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秋のエノコログサについて

夏のエノコログサはあんなに青々としていたのに、今ではもうすっかり白茶色に変わっている。

先日こちらの記事を拝見したら、エノコログサを初めとしたお庭の雑草を抜きながら秋の到来を感じた、という旨の素敵な記述を見つけた(ちなみに僕はこの方の文章の大ファンである)。

ちょうど最近、自宅の周囲で見かけるエノコログサの色が変わってきたなあ、と思っていたところだったので、自分でも少し調べてみた。

エノコログサというのは俳句の世界においては秋の季語なのだそうだ(不勉強ゆえに知らなかった……)。そして、エノコログサの「エノコロ」というのは「犬コロ(イヌッコロ)」がなまったものだという。あのふさふさの部分(花穂というらしい)が子犬の尻尾にみえるため、イヌコログサ→エノコログサとなったということだ。

昔の人が考える「犬コロ」とは?と調べてみたところ、柴犬や秋田犬などが日本古来の犬種であるという。確かに記憶の中の彼らの毛並みは、こんな白茶色をしていた。黒や濃茶色の毛を持つ個体もいるが、尻尾の白茶色の部分はやはり秋のエノコログサとそっくりである。昔から、犬の尻尾というのはああいう風にふさふさしていたんだなあ、と思った。

そう考えると、エノコログサが秋の季語というのも殊更に頷ける。僕は何故かずっと、夏の青々とした時期がエノコログサの「旬」だと思い込んでいたが、本当に「犬コロ」っぽく可愛らしいのは断然、秋の白茶色の時期である。

それに、夏の青々とした時よりも、秋になって色の抜けたエノコログサの方がどことなく、哀愁を感じる。まるで人間の「緑の黒髪」が年とともに色が抜けていくように、夏が過ぎ去ったあとに残されたエノコログサの色が抜けていく様子を見ると、肌寒い季節に漂う一抹の寂しさを感じる。俳句に取り入れたくなる気持ちが大変よく分かる。

また、エノコログサの別名は「ねこじゃらし」である。「エノコロ」の語源が「犬コロ」だと知って、犬が猫をじゃらすとはこれ如何に、と一瞬考えたが、あのふさふさと巻いた尻尾になら、猫がじゃれついてしまうのも無理はない。

そうして、白茶色の子犬の巻尾に猫がじゃれている場面を想像していると、何だか自分の全てが浄化される気がする。風流な上に可愛らしい、全くもって、ありがたいことこの上ない植物なのである。

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