「ねえ、なんであたしって、こんな、生きてるだけで、
　疲れるのかなぁ。

　あんたが別れたかったら別れてもいいけど、あたしは
　さ、あたしとは別れられないんだよね、一生。

　いいなあ、津奈木。
　あたしと別れられて、いいなあ。」

-------------------------

鬱病の寧子(趣里)と、彼氏というより同居人と呼ぶ方がふさわしい、津奈木(菅田将暉)。
真冬の夜の屋上で、寧子が全裸で泣き叫びながら放ったこの台詞が、鮮烈に残ってる。

過眠に躁うつに、心も体も制御できないせいで、普通の人が出来ることが自分には出来ない。
何をしようとしても思うようにいかない。
そうやって主人公がもがき苦しむシーンが多くて、見ているのが少し辛かった。
そしてそれほどに感情を揺さぶる、趣里さんの演技が圧巻だった。
アカデミー賞新人俳優賞を受賞されてたけど、いやこれは主演女優賞だろ、と個人的には思う。

もう一つ、原作の中の好きな台詞に、
「あたしはもう一生、誰に分かられなくったっていいか
　ら、あんたにこの光景の五千分の一秒を覚えてもらい
　たい。
　あたしがあんたと繋がってたと思える瞬間、五千分の
　一でいいよもう。」
というのがある。
これは、"富嶽三十六景の波は5000分の1秒を切り取ったもので、それを可能にしたのは富士山と北斎の心が通じ合ったからだ"という寧子の主張に起因している。

最初のと同じく屋上で全裸の台詞なのに、映画ではすっ飛ばされてた。というか富嶽三十六景のくだり自体全く触れられなかった。
だから、映画観てから原作を買って、表紙に富嶽三十六景が描かれてる意味が初めは全然わからなかった。
尺の短い映画では脚本に限界があるんだろう。
でも映画のEDテーマが『1/5000』で、この意味を汲みとれるのは原作読者だけかと思ったら、ちょっと嬉しい。
あと、フィルムで撮られてて赤と青を基調とした一つひとつのシーンが絵になって綺麗だったから、やっぱ映画化したのは大正解だと思う。