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【ミックスダウン編】ボーカル/コーラス

歌モノの主役です。エンジニアからすると最も面倒なトラックでありますが、主役ゆえにいい加減にミックスすることはできません。今回はボーカルやコーラスのトラックをミックスダウンする方法を解説します。

ボーカル定食をやめましょう

DTMでも設備さえあればボーカルのレコーディングが容易になったため、プロではない方がボーカルをミックスすることも多くなっています。そういった方のトラックを見てみると、どこで仕入れた情報か不明ですが、コンプレッサー、EQ、ディエッサーを当然のようにトラックにインサートされていることが少なくありません。
アナログ時代であれば、レコーディングされた音を波形として見ることが不可能だったため、フェーダーコントロールだけでは音量を安定させることが困難だったことや、設定の復元性を担保するためにコンプレッサーは使用されました。本来コンプレッサーは予測不可能な音に対して使われるべきであり、フェーダーのオートメーションが保存可能な現代では、ドラムやギターのように毎回同じ音が鳴る場合にオートメーションを書くより効率的であった場合のみしか必要ありません。
ましてや、ボーカルのように楽曲やボーカリストによって音のパターンが変わるものには、固定されたコンプレッサーが適しているとは言えません。本当に良い音でミックスをしたいのであれば、可能な限りエフェクターを取り除いてください。

トラックは全部聴き、違和感や不要な音をミュートする

ボーカルトラックには、ボーカル以外にブレスも重要な音楽要素として記録されています。必要な音だけを残し、その他の音をまず全てミュートしましょう。ブレスも必ずしも重要とは限りませんので、不要なブレスはミュートします。
コンデンサーマイクでレコーディングしたトラックの場合、100人に1人くらいの割合で、発音の個性から10KHz付近が強く出るボーカリストがいます。ディエッサー的な処理が必要な「不快な音」が出てしまうトラックです。このような処理が必要なトラックは本当に稀で、ボーカリスト自身が訓練で発音方法を変えたりしているため、滅多にありません。そのような場合は、アナライザでどの周波数帯域か特定することができますので、その瞬間だけ「リニアフェイズEQ」で極めて狭いQで抑え込みます。なぜリニアフェイズEQなのかというと、特定の帯域だけ極端なEQの設定をすると音が歪むからです。ほとんど全てのDAWでEQのON/OFFもオートメーションで記録できますので、ピンポイントで使ってください。

音量の安定化はフェーダーで行う

不要な音を排除したら、音量の安定化を目指します。抑揚や歌詞によって、波形は安定していません。安易にコンプレッサーを用いるのもやめ、フェーダーでボリュームをコントロールしてください。音量を安定させるフェーダーの書き方は簡単で、音を聞く必要はありません。

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あるボーカルトラックの部分を、3秒でオートメーションを書いたものです。少々雑ではありますが、これだけでも充分に安定させることができます。画像を見ておわかりかと思いますが、音量が大きな部分は波形も大きくなりますので、波形の下側をなぞるように書くだけです。
コーラスのトラックも同様に全てオートメーションを書きます。
DAWによっては極端に音量が小さくなるかもしれませんし、他のトラックと合わせる時に音量の調整がしやすいようにバスを作って、そこに送ってください。ゲインアップするだけのエフェクターはどんなDAWでも持っているはずです。

ボーカルの音量バランス

慣れてくれば、ここまでの処理はすぐに終わります。
いま、音量の安定したボーカルトラックが目の前にあるはずです。しかも音質はほとんど破壊されていません。しかし、どの程度の音量にすれば良いのか見当が付かないと思います。慣れないうちは大変に迷います。
ミックス内で重要なものはセンターに集中しています。バスドラム、スネア、ベース、ボーカルです。これまでのステップで各トラックの音量は安定していますから、これらを全て-6dB付近のピークになるように設定してください。ドラムのオーバーヘッドは変わらず-12dB付近です。このセンターに位置するトラックはマスタリングにおいても非常に重要な役割がありますので、上記設定値を基準に微調整を行います。その上で、明らかにEQによる補整が必要な場合のみ、EQを使います。
センターのトラックのバランスが取れたら、それを基準にギターや他の楽器を自由に配置してください。途中でバランスが分からなくなっても、センターのトラックのバランスは維持したままです。
ギターなどのモノラルトラックが複数ある場合、完全な右か左に配置します。パズルのように、空いたスペースにトラックを埋めていくイメージです。

空間系は全体像が聴こえてから

いきなりリバーブやディレイなどをボーカルに使うと迷い込みますから、全てのトラックを並べてから、ボーカルのエフェクトを検討します。
最も失敗しないボーカル用エフェクトは、短い(500ms程度)プレートタイプのリバーブです。センドトラック(バス)を作成し、スネアからセンドしても使えます。ボーカルからのセンド量はだいたい-18dB程度に落ち着くはずです。

うまくいけばマスターのピークは超えない

ちゃんとミックスが進んでいると、マスター(最終出力)のピークを超えることはありません。逆に慣れてくると、最終出力はどんどん小さくなります。基本的にマスターフェーダーを触ることはありませんので、もしピークを超えてしまう場合は、センターのトラックからやり直してください。

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