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白い紙って奥が深い 〜装丁の紙の白さについて

白、そう、白ってほんとに奥が深い。

このnoteを読んで、改めて思った。

ホワイト、スノーホワイト、ウルトラホワイト、プラチナホワイト、
スーパーホワイト、ハイホワイト…
ふだんよく使う白の種類を上げただけでもやたら多い。
え!?白の紙の呼び方、73種類もあるの。
ほんとに白、多い!そりゃ、選ぶのも大変だ。

ブックデザインの仕事をしているので、ふだん毎日のように紙を選んでいる。

紙選びはブックデザインの大きな要素のひとつだ。
というより本は紙でできているから紙が全てと言っても過言ではない。
いや、それは言い過ぎか。
でもそのくらい重要な要素なのは確かだ。
用紙次第で仕上がりが大きく変わってくる。
なので用紙選びにはかなり神経を使う。

紙の種類は、とんでもない量があって選ぶのは大変だ。
デスク脇の紙見本置き場はこんな感じ。
雑然と並べているけど使う頻度の高いものを取りやすいように置いている。
これ以外にも本文用紙のサンプルとか、他にもいろいろある。

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紙の種類も気が遠くなるほど多いけど、白さも紙によって違ってくる。
もちろん紙の白さも重要なポイントだ。

ぼくがふだんメインで作っているのが「ビジネス書」の装丁だ。
年間200冊くらいデザインしているうちの70%くらいが、ビジネス書と呼ばれるジャンルの本、もしくはビジネス書の棚に置かれる別ジャンルの本だ。

異論はあるかもしれないが「ビジネス書」のジャンルでは、白いカバーの装丁が主流になっていると思う。
理由のひとつは売れている本に白いカバーが多いからということがあるだろう。

ぼくが初めてビジネス書のデザインをするようになった15年くらい前から、ビジネス書と言えば何となく白いカバーで、実際白い装丁の本がよく売れたという印象がある。

昔の仕事だと、このあたりは白い装丁だ。

最近だとこんな本とか。

ビジネス書=タイトルの重要性が高い
タイトルを目立たせる=白い方が読みやすい
こういう機能性も大きな理由の一つだと思う。

白い本ばっかりだから「目立つように色をしいたデザインを!」となって、そっちが増えてくると、白い装丁が逆に目立つようになって、「やっぱり白が目立つじゃん」みたいな、そういう繰り返しが続いている気がする。

そんな白が多い装丁だけど、ただ白いというわけではない。
白は白だけど色んな白があって、意識的にそれを選んで使っていることが多い。
実際、どう選んでいるか。
最近の仕事で「白さ」について意識したデザインについて書いてみようと思う。

「なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?」

全面を使ってタイトルを見せるデザイン。
シンプルな装丁だ。
白い部分が多いから、必然的に白さが重要になる。

シェフの本で清潔感が欲しかったので、特に白さが強い紙を使うことにした。
使用したのはミセスB-F スーパーホワイト。

カバー:ミセスB-F スーパーホワイト 110kg (加工 グロスPP)
帯:ミセスB-F スーパーホワイト 110kg (加工 グロスニス)

白が強いと聞いてピンとくるか分からないので、同じ系統の紙と比較してみた。
同じ質感の紙で、
ヴァンヌーボVG スノーホワイト
OKミューズガリバーグロスCoC ハイホワイト
という紙がある。
もちろんそれぞれ違いはあるけど、系統はほぼ同じ紙だ。
比べてみ見ると、こういう感じになる。

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左からヴァンヌーボ、OKミューズガリバー、ミセスB-F
スノーホワイト、ハイホワイト、スーパーホワイトと呼び方は違うけど、その紙の銘柄で一番白い紙だ。

ヴァンヌーボもOKミューズも単体で見るとじゅうぶんに白い紙なのだけど、比べて見るとミセスB-Fの方が白い。
単純に白さだけで言えば究極の白と呼ばれる「ルミネッセンス」という紙もあるけど、グロスPPを貼るイメージなども考えてミセスB-Fスーパーホワイトを選んだような気がする。

実際の仕上がりはこんな感じだ。

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ちなみにカバーを外した表紙は黒い紙(色上質 黒)にして、金の特色を印刷して高級感を演出した。

