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1番の罪は何だろう

私が幼い頃、小学校の時間割には必ず道徳があった。
今はどうなのだろう。普通の公立学校でモラルや人間性を教えたり語ったりする場はあるのだろうか。

私が教える私立校では低学年も高学年も道徳の授業は組み込まれていない。(アメリカ東で歴史を教えています)
その代わり、かどうかはわからないが、色んな授業のなかで時には意図して時には偶然に人間の在り方や欲望や煩悩や親切心などについて話し合う機会がある。

先日、放課後9年生の留学生たちが私の教室で行われている補習に、一緒に文学の課題を読んでほしい、とやってきた。

彼らが読んでいたのはダンテの神曲・パーガトリー(煉獄)で、一昔前の国語辞典ほどの厚みがある。この厚みだけで生徒たちはちょっと怯んでやる気をなくしている。さらには中世のキリスト教は未知の世界であり、そもそも宗教自体が異なる子供たちばかりで、物語を読んでいても なんで??? となる部分が多いのだろう。文化・言語の違いは道徳のあり方に大きな影響を与えるだろうから仕方がない。

ちなみにパーガトリーPurgatoryを簡単に説明すると、カトリックの教えでは人の死から天国や地獄へ行くまでにある道のりで、ダンテはこの世での罪を悔い改め清めるために7つの大罪を克服するステージで苦悩する人々を書いた。
神曲はこのパーガトリーを挟んで天国と地獄の3冊から出来ていて、詩中には三位一体を示唆する3の数字があちこちに散りばめてある。

パーガトリーのステージは7つの罪を犯したものが、その罪に相応しい罰を与えられ罪を清められる。たとえばGluttony・暴食ステージは、食べてはいけない果物を我慢したり、Sloth・怠惰では一生懸命走ったりしなければならない。

麓>Pride・高慢>Envy・嫉妬>Wrath・怒り>Sloth・怠惰>Greed・貪欲>Gluttony・暴食>Lust・愛欲>山頂
この順番で煉獄の山を登る。

まだ14歳の生徒たちはそれぞれのステージで課される罰や償いを”罪に見合っていないのではないか?”と疑問に思いながら、現代ならどの罪が一番重いのか、そしてこれに一つ加えるとしたらどんな罪なのかを考えて文章にしなければならない課題について話し合う。

みんなで一つずつ自分たちの解釈でどの罪が本当にやっかいな罪(笑)なのかを考えてみることにした。

愛欲>別に悪くないんじゃないの?ただ相手を傷つけるならよくない、不倫とかさ!

暴食>食べ物を粗末にしなければいいんじゃない?全部食べるなら。でも体に良くないね。病気で死んじゃうかもしれない。食べられない人がいるのに独り占めするのも最悪だ。

貪欲>SNSとかでブランド物とか見せびらかしてる人たくさんいるよね、恥ずかしいけど人に迷惑かけなければいいんじゃない。うざいからブロックするけど。

怠惰>みんな楽していい点取りたいよね・・・笑、だけどダラダラしてると報酬がないのは自分だから自業自得。

怒り>意味もなくキレ散らかす人は友達も信頼もなくすから自業自得。

嫉妬>誰かを羨ましく思うことはあるけど、対象を憎んだりわざと馬鹿にしたりするのは恥ずかしい。そもそも他人と比べるのは馬鹿馬鹿しい。

高慢>これはどこまでが良いプライドでどこからが高慢なのか難しいね。他の人を蔑むのは最低だね、でも自分に自信がある人はそもそも他人を蔑まないんじゃない?


シマ先生はどの罪が一番重いと思う?

そんな問いに私は即答した。 ”嫉妬”

嫉妬は社会で生きている限りどうにも避けられない、しかも自分自身では”意味不明”な部分に嫉妬して敵対心をむき出しにされたり、嫌味なことを宣言されたり、八つ当たりにあったりして迷惑なことこの上ない。
自分自身の嫉妬心はなんとか制御できても、他人の嫉妬ゆえの嫌な気持ちは免れられない。他人と比べる自分を客観視するのは難しいがため、たとえ迷惑を指摘しても”これは単なる意見”と問題を理解してもらいがたい。
赤の他人も親友も家族に対しても嫉妬する人間がいるのだから、もうこれは世界共通・老若男女問わずユニバーサルな罪だと思う。
さらには一人の、一つの嫉妬をやりすごしても、また違う嫉妬の対象になることが多く、それは万人に起こり、永遠に繰り返される。
嫉妬の対象になるとこちら側でコントロールできることは全くなく、どうにもならないのでダンテのように”まぶたを縫い付けられる”という罰は相応しく思える。

そんな私の説明に生徒たちは ほーーーー っと感心し、全員がプリントの空欄に ”一番重い罪、嫉妬” と書いた笑。

おい、それはまさに怠惰の罪ではないのか。

通りすがりの科学の教師が教室の窓から顔を出し大きな声で叫ぶ

”シマ先生のところ、またたくさん生徒が来てるんですね、いいよな〜歴史は!楽しくお喋りが補習だから!実験の補習に来る生徒は皆無ですよ!お前たちも一回も来たことないんだから明日はこっちに来い!”


彼が去った後に9年生全員が大きな声で笑った。

”本当だ、嫉妬が一番めんどくさい”

シマフィー




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