見出し画像

ウクライナ危機で第2次リーマンショックは起こるのか(第2回)20220310

スマートバンクCFOの下河原です。
本日は、「ウクライナ危機で第2次リーマンショックは起こるのか」の第2回です。

第1回投稿: こちらです。
第2回投稿: こちらです。
第3回投稿: こちらです。
第4回投稿: こちらです。
- Twitter @Yshimogawara

前回のおさらいと今回の趣旨説明

前回は、リーマンショック時に流行っていた金融商品であるCLO/CDO(Collateralized Loan Obligation // Collateralized Debt Obligation)のコンセプトについて解説いたしました。
なお、前回はローンを用いて説明しましたのでCLOの解説になりました。中に入っている商品がローン以外にもあったりすると、CDOという呼び方になるだけなので、基本はCDOもコンセプトは同じです。

前回、CLO//CDOという商品を用いたことで
・エクイティ、メザニン、シニアなどに組み分けることでリスクリターンが異なる商品を開発出来た
・リスクの高い投資を好む人はリスクの高い商品を買うことが出来るようになり、リスクが低い投資を好む人は安全資産として高格付の投資が出来るようになった
・今までローンを引けないような人がローンを引くことが出来るようになった
などのメリットを説明しました。
今回は「なぜCLO/CDOという商品が、リーマンショックの引き金になったのか」という点に絞って解説したいと思います。

CLO/CDOが何故リーマンショックを誘発したのか

上記の通り、CLOという投資商品には、「シニア」という高格付の商品があり、Aaa(トリプルエー)という最上級格付を付与されていることが多かったです。
ちなみに格付機関としては最も権威があるとされているMoody's の格付ですと、今Aaaがついているのは米国やドイツですが、日本はA1 (Aaa/Aa1/Aa2/Aa3/A1の順)で、フランスはAa2です。いかにAaaのシニアのCLOが安全だと目されていたか、わかると思います。

さて、実はこのAaa格付が付与されていたシニア商品ですが、想像に難くない通り「そんなに安全ではなかった」というオチになります。理由は色々ありますが、私が考える大事なポイントは2つです。

① 中に入っている商品が何か分からずに投資されていた
前回ご説明した通り、CLOやCDOという商品は
・中に色んなローン、金融商品を入れて混ぜこぜする
→その「混ざった何か」をリスク別に切り分ける
という形式で作られたのですが、中に入っている商品を全て確認しきれないという事態が生じました。
実際、100個のローンを細かく中身まで見る、というのは凄い大変そうですよね。。。確認する時間がないと、「中身を全部見るのは、骨が折れるので諦めよう」「格付機関はシニアには最上級格付を付与しているし、大丈夫だろう」となっていったわけです。
結果、「中に入っている商品が何かは細かく知らないけれども、シニア部分は安全そうだから投資している」という投資が横行する形になりました。

更に厄介なのは、CLOの中のエクイティ部分(損が出れば一番最初に毀損するが、その分リターンが高い最下層部分)やメザニン部分は、別のCLOを作るための壺に「高リスクだけど、高リターンをもたらす要素」として再流用されたりする事例も多くありました。
これが繰り返されると、「この壺の中身は結局何で出来ているのか」「どういうリスクがあるのか」というのが余計に分からなくなったまま、新たなCLOが販売されることになりました。
「創業100年うなぎ屋の、継ぎ足し秘伝のタレ!!」をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。3年前、5年前、10年前に継ぎ足したタレがそれぞれ何%占めているか、なんてわからないですよね。まさに「中身はなんだこれ」状態だったわけです。うなぎ屋はそれでいいですが、投資商品がそれだと困ります。。。

② 中に入っている商品の相関性(Correlation // コリレーション)が高かった
リーマンショック前の投資家のリスク管理というのは今ほど高度でもなかったため、「相関性(コリレーション)を加味したリスク管理」はされておりませんでした。

相関性というのは、100%であれば完全に変動が一致し、▲100%であれば完全に逆の動きをします。
相関性が▲100%の金融商品であるAとBを同額保有していた場合、どれだけ市場が激しく動いても自分の持っているAとBの合計価値は常に一緒になります(Aが10円上昇したら、Bが10円分下がる。逆にAが10円下がったら、Bが10円上昇するため)。
逆に、相関性が100%の金融商品であるXとYを保有していた場合、リスクが高い投資となります。(Aが10円上昇したらBも10円上昇する。逆に下落局面ではその分激しく下落する。)

さて、CLOの中身の相関性について考えてみましょう。
CLOの壺の中に入っているのは、例えば100人の個人に出している1億円のローン、合計100億円だとします。
これらの1億円のローン100個、相関性は高いでしょうか。低いでしょうか。

言わずもがなですが、結論は「相関性が高い」になります。もちろん借り手のプロファイルや個別の事情はありますが、基本全部同じようなローンなので、Aさんが返済できなくなったらBさんも返済できなくなる可能性は高いですよね。

それを踏まえた上で、エクイティ・メザニン・シニアを考えてみましょう。
エクイティ: 5億円までの毀損を吸収できる
メザニン: 30億円までの毀損を吸収できる
シニア: 30億円以上毀損して、初めてダメージが生じる(=Aaa格付)
仮に、Aさんが1億円ローンを返済できなくなった場合でも、「まだ全体の壺には99億円残っているから、絶対大丈夫!シニアは超安全!」でしょうか?
答えはNOです。Aさんのローン返済が滞っている状況では、今後更に返済が滞る人は出てくる可能性があり、30億円以上毀損するシナリオは普通に発生しそうです。
これがリスク管理における「相関性(Correlation)」の考え方の重要性になります。

影響

一旦、CLOの中身がデフォルトしだすと、同じような環境下で色んな中身の質が悪化を始めます。
Aaa投資家は最上級格付を買ったにも関わらず、だんだん自分の投資ポジションが損失を被る可能性が出てきます。どうしたらよいの?売った方がいいの?を考えても、CLOの中身がよくわからない状態になっているので、リスク精査が出来ないケースが続出します。全く関係ない国のローンが実はCLOの中に組み込まれていることもあり、「フランスの住宅ローンの返済遅滞が、アメリカの投資家に損失をもたらした」みたいな事例も頻出。どのリスクが自分に影響を与えるのか、全世界的に全く分からない状態になっていました。

上記のまとめ

解説が長くなりましたが、CLOがリーマンショック時に与えた影響は、まとめるとこんな感じです。
- CLOの中身が分からずに投資している人が多かった
- CLOの中に入っている資産の相関性は高いので、実は危機的シナリオにおいては、一斉に中身の質が悪化するという事態が発生した
- にも拘わらず、「損失を吸収できるエクイティ・メザニンが30%もあるんだ」などの理由で、最上位にはAaaという格付がつけられ、安全投資を求める人たちが盲目的に買っていた
- とある商品のリスクが色んな他の商品に影響を与える、という状態になっていたので、どこかでデフォルト(倒産)や返済遅れが発生すると、全世界的にその影響が拡散していった

ちなみに、今もCLOという商品はありますが、当時の反省を踏まえて設計も厳しくなり、投資家もリスク精査を行って購入しています。CLOという商品が悪いのではなく、当時の設計が甘かったのです(が、当時CLOで損失を被った投資家のうち、CLO投資は未だに内規的に禁止してる投資家もいますし、気持ちもわかります。。。)

結果、CLO・CDOという商品が、アメリカの住宅ローン返済問題を全世界的に拡散し、リーマンショックを引き起こしたのでした。
次回は、それを踏まえて当時の金融機関のリスク管理手法の主体であったCDS(Credit Default Swap)について説明をします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?