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【今の時代にこそ一層輝く映画だ】『エドワード・ヤンの恋愛時代』感想

『牯嶺街少年殺人事件』、『ヤンヤン 夏の想い出』などで知られる台湾の名匠エドワード・ヤンが1994年に手がけた青春群像劇『エドワード・ヤンの恋愛時代』

本作は1994年に公開されていたが、2022年のベネチア国際映画祭にて4Kレストア版でワールドプレミア上映され今年リバイバル公開された。

観たのはセンチュリーシネマ、8月25日の20時35分からの回。上映時間が遅いこともあってか観客は自分も含めて6人だった。

エドワード・ヤンの映画って本当素晴らしい…

今まで観た作品もそうだったが、いつも一定以上の水準を超えてくる。

仕事終わりで疲れてたこともあって、観始めてすぐは集中できなく「大丈夫かな」と思っていたけど、物語が進んでいくにつれてそんな気持ちも忘れるくらいのめり込んでいた。

完璧過ぎる構図に光の使い方、絶妙なストーリーテリング、相変わらず観客を引き込む力が素晴らしい。

多数の男女が登場するので序盤は混乱するが全員キャラが立っていることもあってどんどん慣れていく。

物語は急速な経済発展中の90年代の台北を背景に複数の若者の人生が交錯していく。彼らはそれぞれ人生の岐路に立たされ自身のアイデンティティと向き合うことになっていく…というあらすじ。

ジャンルとしてはコメディに該当すると思う。
全体的には80年代のアメリカン・グラフィティ系の青春映画に近いノリを感じたのだけど意識してるのかな?
というかエドワード・ヤンの作品の中では笑える場面も多いし楽観的な雰囲気なのが意外だっだ。

これまで観たエドワード・ヤンの作品は観終わった後、虚無感を感じる作品が多くて今作のように明確にハッピーエンドを感じる映画は珍しい印象。

ちなみに原題は「獨立時代(独立時代)」だが、登場人物のほとんどが恋愛関係にあり物語も恋愛が一つの軸になっているため「恋愛時代」という邦題も本作に合っている。

この作品、この時代だからこそ敢えてレストアしたのか、タイミングの意図は分からないが、自分はこの時代にこそ一層多くの人に観て欲しいと思う映画だった。

今より30年近くも前の作品ということもあって時代性は感じるが、今でも「あるある」と感じる場面も多く、彼らの悩みや考え方は今の若者と大差ないように見える。

実質、主人公と言えるチチ(彼女とその恋人のミンが実質の主人公だと思う)、彼女が親友と恋人の間に挟まれ、自身のアイデンティティと向き合っていく展開は「女性の自立」を題材にした近年の映画と通じるものがある。

劇中でも特に素敵な場面。夜、野外でお茶してるのが優雅過ぎる…

モーリーとチチの友情もそうだし(コメントも出してるけど、この2人の関係性は岨手由貴子監督の『あのこは貴族』も思い出す)、チチが自身と向き合った結果、自身を取り戻していく姿もここ最近の映画が描いていることを重なっている。

本作に登場する女性は全員強かで男性は愚かなのも面白い。
本作に関して「早すぎた傑作」、「時代が追いついた」という表現が使われてるのも納得。改めてエドワード・ヤンの先見性に驚かされる。

この2人がタバコを付けあう場面が最高。『台北ストーリー』もそうだけどタバコを格好良く撮る天才か。

そしてラスト。思わず小さく手を叩いてしまうくらい素敵な終わり方。この映画「報われる物語」になっているとこも好きだ。

劇中にはずる賢かったり打算的な人間も登場するが彼らは物語から自然とフェードアウトしていく。ある意味純粋に己と向き合ったものが納得のいく未来へ進み出すのだ。

ということで『エドワード・ヤンの恋愛時代』メチャクチャ良かったので、気になる人は是非観て欲しい。
そしてDVDが異常に高騰し、配信もされてない『カップルズ』もこの調子でレストアして欲しいと願うばかり。


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