『Dr.STONE』は「失敗する科学」を描いているのがいい
アニメ『Dr.STONE』の第3期が始まりました。
たまたま第1期の初回放送を見て、「あれ、これめちゃくちゃ面白いんじゃね?」と思って、ずっと見ています。
『Dr.STONE』とは
全人類石化によって文明が滅んだ世界で、科学少年が知識と知恵を使って文明を取り戻していく、というストーリー。最初は石器による木材加工から始まり、火薬、抗菌剤、電話、気球などを作っていきながら科学文明を築き上げ、現在放送中の第3期ではいよいよ石化の謎に迫っていきます。
このモノづくりがとてもいい。主人公の千空がもっているのは知識のみ。いくら知識が豊富でも道具や材料がないとモノは作れない。だから、道具や材料を作るところから始めるのが、本当に人類が文明を開拓していくのを早送りで見ている感覚になるのです。
ジャンプらしい、いわゆる「友情・努力・勝利」の要素があり、そこに科学によるクラフトアドベンチャーが加わることで、石化世界というファンタジーだけど科学要素があるという、今までになかったジャンルとストーリーが本当に面白いと感じています。
石化も、ファンタジーで終わらせるのではなく、「ファンタジーに科学で勝ってやんぞ」というセリフがあるように、ストーリーが科学ベースで進んでいくのが僕の職業柄とても気に入っています。
主人公が万能ではない
マンガやアニメの主人公は基本万能です。なぜなら主人公だからであり、主人公だからこそ難題をクリアして、そこに読者は爽快感を得るわけです。
千空も、科学の知識については万能で、それを武器に仲間を引っ張っていきます。ただし、それ以外の能力、例えば体力や手先の器用さについては、そこまで高くありません。大量の材料づくりでへばっている描写がよくあります。
だからこそ体力自慢や細かい手作業が得意な仲間としっかり役割分担するというシーンが多くあります。航海に出るとなったら、千空自身がリーダーになるのではなく、航海士となるべき仲間を探します。このあたりのチームビルディングというかマネジメントは現実世界でも見習うところがありそう。
「失敗する科学」を描いている
もうひとつ、『Dr.STONE』を気に入っている点は、「失敗する科学」を描いているところ。
千空が最初に火を起こそうとして、摩擦熱の原理で木をこするのですが、これがうまくいかない。なぜなら千空は万能ではなく、単純な体力で火が出るほどの摩擦熱を出せるわけでなく、手先が器用でないからコツを掴むこともできない。つまり、千空のやり方は「失敗」したわけです。
そこで千空は植物から紐をつくり、木の棒を紐でくくって回転スピードを出すことで、ようやく火起こしに成功します。「紐切り式」とよばれる方法です。
ついこの前のアニメ第3期でも、パンをつくろうとして丸焦げになってしまい、とてもではないけど食べられない、だから一流シェフを探そうという流れになります。
こういう、失敗をステップとして描いているのが、本当に科学そのものでうまく取り入れているなあと思います。科学は天才一人が閃きだけで切り開くものではなく、失敗を積み重ねて得意分野が異なる多くの仲間とともにコツコツ進んでいくモノです。これを端的に表現したセリフがあります。
そう、クッソ地道です。仮説と実験を繰り返し、何十回、何百回と失敗して、それを足場とすることでようやく、一回の成功に辿り着くことができます。もちろん実際の科学(研究)はもっとハードモードで、成功かと思ったものが違っていたということも珍しくありません。だからこそ一人の天才が切り開くのではなく、多くの人で検証し合うというプロセスの上に現代の科学は成り立っています。そういうところも『Dr.STONE』から感じ取ってほしいなあと思います。
マンガ『Dr.STONE』は全26巻で、7巻61話まで無料公開されています。ぜひに。
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