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「会社員イラストレーターとフリーランスイラストレーターどちらがよいのか?」

会社員イラストレーターフリーランスイラストレーター、どちらがいいの?
というテーマで今回は書いてみたく思います。

イラストレーションと一口に言っても、タッチ、ジャンル、媒体などは多岐に渡ります。
イラストレーターを雇っている会社であっても、同様にその仕事内容も会社によって様々かと思います。
広告媒体専門、アニメの背景専門、ゲームなどのキャラクター専門、絵コンテ専門、などがありその人の素養とやりたいジャンルで選択は変わるでしょう。

私は専門学校のイラストレーション科を卒業後、新卒で広告制作がメインのデザイン会社に入社し、イラストレーション部に所属しました。
当時所属イラストレーターが10人ほどおり、他はディレクター・デザイナー、コピーライター、営業で構成される30人ほどの規模の会社でした。

その会社を3年半勤めた後退社しフリーランスとなり現在に至ります。

短い会社員歴、さらに20年以上前というだいぶ昔の経験なので現在との乖離もあるかもしれないことはご留意ください。
という前置きがあり、そのような経歴と経験から、
「会社員とフリーランス、どちらがいいの?」
という問いに僭越ながら答えてみたく思います。

先に答えを言うと、
「どちらでもよい」
「どちらもよい」

です。
なのでどちらか一方を強烈に薦めるということはありません。

会社員、フリーランスともにメリットデメリットはあります。
それについてお話しようと思います。


私の場合、会社員イラストレーターを経験したことで得られたメリットはめちゃめちゃありました。
この経験は今のフリーランスでの活動に存分に活かされています。


なのでまずは会社員のメリットから。


●会社員イラストレーターのメリット


〈個人ではできない仕事ができる〉

まずは、新人の個人では絶対に請けることのできないイラストの仕事を経験させて貰えることが挙げられます。
これは「会社」という個人では得られない規模の蓄積された信用と営業努力があってのことなのでとてもありがたいことです。
また、諸先輩方が積み上げてきた実績によっていち個人では得られない幅の広い分野での営業も可能となり、その恩恵を新人であっても受けることが可能です。

〈大いに学べる環境がある〉
まだ技術的に未熟な新人の場合、周りにプロフェッショナルが多数いることで、仕事をしながらそこで学べる価値は非常に大きいです。
画材の使い方、デジタルの技術など、目の前で見て学べるし、わからないことは得意に人に聞いて教われる環境があります。
これは自分の技術を格段に向上させることに大いに役立ちます。
リアルな仕事としての実績のある集団なので、学校で得られる以上のレベルが目の前にある訳です。この環境を使わない手はありません。
私はジャンルごとに教えを請う人を分けてました。
画材のことは画材マニアのこの人、テクニックのことは水彩ならこの人、ガッシュならこの人、メディウム使ったマチエールならこの人、リアルタッチならこの人、デジタルならPCオタクのこの人、などそれぞれ特化した人に積極的に聞くようにしていました。調べるより聞いた方が早いです。
このような環境は会社でしかありえないかもしれません。

〈高いモチベーションを保てる〉
前述のような環境があるので、自分自身も努力しないとならないし、周りのイラストレーター達とも仕上がりを見比べられるので向上欲が高まります。
それがより良いイラストを描きたい、描かなければという大きなモチベーションとなります。

〈イラスト業界を仕組みを知れる〉
イラストレーションという仕事がどのように成り立っているのか、それを俯瞰的に知ることができます。
どのようなクライアントがいるのか、営業がどうやって仕事を取ってくるのか、受注→打ち合わせ→制作→納品までの仕事を流れ、などを知ることができます。
基本的に制作と営業は分業なのでイラストレーターは制作のみを業務としますが、私は仕事の構造を知りたかったので営業に同行させてもらい打ち合わせから参加させてもらったりもしていました。
そこでクライアントとのやりとりを培うことによりそれはフリーランスになってから活かされることになりました。
それと同時にビジネスマナーもここで学びました。

〈仲間がいる。切磋琢磨できる〉
イラストの業務は画面に1人で向かう孤独な作業です。
そういった中で、周りに人がいるという環境は孤独感がなく、色々な人にすぐになんでも相談できたり雑談を楽しんだりというメリットがあります。
切磋琢磨できる仲間がいるということは自分の成長や心身にとっても大事なことです。

