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東京国際映画祭2021『洞窟』感想

前人未到の洞窟を探索した記録を基にドキュメンタリーのように撮影した映画『洞窟』。正直あらすじだけでは惹かれなかった今作を観ようと思ったのはヴェネチア映画祭3冠という情報を知ったから。ということで、今年の東京国際映画祭1本目はこちらに決めました。

シネスイッチ銀座 (1)

1回目の上映だったのでシネスイッチ銀座に向かう。今年の東京国際映画祭の特徴として、会場が六本木から日比谷・銀座エリアに変わった点が挙げられるのだけど、六本木のあの華やかな雰囲気が好きだった自分としては少し寂しくも感じる。果たして来年はどうなるのか。

そんな気持ちで10分前に劇場に到着すると、外まで長蛇の列。これまでと場所が違う分、運営側も大変なのかもしれない…何はともあれ無事着席でき『洞窟』鑑賞してきました。

洞窟ポスター画像 (1)

物語の舞台は1961年、学者グループがカラブリアの前人未到の洞窟(深さ687メートル、当時世界第3位の深さということらしい)に到達した記録を基に、自由に撮られている。

疑似ドキュメンタリーという情報を聞いていたが、俯瞰して撮られたショットが多数で登場人物の台詞は一切なし。『観察映画』といって良いのではないだろうか。登場人物への感情移入を排している代わりに観るべきは美しい映像の数々。大自然はもちろん、洞窟内での撮影は本当どう撮ったのか、想像しただけでも苦労が伺える(ちなみに調べたら撮影風景らしい写真を発見したけど、写真だけでも足がすくむ)

洞窟③ (1)

感情移入をさせないということに加え物語自体も淡々と遠巻きに撮影しているため、確実に観る人を選ぶ作品ではある(仕事の疲れ&前日の寝不足もあって、実は筆者も何度か寝落ちしかけてしまった)ただ、この作品、学者グループの探検の様子を淡々と映すだけでなく、もう一人主人公がいる。

それが洞窟付近の山に住んでいる村の老人。映画は学者グループの様子とこの老人の様子を交互に移していくのだが、この二つが対比となっているのが面白いし、作品に拡がりが生まれている。

※ここからは具体的な内容に触れる為、鑑賞予定の方はネタバレに気を付けて下さい。

映画の流れとして、学者グループが洞窟に立ち入った時点で、老人は寝たきりの状態になる(原因は明かされてないが、発見時の様子から足を滑らせたのではないだろうか)そして、学者グループが最深部に到達した時点で、老人は息を引き取るのだ。

この対比には色んな解釈があるだろうが、筆者は自然への畏怖、自然の持つ神秘性の終わりを象徴してるのではないだろうかと思う。学者グループを見つめる老人の眼差しも決して歓迎しているような雰囲気ではなかった。人類によって自然が淘汰され、自然が持っていた神秘性が崩れた、そう考えると学者グループは近代化の象徴とも思えるのだ。

どこからか老人の声が風に乗って聞こえる最後の場面が、まるで童話か昔話のようで幻想的で心に残る。オープニングの洞窟内からの空が明けていく場面にも引き込まれたが、ラストの霧に包まれて終わる場面も素晴らしかった。

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