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あ、この本noteのインタビュー記事がきっかけで生まれた本だ。


「6ミニッツダイアリー 人生を変えるノート術」

この画像で見ると普通に白い装丁だ。
確かにカバーも帯も白い紙を使っている。
だけど、実際はカバーと帯の白の強さを変えて、変化を付けるデザインにしている。

こういう感じだ。

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まだ発売が先なので、見本ができていない。
なので束見本に色校正を巻いたものを撮影した。
金箔をぜいたくに使わせてもらった装丁だ。
そこに目が行きがちだけど、紙に注目していただきたい。
カバーも帯もどちらも白い紙だ。

カバー NT ほそおりGA ホワイト 130kg 加工:グロスニス+金箔押し
帯 ヴァンヌーボVG スノーホワイト 130kg 加工:グロスニス

どちらも色の名前で言えば白なのだけど、ホワイトとスノーホワイトでここまで差が出る。
こうして見ると帯で使ったヴァンヌーボVG スノーホワイトがすごく白い紙だということがわかってもらえると思う。
(さきほどの写真の一番左の紙だ)

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紙によるスノーホワイトの違い

同じスノーホワイトでも紙の種類によって白の色合いが全然違っている。
例えば下の写真、これ、すべて「スノーホワイト」を使ったカバーだ。

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左から
「100年時代の健康法」
カバー:ヴァンヌーボVG スノーホワイト 130kg 加工:グロスニス
帯:ヴァンヌーボVG スノーホワイト 130kg 加工:グロスニス

「言葉の力を高めると、夢はかなう」
カバー:NTラシャ スノーホワイト 130kg 加工:マットニス+金箔押し(欧文)
帯:NTラシャ スノーホワイト 100kg マットニス

「たぬきババアとゴリおやじ」
カバー:ハンマートーンGA スノーホワイト 130kg 加工:マットニス
帯:OKミューズガリバーマット ハイホワイト 110kg 加工:マットニス

全て「スノーホワイト」だ。
ただ紙の種類がちがう。
わかりにくいかもしれないけど白さに差があるのが分かるだろうか。
左の方が白が強くて、右にいくにつれ白が弱くなる。

「100年時代の健康法」

カバー:ヴァンヌーボVG スノーホワイト 130kg 加工:グロスニス
帯:ヴァンヌーボVG スノーホワイト 130kg 加工:グロスニス

大定番の紙、ヴァンヌーボだ。

カバーも帯もヴァンヌーボVGスノーホワイト。
王道感のある白!!!
とにかく、何はなくともヴァンヌーボだ。
迷ったらヴァンヌーボ、困ったらヴァンヌーボ。
カバーに使って良し、帯に使って良し。
大体ヴァンヌーボを使っておけば間違いない。
ヴァンヌーボを使えるかどうかが予算の基準のようなところもある。
「ヴァンヌーボは使えない」と言われたらそれなりの心構えができる。
そういう便利な紙でもある。
そしてスノーホワイトの安定感。最強だ!
コート紙の次に覚えた紙の名前はヴァンヌーボだ。
なぜかこの紙を使うだけで「王道感」が出るような気がする。
もちろん気のせいだけど。


「言葉の力を高めると、夢はかなう」

カバー:NTラシャ スノーホワイト 130kg+ 加工:マットニス+金箔押し
帯:NTラシャ スノーホワイト 100kg+マットニス

これもスノーホワイトだ。
ただ、紙がNTラシャという独特の質感の柔らかい紙なので、ヴァンヌーボのように真っ白にはならない。

デザイン的にはビジネス書の雰囲気を出しているので、ヴァンヌーボを使って王道感を出す手もあるのだけど、「言葉の力」というテーマなので、少しなじみやすさを出そうと思った。
それで質感のあるやわらかい紙を使うことにした。
NTラシャは質感がある分、「スノーホワイト」も白さが少し弱い。
「真っ白だけど少しだけ白が弱い」この色合いもNTラシャにしたポイントだ。
ちなみにNTラシャの白のバリエーションはこんな感じ。

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こうして比べるとスノーホワイトはすごく白っぽく見えるけど、実際仕上がってみるとやわらかい白になる。
ねらい通りの仕上がりだ。


