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ファンクラブ(会員2名)

私はアイドルでも女優でもないがなぜだか熱烈なファンがいる。(*アメリカ東で教師をしています)

"Miss Shimaaaa, I love you!"

毎日顔を合わせるたびに何度も彼らは叫ぶ。
時にはハグしにくるし、キャンディをくれたり、キャンディをおねだりしたりもする。

一日一度は私がどんなに美人か、笑顔が素敵か、握った手の肌がソフトか(笑)を情熱たっぷりに訴える。
遠くに見えた時には両手でハートを作り頭上に掲げる。
もし動けるのならその場でぴょんぴょんして見てもらおうとアピールする。

全校集会で私がアナウンスをすれば非常に大したことない内容、例えば再テストを受ける人は3時までに必ず来ることとかシェルターに寄付する古着を持ってきてくれとか、でも立ち上がって大きな拍手と指笛で盛り上げる。

まだ9年生、秋に新入生で来た時から6月末の先日の学年末まで、なぜだか私を気に入ってくれこの1年間私の毎日を盛り上げ続けて来てくれた。

会員2名のファンクラブを作り“ファンクラブミーティング”と称して放課後の補習に来る。二人とも成績優秀なので特に補習はいらない、ただおしゃべりしたり一緒にボードゲームをしたりしに来るのだ。

彼らは南米からの留学生。一年の予定でアメリカの高校体験をしにやってきており、それはもうすぐ終わろうとしていた。
二人とも親御さんにここで卒業したいと何度も掛け合ったが学費が高いことと、やっぱり可愛い息子を手元に置いておきたいのとで、延長は叶わなかった。

ファイナルテストが明日で終わるという木曜日、カルロスとロヘリオは神妙な顔で私の教室にやってきた。

”ファンクラブ、会員を増やそうと思う”

これまで1年間、このファンクラブは僕たち二人だけのものだ、他のメンバーはいらない、と頑なに 会員数2名 を守ってきたのだが、二人ともいよいよ帰国の時となりこのままファンクラブがなくなるのは嫌だと考えたらしい。

まぁ私はアイドルではないし生徒はファンではないのでファンクラブが無くなったところで日常は変わらないのだが、彼らは真剣だった。

”もう新会員は一人決まってるんだ。中国人のリュー君”

”インタビューもして、彼がミスシマの大ファンだってちゃんとわかったんだ”

”9月までにリュー君がもう一人会員を見つけると約束してくれた”

教師が辞め新しく赴任する人に引き継ぎをする時、こんなにも真剣に将来のことを考えてくれるだろうか。

彼らは一体何の使命感か知らないがまだ14歳の精一杯でただの教師である私を応援し続けてくれた。恥ずかしいやらくすぐったいやら、それでも大きな声でアイシテルーと言ってくれ、素早く駆け寄りぎゅっと抱きつくのは可愛い。

二人とも気にしてなかったかもしれないし、気づいていなかったかもしれないが、笑顔でポジティブで可愛らしい様子は周りの生徒や大人の笑顔も増やした。

”シマは特別だから、来年もファンクラブがあるようにと思って”

特別なのは君たちだった。どんな形であれ愛情を表現するのが大切なのだとまだ14歳なのに理解して、たとえ自分の機嫌が悪くともポジティブなエネルギーをいつも発していた。
学校最後の日、一緒に写真を撮ろうと駆け寄った二人はいつも通りの満面の笑みではなく、恥じらうような困ったような笑顔で写真に収まった。

”1年間、楽しかった!来てよかった!また遊びに来る!”


会員数2名はそのままのファンクラブは続くが、やっぱり彼らがいなくなるのは悲しいな。

シマフィー



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