〈異動が可能〉
会社にもよりますが、希望があればイラスト制作から他の部署への異動も可能な場合があります。
私の会社ではイラストレーション部→営業部→デザイン部と渡り歩きそれぞれのスキルを習得し独立した先輩がいました。
このような戦略的なスキルアップも可能となります。


続いて会社員でのデメリットも挙げたいと思います。


●会社員イラストレーターのデメリット


〈ブラックな可能性がある〉
私のいた会社での20年以上前の話ではありますが、勤務時間がとにかく長かったです。
9時半から18時という定時はありましたが、ほとんどその通りに帰れたことはありません。
新人の頃など皆の帰らなさに不安に思うほどでした。あれ?定時って22時ですか?みたいな。
また、会社に泊まりや休日出勤も当たり前の世界。多くの人がマイ寝袋を持ってました。
こればかりは会社によるので一概に皆そうだとは言えませんし、労働時間も法律で整備されてきてますので可能性として書かせていただきました。

〈最初は給料が安い〉
これも会社によるかもしれませんが、給料はとかく安かったです。
周りの話を聞くに新人の頃はデザイン会社全般給料が安いイメージです。
労働時間を鑑みるとなおさらです。
ただ、そのかわりお金を使う時間もあまりありません(笑)

〈煩わしい人間関係がある可能性〉
メリットでも挙げた人間関係ですが、人によってはこれがネックになる人もいるでしょう。
人が集まれば色んな人がいます。1人や2人気に食わない人が出てくるかもしれません。
またパワハラやセクハラなんかもあるかもしれません。
これはどんな業種でも同じです。
私は幸いなことにそういうストレスを感じないタイプでした。
変わった人が標的にされやすい傾向がありますが、私はそういう人にもコミュニケーションを積極的に図り、場が調和するよう心掛けてました。
強いて言えば嫌いだった人は仕事をしない人です(笑)

〈自分の描きたい絵は描けない〉
一概にイラストの仕事をさせてもらってるとはいえ、その内容が自分の描きたい絵ではないことは多いです。
あなたのパーソナリティにあったイラストではなく、会社を業績を出す為に選択し受注した仕事をするしかありません。
なのであなたが好きで描きたいという絵を会社の仕事で描かせてもらえることはほとんどないかもしれません。

〈レベルに追いつかない問題〉
イラストという特殊な仕事なこともあってか、実際に勤めてから周りのレベルに追い付けず自分の描けなさ具合に疲弊して退職していく人も多く見てきました。
続けていくことは本当に大変です。
向かない、出来ない、と思ったら早く別の選択を決断することを私は否定しません。

〈異動させられる可能性〉
メリットとして戦略的な異動の話を書きましたが、逆に意にそぐわない異動をさせられる可能性もあります。
会社という組織の都合が優先されてしまうのでせっかくイラスト制作で入社したとしても、希望しない部署へ異動させられる、そんな無慈悲な現実もあるかもしれません。

〈そもそも会社に入れない〉
入社するには面接や試験があります。
会社が戦力として認められるレベルの人でなければ採用されません。
イラストが好きだからという想いだけでは会社に入れないのが現実です。
また、相対的にイラストレーターを抱える会社自体の数が多くないということもあります。求人で探すことも簡単ではありません。




以上のようなメリット、デメリットが会社員イラストレーターにあるのだろうと思ってます。

ただ、私の場合はデメリットで書いた部分をほとんど感じてませんでした。
それを上回る、
「イラストレーターになれた」
「イラストの仕事で給料を貰えてる」
「絵がどんどん上達していく」
「仲間がいて知識や情報も早いスピードでアップデートでき、学校以上に大いに勉強になる」

ということに大きな喜びを感じながら会社に勤めさせてもらってました。


それからほどなく、私は会社を退社しフリーランスの道に入りました。


引き続きフリーランスイラストレーターのメリット、デメリットも書いていきたく思います。



まずはメリット。


●フリーランスイラストレーターのメリット


〈自分の絵のスタイルに合った仕事ができる〉
会社員では描きたい絵はなかなか描けない環境でしたが、フリーランスになって自分の作品で営業かければ、その自分の描きたい絵で仕事を得ることが出来ます。
好きで得意で描きたい絵、それで仕事ができる喜びは大変大きいです。

