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    日記のようなエッセイかもしれません。自由に書きます。

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    短歌まとめです。何気ないこと、人間のこと、つぶやくような短歌です。

最近の記事

詩「リーラの詩」

甘美な風に誘われて わたしいま藤棚の下 生キャラメルに凝固した 香りを一身に受けています 最後に見たあなたは 絶望のスポットライト浴びて 力なく笑っていました 脳みそのしわに吸われたその相はリフレイン 花序のゆらぎは振り子のよう 記憶のしっぽが遺影になって この藤の花をレイにして 石のようなあなたにかけましょう たぶん涙もこぼさないと思います はたまたすべては石であり花であるため わたしは呼吸も深く安堵するでしょう わたしがあなた以外に没頭すれば あなたはわたしを赦して云う

    • 詩「いのる」

      言葉よ 詩(うた)よ わたしは口ずさむ わたしの白くすべやかな命が やがて花弁の結晶となって あなたの心に芳香を満しますように あなたから頂戴した水菓子が わたしの喉をたしかに潤したとき わたしは無始無終の祈りに至りました 気流よ 風よ わたしは沈黙する わたしの永遠を約束された命が やがてテトラポッドに寄せる波となって あなたの心にワルツを宿しますように あなたから頂戴した綿菓子が わたしの心を温かく包んだとき わたしは無始無終の祈りに至りました ーーーーーーーーーーー

      • 詩「外道ら」

        横浜線の三人掛けシートの隅っこで 花見名残の缶酎ハイ飲むおじさんと 春月下風邪を拗らせて咳き込む私は 忌むべき存在として生きる仲間なり なんてったっておじさんも私も臭い 誰も座らぬ隣の席に透明のたれぎぬ 花も散り月も隠れたのにこの二人は いつ迄も肩身を狭くして揺れている 言葉も視線も交わさぬまことの同盟 世界よこの外道らを見放し給え頼む

        • エッセイ「青春考」

           青春というものは煙草の煙のようなもので、熱を持って現れ、蛍のように明滅したのち、灰白色や藤色の煙となって立ち昇る。刹那との別れを惜しむように、ゆっくり昇った煙の香りは人を選ぶ。その匂いは服や毛髪にこびりつき、当事者の未来になんらかの存在感を仄めかす。  「生涯青春」というスローガンに立ち会った時、私はそのスローガンを掲げる人々の矛盾や葛藤に気づかされる。かく言う私もその人々うちの一人である。「生涯青春」は私の解釈によると(簡単に言えば)若かりし頃の向上心を忘るべからず、とい

        詩「リーラの詩」

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        • 51本
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          7本
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          13本

        記事

          詩「欠片」

          鏡の世界へ沈んでゆく ゆくゆく自分を見失う予感 響きが両耳を貫く音叉 飴細工の気泡を僕は喰む コード進行に任せておけば 僕は僕のまま君の元に辿り着くだろう 鸚鵡の頭に一輪の薔薇 アスファルト敷き詰めた街を 僕はただただ踊り進むよ 足首に鈴をつけて 君は気づいてくれるかな

          詩「欠片」

          エッセイ「年度末」

           今日は3月31日。  2023年度が終わる。振り返ってみれば、不甲斐ないことばかりだった。昨年4月、学生時代から熟されていたはずの夢を呆気なく手放して、その脆弱な夢のなれの果てを見届けた。覚悟のできない自らに対する失望とやるせなさで、移住先の桜が嫌になるなほど眩しかった。家族や友人たち、受け入れ先の応援や支援を簡単に無碍に気がして、苦しかった。悲しそうな顔をさせたし、悲しそうな声も聞いた。それから私は言い訳のような詩歌を沢山作って、自らを慰めるしかなかった。どんなに恥ずか

          エッセイ「年度末」

          詩「夜静か」

          夜は静か 何も聴こえぬ 空間に満たされる静か コンビニのドリンク補充 嵐が去って草熱れは 春の芝に立ちこめる 浮いては沈み現れては消える 爪上の花畑に注ぐ星々よ その発光信号で伝えるは いよいよ春の訪れか 静かな夜は我の正体を暴く 何者でもない我という正体を 合わせ鏡に吸われた白い肌を 御伽話の山猫が喰らう定めに 呼吸を止めてただ慄けばよい

          詩「夜静か」

          エッセイ「春嵐」

          ◯春嵐や散らす花びら罪の数  今宵の嵐、この世界で散った全ての花弁が、私の罪の数だと思おう。  明日の昼頃には、嵐の名残が澄んだ風となって、私に世界中の花弁をもたらす。私は全ての花弁を一枚一枚拾い、ベッドを作ろうとするだろう。二度目の夢を見るための、まだしっとりしたベッドだ。  私の夢は常に緊迫感があって、起きると大抵疲労している。  今日二度寝して見た夢は時間にまつわるものだった。内容は忘れてしまったが、登場人物が多く、スペクタクルな舞台装置と複雑なストーリー性があ