「たぬきババアとゴリおやじ」

カバー:ハンマートーンGA スノーホワイト 130kg 加工:マットニス
帯:OKミューズガリバーマット ハイホワイト 110kg 加工:マットニス

カバーに使ったのはハンマートーンGA。
毒蝮三太夫さんの両親のエピソードをまとめた本なので、少しレトロな風合いを出そうと思ったのと、思い出の断片のようなイメージで「槌で細かく叩いたような優しい打ちつけ模様」というコンセプトのハンマートーンが合いそうだなと思った。

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ハンマートンは、プラチナホワイト、スノーホワイト、ホワイトとあるけど、昭和の話なので、色は白すぎない方がいい。
プラチナだと白すぎるし、ホワイトだとクリームっぽすぎる。
スノーホワイトの白さがちょうどいいと思った。
少しトリッキーな紙なので念のため別の紙でも色校を取ったけど、ハンマートーンの独特の風合いがピッタリはまったので、こちらに決めた。
すごく良い仕上がりだ。

さて、比較的最近の仕事で「白い紙」を意識して選んだ装丁について書いてみた。

最後に、今回この記事を書くきっかけになったnoteのヤグチサトコさんのプロフィールに「好きな紙はアラベール」とあったので、アラベールについて書いてみようと思う。

アラベール ウルトラホワイト

「手ぶらで生きる。」

2年前の仕事。アラベールと言えばぼくの中ではこの本。

この本、著者が「ミニマリスト」ということで、最低限の線で部屋を描いたシンプルなデザインにした。
イラストは、山内庸資さんにお願いした。

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白のスペースが大きい。つまり白が重要になる装丁だ。
紙に少しだけ質感が欲しいと思ってアラベールを選んだ。
タイトルを盛り上げる加工、UV厚盛りもアラベールならしっかり効果が出る。

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アラベールは柔らかいナチュラルな風合いの紙なので、白さはそれほどでもなかったのだけど、後に追加された色「ウルトラホワイト」がかなり白い。
質感があって白が強い。
クリーンなイメージにしたかったので、この本のテーマにあってる気がした。
ミニマリストの本ということで、紙の種類を増やさずに、カバー回りの紙を全部アラベールにした。
表紙も見返しも、厚みを変えてアラベール。
全部アラベール・ウルトラホワイト。

カバー:アラベール ウルトラホワイト 130kg 加工:マットPP+UV厚盛り※
帯:アラベール ウルトラホワイト 110kg 加工:グロスPP
表紙:アラベール ウルトラホワイト 160kg
見返し:アラベール ウルトラホワイト 90kg

(カバーの加工、色校でマットPPに変えたを忘れてました…)
アラベール好きにはたまらない一冊だと思う。たぶん…。

「考えすぎない」人の考え方

カバー・帯ともにアラベール・ウルトラホワイトでUV厚盛り加工したものだと最近デザインしたこの本もそうだ。

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カバー・帯
アラベール ウルトラホワイト 130kg 加工:マットニス+UV厚盛り

イラストもタイトルもUV厚盛り!
ついでに帯の文字も全部UV厚盛り加工というぜいたく!!!
そして見返しに思考回路を模したイメージでICHIMATSUを使用。
なんだかすごくぜいたくなつくりだ。ありがとうございます。

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表紙:ゆるチップ ゆき 20kg 表紙=白面
見返し:ICHIMATSU クリアブラック 95kg
扉:タント N59(黄色) 100kg

本の仕上がりを想像しながら、紙について考えるのは楽しい。
そして実際できあがると紙の質感と印刷が相乗効果になって、想像していた以上の仕上がりになってくる。
イメージの5倍増しくらいのクオリティで完成してくる。
この仕事をしていていちばん嬉しい瞬間だ。

ただネット書店の画像だと紙の白さも、質感も何も分からなくてもったいないなと思う。
やっぱり、書店に行って実際の本を見て欲しい。
読書の秋だし、読みたい本が何もなかったら、本屋で見つけたカバーの紙が一番白い本を読むとか、そういう偶然の出合いを楽しむのもいいかもなと思う。

その白さには実は深い理由があるかもしれない。


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