モノクロだった僕の大学生活とこれからの社会に大切なもの。

僕の大学生活は退屈だ。建前上は自分で選択した授業を履修しているのだけど、結局は卒業のために出席しているから熱が入らない。あまりにも暇すぎて教授の顔を眺めていると、視界がぼやけて肉まんにしか見えなくなってくる。

よく見ると、頭のてっぺんから上に向かって数本の白髪が伸びているのがわかる。この白髪が肉まんの湯気で、ふくよかな輪郭はたっぷりの肉が詰まった具材だろうか。夏が終わり、これからますます涼しくなると思うと、僕は無性に肉まんが食べたくなった。

「はい、今日の授業はここまで。」

肉まんの掛け声で我に返る。どうやら僕は完全に寝落ちしていたらしい。寝ていたことがばれると肉まんが怒りで温まってしまうので、僕は速やかに教室を出た。

僕の大学生活はこんな風に何も生産性がないことの方が多い。毎日の授業に意味があるのかと自問自答を繰り返すが、卒業したいから問答無用で授業には必ず出席する。根は真面目なかもしれない。

しかし、昨日は違った。いつものモノクロの日常がカラーになる出来事があったのだ。もはやハイビジョン、超高画質、マジ4K!という具合に、世界がまぶしかった。せっかくだからその情景をここに書き留めておきたい。

昨日もいつも通り気の抜けた顔をしながら大教室に入る。本当は授業開始時刻と同時に入室するのがベストなのだが、余裕をもって家を出たからか15分前に到着した。暇すぎる。教室を見渡しても数人しかいないようなので、いつもより教室が広くなったように感じた。寂しい。誰か僕の相手をしてくれ。

この授業の教授は背が高くてすらっとしたおばさんで、いつも奇抜な服をおしゃれに着こなしている。パリコレ以外で見たこともないような緑のコートを上品に着こなしているときはさすがに敬服した。だから僕はひそかに教授のことを「エルメス」と呼んで崇拝している。

教室の端で授業の開始を待っていると、一緒に履修している友人がやって来た。僕は寂しがり屋を友人に悟られたくないので、「よっ」と短く声をかけて席を空ける。すると、何やら友人の後ろにいた見たことない人がペコリと僕に向かって頭を下げてきた。

おっと身構えるぜ。オレの友達はオレが知らない友達を連れて来たというわけね。つまり君は友達の友達になるわけね。あ、オレの前に座るのね。うっす、よろしくだぜ。

少しだけ背中がムズムズするような感覚を覚えながら、僕はワイルドによろしくを言うことができた。授業は一緒に受ける知り合いが増えれば協力プレイができて有利だし、なにより心細さを感じない。僕だって本当は仲良くなりたいし、友達だって増やしたい。

打ち解けてみると、彼は交換留学でうちの大学に来ている台湾人だとわかった。彼が話す日本語の上手さから、超優等生の雰囲気を感じる。話題が固すぎると盛り上がれないと思ったので、彼とは「臭豆腐マジ臭いよねトーク」でお茶を濁す。話がなかなか盛り上がり、僕らの絆が臭豆腐で結ばれたとき、彼は僕に留学生の友人を紹介したいと言ってくれた。

お、おお。もう何でもコイや、出てこいや!の精神で僕は気さくにOKした。

すると、彼の前にいた女の子がくるっとこちらを振り返り、軽く会釈をした。え、2列まえにいたのか。2列前だと少しだけ会話するのが難しくなるけどな。ええんかそれで。

彼女も台湾から来た留学生で、話してみるととても元気な女の子だった。お転婆という言葉がいい意味でよく似あう。彼女とは「下北沢の古着トーク」で盛り上がった。まだ日本に来てから1か月も経っていないのに、彼女はここまでディープな会話ができるまでに成長していた。台湾のお転婆娘は元気に下北の古着の話を熱弁した後、こう言った。

「せっかくだから私の友達を紹介したいねん。」

僕はもう何も動じなくなっていた。まるでイギリスにいる貴族がティータイムで紅茶を飲むように「どうぞ」と軽く答えた。その時の僕は水筒にいれた温かいほうじ茶を飲んでいた。

するとお転婆娘は隣の席の女性に声をかけた。その人がまたこちらに振り返って会釈をする。

いや、せめて一気に自己紹介してくれ。こんな一人ずつ友達が増えていくスタイルだと、こっちも自己紹介する手間がかかって面倒だ。もちろんそんな野蛮な言葉を留学生に浴びせるわけにはいかない。あくまでもこちらは紳士として対応する。

紹介された女性は韓国人だった。肌が白くて綺麗な女性だ。僕はここぞとばかりに「TWICE」への愛を熱く語ったが、「あまりアイドル詳しくないですぅ」と一蹴された。彼女も日本語が上手かったからきっと優等生なのだろう。優等生だとアイドルの番組を見ないのだろうか。悔しい。

授業が終わった後、彼女はもう一人だけ留学生の友人を紹介してくれた。僕は完全に悟っていたので、友人が増えることに素直に喜んだ。ここまで異文化に触れあうと、人は自然と殻を破れるのかもしれない。

僕たちはこの一時間であっという間に国際的なコミュニティを形成した。そのまま授業の終わりとともに定食屋へ足を運び、グローバルな食事会を開催した。お互いの国についての質問を投げかけ、少しでも異文化を理解しようと励む。

韓国人の女性は、反日感情が強く残っている韓国人はとても感情的な人が多いと言っていた。台湾人のお転婆娘は、台湾人は親日で日本が好きな人が多いけど、日本のビールは苦くて飲めないと言っていた。台湾人の男性は、兵役制度があるから1年間は自由がない生活をしたが、それが貴重な体験で楽しかったと語っていた。

それでも、日本に来ている留学生全員に共通していたのは日本が好きだということだった。みんな、日本の文化が好きでアニメやドラマを熱く語っていた。もはや僕よりも詳しいくらいに知っている。留学生たちが日本に来て幸せだと語ったときは、なんだか胸がいっぱいになってしまい、そうでもないよ、そんなに日本はすごくないよと言ってしまった。別に僕が日本を作ったわけではないのに、偉そうに。

だから、これからの日本の社会はどうしたらいいのだろう。ここからは僕なりの願いになるのだが、複雑で難しい法律を作ったり、革新的な技術を開発するよりも行ってほしいことがある。それは隣国と仲良くなることだ。本当は隣国だけでなく、世界中の国と仲良くなることが理想だけど、最初は最も身近な隣国と良好な関係を築き上げてほしい。

必ずできる。僕は自信をもってそう言いたい。

なぜかって?

こんな僕でも、モノクロだった僕の大学生活をカラーにするほど色鮮やかな、そして個性豊かな友達の輪ができたから。きっといつか日本、韓国、台湾、中国、北朝鮮の首相たちが集まってティーパーティーを開くことだって夢じゃないと思う。たぶんその時は緑茶で乾杯しているのだろう。







これからの可能性に賭けてくださいますと幸いです。