朗読上達法(詩村あかねによるレッスン講座)

★脱力

肩幅に足を開き、空をつかむイメージで両手を上げる。その緊張した状態から、首、肩、胸、腰、膝と順に緊張をゆるめていく。

★「ひらいた声」を出す

「ひらいた声」とは一番リラックスした状態で出す声のこと。椅子に出来るだけ楽に腰掛け、「La」、「Ma」をひと呼吸いっぱいに発声しながら、今日一番の「ひらいた声」をさがす。

★呼吸する

鼻から深く息を吸い、口から長く吐く。その時、脇腹(横隔膜)が呼吸とともに膨らんだり、萎んだりするかを、自分でさわって確かめながら行う。

★発声練習をする

○声を15メートルくらい先に届かせるように。○声を共鳴させるように。

○喉がひらいているかを意識して。

ⅰ.Ba、Ba、Ba、Ba、Ba― (スタッカートで、最後のBaは一呼吸一杯に)

ⅱ.La、La、La、La、La― (スタッカートで、最後のLaは一呼吸一杯に))

ⅲ.発声練習の基本となる練習文に「あえいうえおあお」というのがありますが、これは普通の五十音とは違います。この練習文は、口の動かし方に気をつけて、ゆっくり発音するようにしましょう。

「あ・え・い・う・え・お・あ・お」
「か・け・き・く・け・こ・か・こ」
「さ・せ・し・す・せ・そ・さ・そ」
「た・て・ち・つ・て・と・た・と」
「な・ね・に・ぬ・ね・の・な・の」
「は・へ・ひ・ふ・へ・ほ・は・ほ」
「ま・め・み・む・め・も・ま・も」
「や・え・い・ゆ・え・よ・や・よ」
「ら・れ・り・る・れ・ろ・ら・ろ」
「わ・うぇ・うぃ・う・うぇ・うぉ・わ・うぉ」 

※「が・ざ・だ・ば」などの濁音もやってみましょう。

★発音練習をする

以下の語群、例えば「ざんぎょう」から始まるZの一群を、一呼吸5つずつ、ゆっくりとなめらかに最後まで棒読みする。

慣れたら、少し早い速度で練習します。


○ざんぎょう、ざらざら、ざばいばる、ざっそう、ざんぱん。

ぜんせい、ぜんぜん、ぜろっくす、ぜねれいしょん、ぜろ。

じんましん、じりじり、じゃまいか、じろじろ、じゅうどう。

ぞろぞろ、ぞんざい、ぞうだい、ぞうきょう、ぞうのどうぞう。

ずうずうしい、ずんどう、ずらかる、ずるい、ずるずる。

○ばらつく、ばんけん、ばららいか、ばんざい、ばんごう。

ぼうけん、ぼうふら、ぼられる、ぼうりょく、ぼんさい。

べっそう、べっぴん、べらべら、べんしょう、べんぽう。

びんぼう、びいどろ、びがんすい、びにいる、びしょぬれ。

ぶるどうざあ、ぶどうしゅ、ぶらんこ、ぶれいこう、ぶとうかい。

○らいせんす、ららみい、らっきょう、らっかせい、らんぼう。

ろうれらい、ろうそく、ろーどしょう、ろうらく、ろんどん。

れいせい、れーにん、れいろう、れせぷしょん、れんあい。

りろせいぜん、りーる、りらっくす、りざーぶ、りんりがく。

るのあーる、るーず、るろう、るんぺん、るいるい。

○まばら、まざまざ、まなばない、まろやか、まんじゅう。

もんげん、もぞもぞ、ものまね、もっぱら、もうそう。

めざめ、めんどう、めざましい、めいれい、めくじら。

みいら、みわける、みらい、みんぽう、みりょう。

むゆうびょう、むすめ、むなさわぎ、むらむら、むずかしい。

○なんねん、なざし、なやましい、なまなましい、なまえ。

のうこう、のがれる、のぞまない、のうひんけつ、のらいぬ。

ねんぐ、ねんげん、ねられない、ねんざ、ねざめ。

にぎにぎしい、にしん、にとうりゅう、にらめっこ、にっぽん。

ぬいめ、ぬすむ、ぬえない、ぬらりくらり、ぬるまゆ。

【練習1】アクセント

1 .アクセントは声を出して読む上でとても重要です。これは繰り返し声に出して覚えるしかありませんので、アクセントの違いを楽しむ詩や言葉遊びなどで、たっぷりと声を出し音の一つ一つを、味わう感覚で読んでみてください。