〈煩わしい人間関係がない〉
集団や組織が苦手な人にとっては個人で仕事することで人間関係の煩わしいストレスはなくなるでしょう。
仕事をする上で周りの誰かに気を使うことはありません。
そう言う部分ではストレスフリーです。

〈時間の使い方が自由〉
何時に仕事始めて、何時に終わろうが自由です。
時間に縛られる生活から解放されます。
忙しくなければ平日の昼間から映画や展示会を観に行ったり、ジムなどの運動、昼寝なども可能です。
全てのタイムスケジュールは自分で決められます。

〈通勤がない〉
基本的に在宅で仕事することになるので、通勤がなくなります。ラッシュ時の電車に毎日乗ることから解放されます。

〈初期投資額が多くない〉
最低限PCやスキャナー、プリンターなどが必要ですが、他業種の起業に比べれば支出は多くないかもしれません。
また、仕事における経費もあまりかかりません。

〈服装髪型自由〉
在宅なのでもちろん服装も髪型も自由です。
裸で仕事してても怒られません(笑)
私も昔は短髪金髪やロン毛にしてました。
打ち合わせであってもスーツで出向くということはまずありません。

〈喜びが大きい〉
クライアントは“あなた”という人間の描くイラストレーションに惹かれて仕事を発注してくれます。
それは自分自身の存在が認められることに等しいです。
もちろん責任も伴いますが、制作物を滞りなく納品し請求まで完了した際の達成感は会社員とは比べものになりません。
また、出版系の仕事の場合は自分の名前も記載してもらえ、認知の可能性も広がります。
納品後に担当者から「素敵なイラストを本当にありがとうございました!ご依頼して良かったです!」と感謝の言葉を頂けることもあり大変励みになります。
そのような自己を肯定してもらえる喜びもフリーランスならではなのです。



続いてフリーランスのデメリットも考えてみました。
メリット部分と相反することも多いです。


●フリーランスイラストレーターのデメリット


〈描きたい絵ばかりではない〉
イラストレーションはクライアントの目的があっての図案です。
なので自分よがりの絵は認められない事が多いです。
自分はこういう絵しか描きたくないんだ!と鼻息立ってもそれがクライアントの目的と合致しなければ仕事は来ません。
仕事的なイラスト、という絵も戦略的に描けるようにならないと仕事はあまりないでしょう。

〈孤独と怠惰〉
人間関係のストレスはないけども、基本仕事時間は孤独です。
どれだけ孤独に耐えられますか?
孤独は人間の健康にも影響を及ぼすと言われています。
その孤独を翻すアイデアも必要になってきます。
また、普通の会社員の友人から「自分には絶対出来ない。絶対サボっちゃう。」とよく言われます。このような怠惰問題も出てきます。
どれだけ自分を律せるのかもフリーランスでやっていける資質だと思います。

〈学びの環境が薄い〉
会社員イラストレーターのメリットとして学びの環境が大いにあると書きましたが、フリーランスになるとその環境がなくなります。
基本的には全て独学で様々なことを勉強しないとなりません。
今はネットであらゆる情報にリーチし学ぶことができますが、やはり人に聞くことの方がスピードは早いと思ってます。
また、独学では間違いもあるし挫折もあります。
自分が1人でも成長するための努力を惜しまない人でないとフリーランスは難しいかもしれません。

〈実は時間が自由ではない〉
メリットで時間が自由だと書きましたが、実際フリーランスイラストレーターとして仕事をしている実感として、実はそれほど自由ではないということがあります。
まず、生きる為にはダラダラとした生活をすることが出来ません。あまり仕事をせず怠惰な生活をしていたら当然ながらお金がなくなりたち行かなくなります。
その為には私は朝は9時半から、夜は18時くらいを目処に仕事をするようにしています。終業はその時々で早まったり遅くなったりします。
基本的に会社員時代と同じ業務時間にしています。
それはクライアントの会社も概ね同様なのでそれに合わせている方が都合がいいからです。
また、仕事が何件も重なり忙しい時は夜遅くまで、土日も仕事、ということも少なくありません。
さらにそれ以外の時間でも将来の仕事に繋げるための様々な作業、ポートフォリオ作り、サイトの運営や更新、営業先のリサーチ、営業活動、クライアントへのフォロー、作品作りなど、案外やる事が多く、フリーランスは短時間労働で時間自由ウェーイなんてことは幻想です。

