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新生活は「五月病」に注意!


環境の変化

4月は変化の季節です。入学や入社などでこれまでの生活リズムが大きく変わった方も多いのではないでしょうか。また、学校や職場が変わらずとも、部署や人間関係、出世による立場の変化など、「3月までとは変わった」部分が誰にでもあると思います。
環境の変化で学べる事やこれまでにない刺激を得ることができる一方で、新しい環境が心に負担をかけ、メンタル不調に結びつくことがあります。
そこで今回はこの時期に多い「五月病」について、症状と原因、対処法について解説していきます。

五月病とは?

五月病とは、肉体的・精神的にさまざまな不調をきたす病気のことを指します。医学的な病名ではありませんが、4月から5月にかけて多く見られることからこのように呼ばれています。
主に以下の症状が表れますが、個人差があります。
・意欲減退
・食欲不振
・不眠
・強い不安感
・体の不調(頭痛/めまい/胃痛)
・疲れやすい

五月病の原因

特に新社会人が五月病になることが多く、「学生気分が抜けていない」「怠けている」などと思われてしまうことがありますが、五月病は「甘え」や「心の弱さ」が原因でなってしまうのでは決してありません。
では、どのようなメカニズムで五月病を発症するのでしょうか。
人間には体温やホルモンバランスなどの身体機能を一定に保つ能力があります。この能力のことを恒常性(ホメオスタシス)と呼びます。この恒常性のおかげで私たちは日常生活を送ることができています。
恒常性は身体機能だけでなく、心の機能にも関係しています。人は今の生活様式や自分自身について現状維持をしようとする心理が働くため、変化を避けようとします。
しかし新生活において、心では変化を望んでいないのに、環境自体が変わってしまうため変わらざるを得ないという状況が発生し、ストレス源になってしまいます。

五月病を予防するには

新しい環境でストレスを感じることを避けることはできません。
そのため、ストレスを感じないようにするのではなく、ストレスを軽減する、もしくはストレスを発散することが五月病の予防につながります。
一番効果的な方法はしっかり睡眠をとることです。新生活になり起床時間が早くなったにもかかわらず「早く新しい生活に慣れよう」と頑張りすぎて夜更かしをしてしまうと十分な睡眠時間を確保することができません。
「寝る前にスマートフォンを触らない」「飲酒やカフェインの摂取を控える」など、新生活は意識的に睡眠環境を改善していきましょう。

また、感情表現もストレスを緩和するとされています。心理療法の1つである認知行動療法では、「思い込み」や「思考のクセ」を可視化するために、出来事やその時の気持ちを書き出す「コラム法」と呼ばれる療法があります。
具体的なやり方は以下の通りです。記入例も記載するので参考にしてください。

  1. ストレスを感じた出来事を書く。書くことは事実のみにとどめる。
    例:会議の開始時間に遅れ、上司に注意を受けた。聞いていた開始時間と違っていた。

  2. 出来事が起こった際の感情を0~100%で表す
    例:怒り80% 悲しみ50%

  3. その時に頭に浮かんだ考えを素直に書いてみる
    例:自分のミスではないのに注意されて理不尽に感じた。怒りさえ覚えた。

  4. 自分がどうしてそのように考えたのかを書き出す。
    例:自分には間違った情報が回ってきていた。遅れてしまうのは仕方ないことだった。

  5. 自分の考えと逆の事実や例外となる事実があるか考えてみる
    例:上司は自分が間違った時間が伝わっていたことを知らないのかもしれないし、自分のためにあえて厳しく言ってくれたのかもしれない。

  6. ④と⑤を「しかし」でつないでみる。
    例:自分には間違った情報が回ってきていた。遅れてしまうのは仕方ないことだった。しかし、上司は自分が間違った時間が伝わっていたことを知らないのかもしれないし、自分のためにあえて厳しく言ってくれたのかもしれない。

  7. 今の気分を書き出してみる
    例:怒り40% 悲しみ30%

コラム法では自分に起きた出来事を客観的に捉え、ストレスを軽減するだけでなく、ストレスに対しての対処法を見つけたり、ネガティブな思考から抜け出したりすることにも有効とされています。

五月病になったら?

症状に心当たりがある場合や少しでも心身に異変を感じた場合は、すぐに精神科や心療内科を受診してください。五月病は正式な病名でないため、医療機関を受診した際には適応障害やうつ病と診断されるケースが多いです。
ストレスの原因がはっきりしている(例えば「職場で上司に怒鳴られるので仕事に行くのがつらい」「いじめられているので学校に行きたくない」など)場合は適応障害と診断されるケースが多いです。適応障害であれば、ストレスから離れることが重要です。
不眠などの症状がひどく、十分に休息できない場合は薬を処方してもらい、症状を改善していきましょう。

ストレスの原因がはっきりしておらず、うつ病と診断される可能性があります。
うつ病の場合は薬物療法が効果的です。いろいろな要因が複雑に関係してうつ病につながっているため、睡眠や食生活を見直し生活習慣を整えながら、休養時間を確保する必要があります。

また、どちらの場合もカウンセリングを受けることをおすすめします。
カウンセリングではストレスとの上手な付き合い方を知ることができるだけでなく、自分の人間性や考え方のクセを知ることができるため、適応障害やうつ病が寛解(症状が軽くなり、日常生活に支障が出ない状態)になった後、社会復帰した際に再発を予防することができます。
日本ではカウンセリングをハードルの高いものとして認識されていますが、自分のことをよく知っていて相談に乗ってくれる第三者がいるだけで心強いものです。是非ご検討ください。

まとめ

今回は五月病の概要と原因、予防方法と五月病になってしまった際にどうすればよいかについて解説してきました。
五月病は誰しもなる可能性があります。決して「甘え」や「心の弱さ」が原因ではありません。「ちょっと疲れているだけ」「慣れれば良くなる」と楽観的に考えてはいけません。早期発見・早期治療を行うことで症状が悪化する前に寛解へ向かうことができますので、すぐに医療機関を受診してくださいね。

参考文献
● 安香宏・空井健三・小川捷之(編集)(1992)『適応障害の心理臨床』, (臨床心理学大系10), 金子書房
● 大阪精神神経科診療所協会うつ病診療研究グループ(編集)(1998)『うつ病患者と家族の支援ガイド:精神科医の診療最前線』, プリメド社


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