★ 箸をもって橋をわたる。橋の端を歩く。

★ 海で膿を流す

★ 次の詩をアクセントに気をつけながら読みましょう。

「かえる」 

かえるかえるは、みちまちがえる、むかえるかえるは、ひっくりかえる…きのぼりがえるは、きをとりかえる、とのさまがえるは、かえるもかえる…かあさんがえるは、こがえるかかえる、とうさんがえる、いつかえる

「かなかな」

かたかなならった、いなかのかなかな、はやねかな、なかなかなかない…もなかもらった、やなかのかなかな、ひるねかな、なかなかなかない…さかなつれなかった、カナカのかなかな、ふてねかな、なかなかなかない

「ほっとけ」

いけはほっとけ、こけははっとけ、たけはきっとけ、おけはおいとけ…つけはほっとけ、ふけはとっとけ、はけはほしとけ、かけはまけとけ…ごけはほっとけ、みけはかっとけ、さけはさけとけ、やけはやめとけ

(谷川俊太郎/詩 『ことばあそびうた』より)


【練習2】フレージング

2 .意味が通る句節に切ることをフレージングと言います。

句読点で意味が変わる文章を練習してみましょう。

文章の中には、短歌や俳句、詩のように読点がない文章もあります。どこで区切るかで意味が大幅に違ってくる場合がありますので、そのテキスト全体を見て、自分なりに正しい句節をみつけ、必ず斜線などの印をひいて練習してから本番に臨みましょう。

★雀の子そこのけそこのけお馬がとおる     小林一茶

☆雀の子、そこのけそこのけお馬がとおる

☆雀の子そこのけそこのけ、お馬がとおる

○読点によって、どんな違いがあるでしょうか?やってみましょう。

★白いしっぽのふさふさした犬

白い、しっぽのふさふさした犬…(身体全体が白く、しっぽがふさふさ)

白いしっぽの、ふさふさした犬…(しっぽが白くて、身体全体がふさふさ)

白いしっぽのふさふさした、犬…(しっぽが白くてふさふさしている)

○どんな犬が見えてきましたか?声に出して読んでみましょう。

★ここではきものをぬいでください

☆ここで、はきものをぬいでください(その場所で、靴やサンダルを脱ぐ)

☆ここでは、きものをぬいでください(その場所では、着ているものを脱ぐ)


【練習3】イントネーション

3 .文章を読むときの声の高低、抑揚をイントネーションと言います。これはとても重要です。意味とニュアンスが大きく違ってくるので、必ず練習してから臨みましょう。

★「お母さん」という言葉を次のことを表現しながら読み分けましょう。

・断定

・疑問

・疑い

・驚き

・喜び

・不安

○文章の意味を正しく理解し、自分が感じたまま素直に読むこと。行き当たりばったりで読むのではなく、その文章の結末がどこへ向かっていくのかを認識しながら読み分けましょう。

【例】

・断定(自分を理解してくれるのはお母さんだけ)

・疑問(ドアの向こうにいるのはお母さんなの?)

・疑い(ケーキを食べたのはお母さんなのでは?)

・驚き(アパ-トに突然訪ねてきたお母さんを見て)

・喜び(合格発表で自分の番号を見つけて、お母さんに電話)

・不安(突然倒れたお母さんが病院に運ばれた)


【練習4】プロミネンス

文章の中のある語句を強調することを「プロミネンスをつける」と言います。

読み手が重要だと思っている語句、または聴きなれない単語を発音するときに、強弱をつけて表現します。しかし、実際にその部分だけを大きな声で読むのは不自然です。あくまでも、読み手が重要だと認識した部分に力を入れるということです。下の文章を、それぞれの部分にプロミネンスをつけて読み分けてみましょう。

