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鋸山に行って来たよ-27

これまでのお話

前を行く人の姿も見えなくなったことだし、下山を再開しよう。
山際と柵の間に作られた細い道を進んで行くと遠くに湖が見えてきた。周辺を削られたようにポツンとある。人によって造られたものかな。

幹が折れたのか、へし曲がったのか。束になった枝が地面へと首を垂れている。その先の木はまるで細い糸が絡み合うような根が地上へと顔を出している。

台風の影響かのかな。

道はそれなりに広めだけど乱雑する木々のせいで歩ける場所は少なく、斜面は急で足を滑らせれば真っ逆さま。険しい道では注意を払わないと。


「気持ちい」

上り下りを繰り返しながら進む尾根道、歩きやすい平らな道へと変わると後ろからたぁの漏れた声が聞こえてきた。

私たちは平らな尾根道が大好き。

木々がなければ広大な景色が見渡せるし、木々に囲まれた道なら両脇を斜面などに邪魔されない緑の空間を楽しめる。だけどここでは上り下り、岩場も出てくるから、滑って膝なんて打たないように必要な時は足に力とグッと入れておこう。


私は岩や枝、ロープに鎖などをすぐに掴めるように両手には何も持たずにハイキングを楽しんでいた。ある時、たぁにスティックを勧められて、彼の好みである一本使いを試してみたけど体勢が崩れ、逆に力んだり腰にゆがみを感じたので、再び両手空きに戻った。だけどしばらくすると歩く時の姿勢の悪さから腰に痛みが出るようになり、対処法をググりまくって今はダブルスティック使いになっている。

腰を曲げずに上半身はまっすぐ保ち、足を動かす。それを補助するようにスティックを使うようになってからは腰痛に悩まされることはなくなった。
若い頃はハイキング後、筋肉痛くらいしか感じなかったけど、年を重ねていくうちに昔の無理は出来ないとばかり、体は痛みとして黄色信号を発するようになった。それにちゃんと向き合えば、解決と共に自らを向上でき、「痛みが原因で趣味を止める」ことなんてしないで済む。

その時々に合わせて自分を調節していくことって大切だよね。

だけど岩場ではつい姿勢が崩れてしまい、ついスティックに重心をかけすぎて腰が曲がってしまう。スティックはあくまで補助、そして下腹部に力を入れたまま進めるよういろいろと試しなら進むことが結構楽しい。それでもまだスティック頼りになることがあるから、気を付けながら習得していきたい。


先に別の湖が見えてきた。さっきは水色だったけどここは緑色・・・・・・といか茶色?
周辺は緑に囲まれていて異なる印象を受ける。


「コンパクトギターあったら絶対便利だよね」

たぁは昨日からずっとそんなことを言っている。
約2年前のスペイン旅行でギターに興味を持ち、ブルーグラスというジャンルを知ってからは日々、上達に向けて励んでいる彼。旅中のちょっとした暇つぶし時間を使って練習をしたいらしい。

「でもどこで弾くの?」

「ここでこうやって」

森の中、笑顔で一人、ギターを奏でるふりをする。

「こんな荒れた道を歩きながら弾くのは無理でしょう」

だけど、倒れ木に座って弾くのはありか?

スナフキンやってるもんね。

ってか、荷物になるでしょ。

まぁ、本当のところ、宿で弾くことを考えているんだろうけどね。

それもいいかもしれない。

今、私たちは夕食後、互いに勉強をしている。彼はギターで私は英語。彼も私も更なる上を目指している。

前はダラダラテレビを見ていたけど、なんだかくだらないルーティンに疲れを覚えてからはうまく時間を活用できていると思う。

まぁ、彼は自分がやりたいことならしっかりと行動できる人だ。旅に向いている良いギターが見つかるといいね。


階段をググっと降りていくと他の木に巻き付きながら成長しているねじれ木を発見。こやつは自立せずに上を目指す。一度は巻き付いてなんと太陽光が直接浴びられるてっぺんまで伸びているのを見たことがある。

こういう人もいる。

木の個性は人の個性を思わせる。


地崩れが起きたのか、道の両端の木がすっぽりとなくなっている。

自然の残酷さって感情を伴ない分、計り知れない。

道だけは歩けるようにと整備してくれたんだと思うと、感謝です。

その後もすっぽりと木々がなくなり、裸になった尾根道がいくつか出てきた。


人に邪魔されない二人だけの時間が楽しい。

自然の中、互いの世界に浸ってみたり、話してみたり。そして自然の脅威をも目にしながらのんびり進んでいると、標識が見えてきた。

「えっ、まだ700mしか進んでないよ」

「そんなに遅いの?」

うん、あなたの歩みでもあるんだけどね。

この先、4.6㎞の林道を歩いて1時間半弱で保田駅に到着したいんだけど、すでに無理だと予想される。

「お腹空いたからおにぎり食べたい」

「ならここにしよう」

少し先が開けていてちょっとした広場になっている。
現在、13時半。下山した後は夕食のことを考えて食べなくなるなら今のうちにあまりものはお腹に入れておいた方がいい。

雲一つない空の下、日差しは強いけど吹く風は冷たいのでパーカーを羽織っているくらいが丁度良い。

石切り場跡なのか、ピラミッドのように見える。
森の中、突如こんなものが出てきたら、そりゃぁ神秘的だよね。それがもっと深い森の中、もっと広大なスペースで異世界を発見できたのなら。

はぁ、マチュピチュ行きたいな。




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