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【夢と現実の隙間へようこそ】映画『白鍵と黒鍵の間に』感想

「音楽映画」でもあったし「世にも奇妙な物語」のような映画でもあった。

10月6日より公開されている映画『白鍵と黒鍵の間に』
『南瓜とマヨネーズ』、『素敵なダイナマイトスキャンダル』の冨永昌敬監督の最新作にあたる本作は、南博の回想録『白鍵と黒鍵の間に ジャズピアニスト・エレジー銀座編』を原作に池松壮亮を主演に撮られた作品だ。

作中にはある大胆な仕掛けがしてあり、内容を調べず観たこともあって途中から「?」になった。このトリッキーな演出にノれるかどうかがこの作品を楽しめる分かれ目かもしれない。

2023年製作/94分/G/日本

物語の舞台は昭和の銀座。夜の世界に生きる者たちの一夜の邂逅が群像劇として描かれる。生まれも考え方も異なる登場人物たち。だが全員共通していることがある。

それは「音楽」を愛しているということ。

劇中で言われてる通り音楽は誰に対しても平等であるということを示しているし、本作は「音楽」という光に魅せられた者たちの話でもある。

多数のJAZZの名曲が作品を彩る。『ゴッドファーザーのテーマ』が作品の肝になってるのも映画ファンとしてはニヤリとしてしまう。

劇中で南が何度も繰り返す「俺は何をやっているんだ」というモノローグ。
これも他の登場人物にも言えることだ。JAZZバーと騙されて来たリサもヤクザの親分の義弟の三木も、南の先輩の千香子も誰もが「ここは自分の本来の居場所じゃない」という思いを胸に秘めている。そしてそれはこの社会で生きる自分にも刺さる。

だからこそ後半のセッション場面は観てて胸が熱くなった。現状にくすぶってる者たちというだけじゃなく、育ちも考え方も異なる者たちが「音楽」を通じて繋がっている姿は美しい。

この場面の開放感が最高。本作は間違いなく「音楽映画」だ。

艶やかで色気たっぷりに撮られた銀座の街も堪らない。コミカルな演出も合わせて、本作は「洒脱で軽妙」という言葉が相応しい。

ただそこで終わらないのが冨永作品。物語後半では現実はどんどん曖昧になっていき、音楽だけでなく詩などの「芸術」の真理も説いてくる。
これまでの冨永監督の作品同様、観終わった後は心に奇妙な引っ掛かりが残していく。

終盤までは「ものすごくお洒落な三谷幸喜作品」のようにも感じたり
冨永監督の初期作品。どれも観終わったとに奇妙な味わいを感じさせる。

本作の素晴らしさを引き立ててるのが、キャスト陣の演技の素晴らしさ。
主演をつとめた池松壮亮の一人二役の芸達者っぷりは言わずもがな。ヤクザの「あいつ」を演じた森田剛にバンド仲間の仲里依紗、クリスタルケイ、登場人物全員役柄にハマってる。
中でも高橋和也演じる三木が人間臭くて好きだったな。

登場シーンこそ少ないもの佐野史郎さんの存在感とハマり具合も抜群!

観終わってみると、まるでメビウスの輪に入ったかのような物語だった。
映画館という空間も相まって、自分自身も奇妙な空間に囚われてるような感覚にさえ陥った。

間違いなく人は選ぶ作品だろうが、自分はこの作品大好きだな。
『白鍵と黒鍵の間に』、気になる人は是非チェックしてみては。

ピアノをイメージした装飾のパンフもお洒落。挟み込みビジュアルブックもあるよ。


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