにバナナを取って「失礼!バナナを両耳にさしていたのであなたのお話が聞こえませんでした!」
最初にこのジョークを聞いた時には、この話のどこが面白いのか分かりませんでしたが、今ではこのアンサンブルの状況になるたびに、心の中で思いだし笑いをしています。

続く




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