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日本酒「甦る」とロックミュージシャン

学生時代から縁のある山形県長井市で3月12日、「きびたき長井『甦る』の会」が開催されました。

「甦(よみがえ)る」とは日本酒の銘柄で、11年前に福島県浪江町で津波に流された酒蔵「鈴木酒造店」が醸したお酒です。原料であるコメは、これまた福島県から避難してきた人々が同市の農家に合流して耕した田んぼから作られたもの。

卓には一人一本の「甦る」

東日本大震災のあった3月11日に毎年全国で飲まれ、この会も10回目を迎えました。

「甦る」というお酒は、震災前にも存在していました。

「レインボープラン」と呼ばれる長井市で20年以上にわたって取り組まれている生ゴミ堆肥化の市民活動から生まれたものでした。しかし、そのお酒を作っていた酒蔵が閉鎖することになり、幻の日本酒となってしまったのでした。

浪江から移ってきた鈴木酒造店が買い取ったのが閉鎖した蔵で、さまざまな巡り合わせの中でこの銘柄がまた復活したのでした。震災を機に、まさに“甦った”のでした。

そして、このお酒からたくさんの物語が生まれました。8年ぶりに参加してみると、さらにこのお酒に関わる人々の輪が広がり、特別なストーリーが生まれていました。 

ロックミュージシャン山口洋さんとの出会い

「上垣くん、すごいことになってるよ」

一年前の2021年3月、友人からメッセージが送られてきました。ある人が私の映像をブログに紹介していると言うのです。

見てみると、書き手は山口洋さん。ヒートウェイブというバンドを率いるロックミュージシャンでした。ブログには彼が昨年長井市を訪れたきっかけが綴られ、2014年に作ったドキュメンタリー「甦る〜避難先で復活した日本酒〜」(BSイレブン)のYouTube動画が紹介されていました。

当時のブログに書いてあるとおり、山口さんが出会ったのが福島県いわき市から避難してきていた「村田さん」で、彼が山口さんに自分達の活動を伝えるためにそのドキュメンタリーを見せてくれたのでした。

そして昨日。甦る会の会場「中央会館」に着くと、リハーサルを終えた山口さんがいました。

友人が紹介してくれての初対面。長井市に来た一年前を振り返り、「村田くんから甦るのことを伝えられて、大事なことなんだろうという雰囲気は伝わってくるんだけど、いろんな要素が複雑にこんがらがっていて正直何を言ってるかわからなかったんだ」と笑みを浮かべました。「その時、YouTubeであなたの作ったドキュメンタリーを見てすべてが把握できたんだ」と続け、右手を差し出し握手を求めてくれました。

山口洋さん(右)と「甦る」の歌い手である伊東和哉さん(右)

「言葉にはいったい何の意味がある」

会が始まり、東日本大震災で亡くなった方々への黙祷と献杯、そして未来に向かっての乾杯をしました。

甦るの作り手の鈴木大介さん(右)と村田さん(中)。福島の支援を長井市で続ける八木文明さん(左)さんとともに。

この活動から「甦る」という歌を作った伊東和哉さんがバンド演奏した後、山口洋さんによるライブが始まりました。

鈴木酒造店やレインボープランのみなさんのほか、地元のじいさんばあさん、農家、スナックのママさん、村田さんの親戚家族らが「甦る」を呑みながら演奏を聴きました。みんなが幸せな笑顔になり、時には目に涙を溜める人もいました。

山口洋さん

ドキュメンタリーを作らせてもらった時、「誰のために作ったんだろう」という気持ちを抱いていたことを思い出しました。

山口さんの歌う「満月の夕」には、「言葉にはいったい何の意味がある」という歌詞があります。記事や映像をつくるって、一体何の意味があるんだろうと日頃から思う自分もいました。

村田さんが山口さんに紹介してくれた映像が、今回のようなつながりのきっかけの一つになったのかもしれないな。甦るの会は、そう感じられる場だった気がします。

長井のみなさん、山口さん、本当にありがとうございました。

鈴木酒造店の鈴木大介さん(右)と鈴木荘司さん(左)とともに。
山口さんから「映画に使いなよ!」と貴重な音源をプレゼントしてもらいました
二次会は定番の「夜汽車」。山口さん曰く「日本一の居酒屋」。
夜汽車にて。


※余談※

私が長井市に通うようになったのは、大学時代にジャーナリストの高野孟(はじめ)さんが講義に呼んできた養鶏農家・菅野芳秀さんと出会ったことがきっかけでした。

菅野さんが構想したレインボープランの取り組みを知り、フリーになってから度々通うようになっていました。取材でもないので原稿は書かず、置賜地方をまわりただ遊んでいるだけ。心地良かったから通っていました。

2011年3月11日に、東日本大震災が起こって長井市に訪れた時、浪江町からの酒蔵が酒造りを始めるらしいよという話を耳にし、鈴木酒造店のこと、レインボープラン市民農場で働き始めた村田さんのこと、その二人とレインボープランから生まれた甦る、について取材し、その物語を2013年に雑誌で取り上げていました。その誌面を見た先輩のジャーナリスト二木啓孝さんから映像化しようと声をかけられました。それが冒頭の番組でした。

鈴木酒造店やレインボープラン、みなさんを取り上げて放送され、番組の最後にスタジオで「取材してみてどうでしたか?」と問われ、普通なら震災について原発や避難者の話をするような流れだったのに、頭に長井の風景が浮かんで、「言葉ではなかなか言い表せないですね」と返してしまったのでした。生放送は取り返しがつかないのを知りませんでした。

言葉で仕事をするライター、ジャーナリスト失格だけど、今となってはまたとない良い思い出です。

↓鈴木酒造店の酒造りはこの本「福島で酒をつくりたい」にて。ジャーナリストの上野敏彦さんがしっかり伝えてくれていますのでぜひとも手にお取りください。↓

↓山口さんの「満月の夕」についてはコチラをどうぞ。↓


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