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誰にでも出来る簡単な仕事はない、って話 (again)

庭のタンポポを見て思い出した。(*アメリカ東在住です)

“タンポポを刺身トレーに乗せるだけのお仕事です“

本当にこんな求人が出ている・出ていたのか、ネットで目にしただけなのかわからないが、私はそんな仕事もあるよなぁ、誰かがタンポポ乗せてくれないとお刺身トレーがさみしいし、と思っていた。

この一文だととても簡単で誰でも出来て、だから時給が低い、ような印象を受ける。ベルトコンベアーで運ばれるか、隣の人から出来上がった刺身のトレーを ほいっほいっ と送られるかはわからないが、字面だけ見るとこのお仕事はひたすらタンポポを所定の場所に乗せるだけでいい、簡単楽チン誰でも出来る な仕事だと思われるはずだ。
そう思わせたいからこそ ”乗せるだけ” という表記をするのだろう。

海外を転々として仕事をしていた私は東南アジアの学校をやめ、ある冬に日本に帰国した。ダイビングで出会った、のちに夫となる彼(日本で仕事をしていたアメリカ人)に “辛かったら日本に帰っておいで” と優しい言葉をかけてもらったからだ。
私が勤めた学校は一言で言うと学生と先生の扱いが酷い最低の学校だった。
教師の指導とカリキュラムの改善をする立場の仕事だったが、授業を見学したり生徒の話を聞いたりするのが苦痛なほど壊れている学校で、私は最初のひと月で
ここの改善はオーナーをクビにしない限り無理だな と悲観していた。

そんな学校を4ヶ月でやめ、日本に帰ってからは彼の小さなアパートにお世話になりつつ仕事を探す日々を送ることになったのだが、日本で仕事を探すのは30半ばにして初めての経験だった。
履歴書を書くのも勝手が違い戸惑うことばかりで、何を書けばいいのかアメリカ人の彼に指導される始末だった。
正直、日本に長く住むことはないだろう、という立ち位置だったのできちんとフルタイムで就職をしようとは考えておらず、これまでの経験と学歴を生かせるアルバイトがあればそれで十分嬉しいと思っていたが、それでもかそれだからか、なかなか見つからない。

自分の貯金が減って行くばかりなので、1日とか2日とかの単発のアルバイトに申し込むことにした。何とかというフリーの求人誌を駅で貰い、何件か電話してみたのちに工場で1日働くことになった。

アイスクリームの工場のアルバイトで、何をするのかは求人からは不明だったが、私以外にもその日限りの日雇いバイトが5名ほどいたので “簡単で誰でも出来る仕事“ という位置付けだろうと思う。
お昼休憩を30分はさんで8時間、時給1000円だった。

最初は久しぶりの仕事、初めての工場、アイスが食べられるかもしれない、誰かお友達が出来るかもしれない、とワクワクしていた気持ちだったたがそれも1日目が終わる前に 簡単にお金は稼げないんだ と実感した。

寒い部屋に立ちっぱなし、誰とも交流できず、短いお弁当の時間が唯一座れてほっとする時で、きちんと指導もされないまま、ちょっと遅れればラインの主任に大きな声で怒られ、流れてくるアイスを凝視しつつ手早く箱詰めし、形の悪いのを一瞬で見極めて弾き、単調な流れに乗れず、乗ったら乗ったでその変わらないリズムが永遠と思えるほど終わりなくアイスが流れてくる・・・・・
8時間頭の中で歌でも歌いながらやればいいや〜なんて呑気に構えていた自分を呪いたいほど疲れた1日だった。

何かをするだけの簡単な仕事はない
それがどんなに簡単に見えても、誰にでも“出来る” と言われ、“スキル”がいらないと謳っていても、何かをする“だけ”で誰にでも出来る楽な仕事はない

頭や心や体は軋み、その仕事に付随するあらゆる懸念や心配事、例えばこのお給料で生活できるかとか人間関係が苦しいとか、他に自分に合う仕事はないかとか、いつ昇給できるかとか子供の迎えに間に合うかとか、そんなことを苦しく思いながら手を目を頭を動かし続ける・・・誰にでもできることではない。

アイスクリームの工場もこれまでにやったあれやこれやの海外での仕事も、誰かが書いた”仕事内容”だけではなく、関わる全てをひっくるめて比較すると、どれも総合値は同様に “簡単ではなく誰にでもは出来ない” のが正解だと思う。

アイスクリームの工場へは4日行った。
その間アイスクリームを食べたのは0回。
その後もしばらくアイスクリームを買う気持ちは起こらなかったしコンビニであずきバーを手にとっても ”この一本のアイスが手に入るまでに寒い中長い間作業した誰かがいるのだ” と何となく申し訳ないような気持ちにもなった。

この “アイスの魅力を見失う” のも私にとってはこの仕事が簡単で誰でも出来て楽チンなお仕事ではなかったことの証明だった。

職業に貴賎なし、本当の本当。

シマフィー

*去年の今頃書いた記事を編集・校正・追記して再掲しています。



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