          エッセイ「春嵐」

          詩「不均衡」

          私は無鉄砲で貴方は思慮深い 私はうどん派で貴方はそば派 私は裸眼でもよく見えるが 貴方は洒落た眼鏡をかける 私はブルックナーが苦手で 貴方はブルックナーを愛していた 昔貴方は無鉄砲なうどん派のフリをした でも眼鏡をかけてブルックナーを愛す 昔私はブルックナーを聴きそばを勉強した でも視力は保ちやはり考え無しの無鉄砲 積み木のバランスで調和の構築目指した 過去世からのすれ違いを勘定に入れずに ある日貴方の誠実を裏切って 私は自らの影からも遁走した 時間が和解に導く前に 私の

          詩「不均衡」

          詩「花」

          行き場のない人たちは 街角の掃き溜めに咲く 一輪の寂しい花のよう 寂しさの分だけ力強く 寂しさの分だけ美しい お弁当箱のような庭で 出会った喜びに腰掛け 別れの挨拶に傾聴する 春の雨に唄えばそれ丈 人生それ丈で良いのだ 手放すか抗うか自問し ただ通行人に微笑する 蜜をば蜂にくれてやれ 動けぬ場所で時は流る 誰人にも摘まれない花

          詩「花」

          短編小説「春と餓鬼」

           春の嵐。雨は広重。そう、直線の趣き。雷は僕の空腹にどかんどかんと轟く。  昨晩、最後のパスタ、ひと束茹でた。これで食糧は底を尽きた。せっかくだから、オリーブオイルを回しかけ、塩胡椒を少々。それでトロウという名の味に仕上げた。冷蔵庫の奥に萎びたミツバのカケラを見つけたので、葉の部分をちぎってパスタにかけた。決定的な蛇足。  そんなパスタを昨晩食べ切ったから、今日の僕はまだ朝から何も食っていない。水分も摂っていない。僕は蛇口を撚れば飲み水の出る国に居るわけだから、水分は摂ろうと

          短編小説「春と餓鬼」

          エッセイ「光景」

           今日は仮病を使ってアルバイトを休み、ファミレスで読書に勤しんだ。読んだのは太宰治『走れメロス』(新潮文庫)に収録されている『東京八景』だ。  私は太宰を読むとせいせいして心が軽くなる。「太宰は暗くて、呑み込まれてしまうからいけない」と昔母が言っていたのを思い出すが、それは私が太宰に触れるときの感覚とはほぼ対極のものであった。語れるほど作品を読み込んだわけではないのだが、彼の生まれ持った道化としての才能は作品の随所にきらめいている。彼は徹頭徹尾、道化である。彼は「俺を笑ってく

          エッセイ「光景」

          短歌2022.4-猫の闘病と死-

          生きるたび腹は起伏すされど喉は鳴らさぬ小さな命 消えかけの灯火に丁寧に美しき油注いであげたし 春の夢よ生死を無邪気に彷徨える君の姿に少し笑えり 喉鳴らす力も尽きてただ眠るうつつの対義語は死なのやも 愛猫の命尽きんあたふた涙ばかり涙ばかりの夕べ 命とは尊きもので平等なものと命が一匹言うた 若き君と死の淵の君どちらも君ずっと生きなん吾は君と なきがらを撫でし手のひらに生命の芳香はいまだ宿りたり 君の命は日の出の星と同じなり知らぬ間に息吹はめぐる 新緑は美し風光る

          短歌2022.4-猫の闘病と死-

          詩「ゆくえ」

          瞬く間のすれ違いと わたしの間違えた舵取りで 八分音符のフレーズがaccel 火花の柳が風に散り散り あとは煙たさが頭に漂う わたしはもう誰とも会うことがない 正面から衝突して差し違えたふたり はなから何も望んではいけなかった 隣で笑った神様はかつてのまぼろし 喫茶店の角で温かなアールグレイを 臓器を潤すものがいつだって本物だ 加速した日々はただわたしを破滅に導く もう会えない人よ 貰うばかりだったわたしを どうか許しておくれ あなたの生きている証すらもう霧の中

          詩「ゆくえ」

          詩「澱」

          今日もまた安い嘘を叩き売り 釦の掛け違いを繰り返す わたしたち海の澱みたい 何もかも手放した澱みたい 誰かの落とした雨色のガラス片は 偽物の水晶みたいに鈍かった わたしたち海の澱みたい 重油にまみれた澱みたい 鏡だと思うほど愛憎はシーソー 出会いも別れも透過した夢 わたしたち海の澱みたい 汚くきれいな澱みたい

          詩「澱」

          備忘録「おそろしいもの」

          下り階段 友人の裏垢  電車とホームの間 無理矢理笑う人 背中の凹凸 綺麗な歯並び 踏切のカンカン 女同士の目配せ 取れかけの釦 麒麟の毛並み  水浸しのコンセント おじさんの額の皺

          備忘録「おそろしいもの」