★ おじいさんは 早朝 峠の向こうに 竹を 切りに行きます。

「おじいさんは」

「早朝」

「峠の向こうに」

「竹を」

「切りに行きます。」

*「おじいさんは」の「は」や「峠の向こうに」の「に」のような助詞を強調する近頃の発音は耳障りですので気をつけます。


【練習5】イメージ

イメージを作る簡単な練習をしてみます。

同じ言葉でも、読み手が作るイメージによって、まったく違う受け取り方になります。それぞれ、イメージを強く持って練習してみましょう。

★ 「あっ、さとみ」という言葉を次の関係性をイメージして読み分けましょう。

・母親が娘の「さとみ」に

・友達の「さとみ」に

★ 次に、何のために呼んだのかをイメージしながら読み分けてみましょう。

母親が娘「さとみ」に 

・街の中でたまたま姿を見つけて呼びかけた

・注いであったテーブルの牛乳を娘がこぼした

・よそ見をしながら歩いていた娘が池に落ちそうになって

・迷子になって探していた娘にやっと会えた

・病気の娘の検査結果が悪いとわかった瞬間

他にも、いろいろな場面を自分で考えて読み分けてみてください。


【練習6】総まとめ

⑥次の詩を、今まで練習したことに気をつけて読んでみましょう。イメージをふくらませて、句節に気をつけながら、リズミカルに読んでみます。

「そのおとこ」 谷川俊太郎

かたすみに そのおとこは たっている てらてらと あかびかりのする ぶかぶかのがいとう そのしたに かさねられた なんまいものしゃつ やぶれて くちをあけた かたちんばのくつ ぼうぼうにのびた かみのけのうえの よごれた とざんぼう てに わけのわからないものを いっぱいにつめこんだ かみぶくろをさげ ひとびとが にぎやかに ゆきかうなか ものごいをするでもなく だれかをさがすでもなく ただ じっと たっている

かたすみに そのおとこは たっている なかばひらかれた くちびるは どすぐろく ほおからあごには もつれあった しらがまじりのひげ ひふには いくえにも あかがこびりつき めは ちゅうをみつめて うごかない

うまれたときは そのおとこも あかんぼだった ははおやの ちちをのんだ はのないくちで わらい とおくをはしる でんしゃのおとを きき のきばをとびかうつばめを めで おった たぶんがっこうで あいうえおを ならった てつぼうで さかあがりが できた まなつの すなはまで すいかを たべた

かたすみに そのおとこは たっている ひとびとは まるで そのおとこなど このよにいないかのように まっすぐまえをみつめ いそぎあしで とおりすぎてゆく ひとびとが ゆこうとしているところは いったいどこなのか ここより もっとにぎやかなどこか それとも ここより もっとしずかなどこか とびらと まどに まもられて からっぽの いすが まっている ところ そこには のどのかわきをいやす のみものがあり したをたのしませる たべものがあり たいくつをまぎわらす よみものがあり もしかするとさびしさを わすれさせてくれる ひとが いる

だが かたすみに そのおとこは たっている やぶれたくつの ふんでいる ほどうは ねおんのきらめく まちにつづき まちは そのまわりに かぞえきれぬいえいえの ともしびをちりばめ ともしびは くらいやまにとけいり のやまはやがて うみにつづき うみはいくつもの たいりくと しまじまをめぐって まるくあおく ちきゅうとよばれる ほしを おおい そのほしはうちゅうの くろい しんくうの ただなかを おともなく うごいている この いま

かたすみに そのおとこはたっている そのめは なにをみているのか そのみみは なにをきいているのか そのはなは なにをかいでいるのか なぜ いま ここに いるのか

なにひとつ たずねないで ひとびとは あるいてゆく はらはへっていないのか うちはあるのか しりあいはいないのか そんなことを たずねるものも いない もしたずねたら もしただひとことでも たずねたら こたえなければならぬのは じぶんだと ひとびとは しっているから もしじぶんに なまえがあるなら おとこにも なまえがある それをききたくないばかりに どこからかながれてくる うたに みみをかたむけ ひとびとは とおりすぎてゆく

だが かたすみに そのおとこはたっている わらわない なかない おこらない おとこ どこにもかえるところのない おとこ だれもはなしかけるひとのいない おとこ かこを わすれた おとこ みらいを おもわぬ おとこ ただ そこに いまいるおとこ いきて にほんあしで たっているおとこ つぎのしゅんかんには たおれて しぬかもしれない あすはもう あとかたもなく きえうせているかもしれない わたしたちと おなじ にんげん かたすみに おとこが たっている まるで くらい あなのように  

(注意)この文面の著作権は、詩村あかねにあります。
無断転載、無断コピーを禁じます。


❇️ここまでが詩村あかねさんによる朗読上達法の資料です。頭で理解するだけではダメなので、声に出して何度でも練習してみましょう。
以下は白島が朗読するときに、いつも心がけている注意点です。

①どの音域で朗読すると、対象の詩が生きるのか。低音、中音、高音。

②強弱やメリハリをつける箇所を決める。

③読むスピードを決める。

④噛みそうな箇所をマークし、練習。

⑤何篇も読む場合は全体を意識する。














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