〈経理や雑務の時間〉
会社員であれば経理に関しては全て会社が管理し処理してくれますが、フリーランスになるとそれら全ても自分でこなさないとなりません。
特に確定申告はとても面倒な作業です。
確定申告を正確にするためにも常に収入、支出、経費を管理しなくてはなりません。そのような雑務の時間も取られます。
ズボラでいると納税で損をすることになります。
この辺の意識も必要になってきます。

〈責任が重い〉
会社員と違って自分のミスを会社がフォローなんてことこもありません。
当然すべての責任は自分は負うことになります。
一つのミスでクライアントを失うリスクも抱えます。
仮にクライアントに損害を与えた場合、最悪賠償を請け負う可能性も否定できません。幸い私は経験ないですが、会社員時代に他の社員が起こしたクライアントに損害を与える危うい事件はありました。
なので一旦受注したら納品までは責任を負って完遂しなければなりません。
さらには目的を果たした喜ばれるイラストを制作しなくてはならず、それが伴わないとそのクライアントから次はないでしょう。
これらは肝に銘じなければなりません。

〈そもそも仕事とるのが難しい〉
これまで仕事がある前提で書いてきましたが、そもそもイラストの仕事を受注することの難しさが問題としてあります。
昨今、SNSも相まってイラストを描く人口が大変多くなっており供給過多のレッドオーシャンになってしまっています。
大変上手い人も多い世の中です。
その中で自分がフリーランスイラストレーターとして活動していく為には何を勉強して、どのようなスキルを上げて、どのような武器を持ち、どのような戦略を練る必要があるのか。
それを実行できるクリエイターしか食べていくのは難しい。そんな世界なのだと思います。



ざっとこんな感じでしょうか。


まとめてみます。


【会社員イラストレーター】

●メリット
〈個人ではできない仕事ができる〉
〈大いに学べる環境がある〉
〈高いモチベーションを保てる〉
〈イラスト業界を仕組みを知れる〉
〈仲間がいる。切磋琢磨できる〉
〈異動が可能〉

●デメリット
〈ブラックな可能性がある〉
〈最初は給料が安い〉
〈煩わしい人間関係がある可能性〉
〈自分の描きたい絵は描けない〉
〈レベルに追いつかない問題〉
〈異動させられる可能性〉
〈そもそも会社に入れない〉


【フリーランスイラストレーター】

●メリット
〈自分の絵のスタイルに合った仕事ができる〉
〈煩わしい人間関係がない〉
〈時間の使い方が自由〉
〈通勤がない〉
〈初期投資が多くない〉
〈服装髪型自由〉
〈喜びが大きい〉

●デメリット
〈描きたい絵ばかりではない〉
〈孤独、怠惰になりがち〉
〈学びの環境が薄い〉
〈実は時間が自由ではない〉
〈経理や雑務の時間〉
〈責任が重い〉
〈そもそも仕事とるのが難しい〉



会社員イラストレーターもフリーランスイラストレーターもどちらにも良い点、しんどい点はあります。
これまで書いてきたようにどちらが正解とかありません。
なので最初に
「どちらでもよい」
「どちらもよい」
と書きました。


私の経験で言うと、
会社員イラストレーターを経験できそうなのであれば、しといてまったく損はない、ということです。
私は自分の絵で自活したかったのでフリーランスを早々に選択しましたが、
会社員時代の大先輩でイラストレーション部のトップにいた方はフリーランスにならず定年までその会社に一社員として活躍されてました。
そして60歳をこえてからフリーランスという選択をし活動されています。
また、フリーランスだったけど面接にやってきて中途で会社に入社してきた方もいました。
これらのような選択もあるのです。

会社員なのかフリーランスなのか、
自分の人生プランと今置かれている現状をよく精査してどのような選択がよいのか、それを考えてもらえるといいかと思います。

イラストレーター人生を考える一助になれば幸いです。

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