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片道1時間の雪山頂上まで。

毎週末になると山を登っていた時期がある。山形の庄内地方という、市街地ながら自然豊かな所に住んでいた頃の話。

登山道はたくさんの人が踏み固め獣道のように、麓の登山口から山頂まで続く。1年の大半は眩しい緑色が生い茂る森の中、乾いた茶色い地面を辿る。しかし冬になると雪が積もり、あたりは一面真っ白になる。冬季登山ともなると人も少なく、誰1人の足跡もついていない登山道を進んでいく。それが最高に気持ち良い。

雪はよく音を吸う。映画館の壁際に立った時のように、音が消える。聞こえるのは自分の呼吸、雪を踏みしめるたびに鳴る「ギュクュッ」という音。30〜40cmほどの、ひざ上ほどの雪をかき分けるように足を前に出していく。

最初の30分が過ぎたところで必ず一息入れる。体調を見極め、この後のペースを考える。それと大切なのが糖分摂取。市販のお菓子を買い込み、休憩のたびに少しずつ食べる。ジワジワとエネルギーを消耗するため、定期的な摂取が欠かせない。水分も補給し、また歩き出す。

雪をかき分け歩いていると、真冬でもかなり体が暑くなる。最初はタイツの上にシャツ、フリース、マウンテンパーカーにマフラー帽子手袋と完全防備だが、途中からは帽子は脱ぎ、マフラーを外し、ジャケットとフリースの前は開けてしまう。それでちょうど良くなる。ただし吹雪いている日はひたすら寒い。風が体感温度をどんどん下げていく。凍傷にならないように、皮膚を覆い隠して進む。

葉は全て枯れ落ち、頼りなく立つ木々の1本1本の枝にも、丁寧に雪が積もっている。自然の現象には抜けがなく、完璧な仕事だといつも思う。不完全な人間はそのランダム性を生かして、突飛な進歩をする。などと、歩き続けていると様々なことを考える。一種のトランス状態となり、それは山岳信仰が色濃く残る、山形の山との相性も良い気がする。

標高500mほどの山頂になんとか到着する。杉の木に囲まれた神社があり、ついでにお参りする。少し開けているところでお昼ご飯にする。コンビニで買ったおにぎりを食べ、ポットに入れて持ってきた、湯気が轟々と上がる熱いお茶を飲む。冷める前にぐいっと飲み、胃からじんわりと暖かくなっていく。

雪の向こうに、白く霞んだ遠くの街が見えた。建物もすっかり雪に覆われ、わずかに車が動いているのがわかる。冬の街を離れたところから見るのが1番綺麗だと思った。


Shin Itagaki / 板垣晋
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