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ハチミツ色の夕暮れが映すのは、あの日の”痛み”『ハニーボーイ』

8月7日に公開された『ハニーボーイ』サンダンス映画祭で審査員特別賞に輝き、世界最大級の映画レビューサイトRotten Tomatoesでは94%(2020年8月15日時点)という高評価を叩き出した本作は、ハリウッドの人気子役の少年と父親との軋轢を描いた物語だ。筆者も8月13日にヒューマントラストシネマ渋谷の18:40分の回で鑑賞してきた(会員サービスデイという事もあって客入りは6~7割程度という印象)

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ここでは『ハニーボーイ』の見どころを筆者の感想を交えながら、述べていきたい。本作に興味がある方は読んでみて欲しい。

【作品情報:『ハニーボーイ』】

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作品年: 2019年 作品国:アメリカ 監督:アルマ・ハレル 

ハリウッドでは活躍する俳優のオーティスは、飲酒運転による事故で、アルコール依存症が発覚、更生施設に送られることになる。更生プログラムを受ける中で、PTSDの兆候があると診断されたオーティスは、自身の過去を振り返る事となる。それは、子役として活躍していた少年時代と、父親との痛みを伴った日々であった。

【『ワンダー 君は太陽』のノア・ジュプをはじめとする次世代のイケメン俳優達が集結!】

本作の見どころは何と言っても、ハリウッドで活躍する次世代スター俳優達の共演だ。主演は、『ワンダー 君は太陽』(2018年)の主人公、オギー役で一躍注目を浴び、『クワイエット・プレイス』(2018年)、『フォード vs フェラーリ』(2020年)など注目作への出演が続いているノア・ジュプ。甘いルックスとその確かな演技力で、多くの人を魅了している。今作では、父親の愛情を求める少年オーティスを繊細に演じている。

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そして、成長したオーティスを演じるのは、今、ハリウッドで最も注目されてる若手俳優の1人でもあるルーカス・ヘッジス。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016年)で弱冠20歳にしてアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされ、『スリー・ビルボード』(2017年)、『WAVES』(2019年)など話題作への出演が相次いでいる。今作では、酒におぼれ、更生施設で自身の止められない衝動と過去の記憶に苦しむ青年オーティスの姿を感情豊かに演じている。

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そして、オーティスの父ジェームスを演じるのは、『トランスフォーマー』シリーズの主演をはじめ、『インディ・ジョーンズ/クリスタルスカルの王国』(2008年)や『フューリー』(2014年)など、ハリウッドの第一線で活躍するシャイア・ラブーフ。本作では俳優だけでなく、脚本も手掛けている。

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【実体験をもとに描かれるのは、愛を与えられなかった少年の心の痛み】

本作は、人気子役として活躍するオーティスの少年時代と、その中で父親の愛情を貰えず苦しむオーティスの姿が中心となって描かれる。
脚本は、自身も父親として出演しているシャイア・ラブーフ。実はこの物語は、自身も人気子役だったシャイア・ラブーフの実体験がもとになっている。 
映画の序盤、青年となったオーティスがアルコール依存によって、共演者を乗せた車で事故を起こすのも、現実のシャイア・ラブーブの行動と同じ(シャイア・ラブーフは2008年に『トランスフォーマー/リベンジ』で共演したイザベル・ルーカスを乗せて運転中、大事故を起こし、左手の指を2本失っている。)そして、それがキッカケで更正施設に入り、PTSDと判断されるのも全く同じだ。他にも更生施設内での行動など、青年オーティスとシャイア・ラブーブの行動はシンクロしている。劇中と同じく、更生施設で暴露療法を受けたシャイア・ラブーフは、自身の行動の原因が、少年時代の父親との確執にある事に気が付いたという。

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筆者は、本作はシャイア・ラブーフのセラピー映画だと感じた父と子の感動的な物語と呼ぶには、余りにもパーソナル。監督がドキュメンタリー映画出身という事も影響してるかもしれないが、まるでシャイア・ラブーブの過去の場面に自分も立ち会ってるかのような気持ちにもさせられた。また、劇中で、青年オーティスが受ける心理療法で、父と子の二役を演じるという療法が出てくるが、(暴露療法と同じく、シャイア・ラブーフが実際に更生施設で受けた療法とのこと。)本作で、シャイア・ラブーブが父親ジェームスを演じているのも心理療法の一種といえるだろう。。
シャイア・ラブーフ自身は、本作のテーマを『家族、愛、赦し』と語っている。自分の個人的な人生について観客と分かち合う事で、自分は独りではないと思ってくれたら嬉しいと。しかし、どちらかというと筆者は、この映画はむしろシャイア・ラブーフのための作品であるように思える。自身の痛みを映画で表現する事で、自分自身と向き合う。シャイア・ラブーブが次のステップへ向かうために、必要な作品だったのではないだろうか。

【新進気鋭のアルマ・ハレル監督による美しい演出】

今作を撮ったアルマ・ハレル監督。この監督の作品は初鑑賞(過去の作品はNetflixで観れたらしいが、現在は期限が切れて観れなくなったとの事)ドキュメンタリー映画で有名な監督と聞いていたので、もっと硬質的な画作りをするかと思っていたら、とても淡い色使いと幻想的な演出に驚かされた。

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もともとシュールで幻想的な映像表現と、ドキュメンタリーとフィクションを曖昧にする作風が特徴的という事で、本作でもその手腕は遺憾なく発揮されている。少年オーティスと、シャイ・ガールとの甘酸っぱい関係は、色の使い方が素晴らしく(プールサイドの場面とか特に良い)、ムーディーな雰囲気満点。筆者も好きな人の前で頭がボーっとしてしまった子供時代を思い出してしまった。また、夕日を浴びるオーティスの姿は、まさに『ハニーボーイ』そのもの。この監督の色使いや幻想的な演出は、個人的に大好きだったので次回作も是非観たい。


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