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非中央集権となるWeb3時代、僕たちはレピュテーションとアイデンティティをどう担保していくのか?

TwitterやInstagramのフォロワー数、Facebookにおける繋がり、LinkedInの経歴、YouTubeやTikTokにおける再生数など、あらゆるプラットフォームでユーザーのレピュテーションは可視化されます。

※podcastでもこのnoteの内容を話しました🎙


それは多くの場合、それは暴力的なまでのバイアス発生装置となり、プラットフォームにおけるコミュニティ内での優位性へ暗黙的に還元されるものとなります。

現実世界よりもはるかに簡易的に自分のレピュテーションを証明することができるオンラインでの「数字」の存在により、人々のコミュニケーション、およびコラボレーションが促進されている一方で、その数字を維持向上し続けることが人生の目的に置き換わり、疲弊している人がいることも事実です。その結果フォロワー数や再生数などの「数字」に対する信頼性にも疑問が生まれます。

また数字に限らず、溢れんばかりのPRコンテンツ、Googleを出し抜くことに情熱をかけるSEO業者、アテンションと感情をハックするフェイクニュースの横行など、僕たちのインターネットは信頼とはほど遠いものになってしまいました。

中央集権的な企業に管理されている数字とコンテンツの前では、僕たちは何が真実で何が嘘かを証明することはほぼ不可能です。

LESS TRUST, MORE TRUTH

WIREDのインタビューでGavin wood氏は「信頼に代わる真実を」と、シンプルな言葉で言い表していますが、非中央集権的にデータを所有できる分散型の世界では「信頼」という(リスクある)コストを低減することができます。

Web3の世界線では、個人のレピュテーションはオンチェーンで可視化されます。それは誰でも簡単にアクセスでき、相互運用可能であり、あらゆるアプリケーションを通して共通のアドレスが参照され、そこには客観的な真実があるのみです。あなたはそれを検証(確認)すればいいのです。

僕たちは誰かを評価するとき、その人のフォロワー数やソーシャルメディア上のコンテンツ、学歴やキャリア、Googleにおける名前の検索結果などを参照し、信頼のレンズを無意識的に使っていました。

Web3時代においてそれは過去のものとなり、検証のレンズが主流となることで、新しいレベルのインタラクションの鍵を開けることになります。

僕たちは人を評価するとき何を"Don't Trust. Verify"するべきか?

検証レンズが機能するのはまだ先の話となるでしょう。Web3黎明期である今オンチェーン上のデータは未だ少なく、かつソーシャルレピュテーションを効率的に数値化する仕組みはありません。

現状の代替案としては、ウォレットアドレスにある(つまりブロックチェーン上であなたが所有していることが証明されている)情報をもってしてそのレピュテーションを評価、判断する他ないでしょう。

その情報というのは以下のような要素の組み合わせであると考えられます。

1.どのトークン/NFTをもっているのか?

vitalik.ethのアドレス上にあるるNFT

どのトークン/NFTを保有しているかを確認することは、その人がどのようなプロジェクトに共感をし貢献をしてきたかを一目瞭然で知ることができます。

Ethereumにとどまらず、あらゆるプロジェクトが独自トークンを発行しています。もちろんそれは取引所などで購入(交換)できる一方、特定のミッションを達成(貢献)することでも獲得でき、それはUniswapなどのDEXを通して他のトークンと交換が可能です(Ethereumしかウォレットにないようであれば、100種類のトークンを持っている人に比べて評価されにくいかもしません)。

トークンはそのボリュームとの兼ね合いによってその人の過去実績が測られますが、このトピックである「何をもっているか?」についてはNFTがわかりやすいかと思います。

もしあなたがBAYC、AZUKI、Nouns、CryptoPunks、cloneXなどのNFTを持っていれば、それだけで他人から一目置かれ、羨望と尊敬の眼差しを集めることは想像に難くなりでしょう。

それらはもはやラグジュアリーファッションであり、ランボルギーニやバーキンを所有していることと同義といえます。リアル世界と同様、何を所有しているかで評価される世界線がそこにはあり、(トークン含む)NFTはアイデンティティでありファッションの地位を確立していると言えるでしょう。

今やNFTはユーティリティ性を帯び、どのコミュニティに所属しているかの証明書のようなものにもなっています。

これら類のNFTは基本的に転売可能であり、投機的かつ一時的な所有も可能なので注意も必要です。個人的にはPORPのような証明書NFTに注目しています。

リアルイベントの参加証明書をNFT化して配布するなど、何かしらの活動のエビデンスとしてNFTを活用できるプロトコルです。あくまでも個人に紐づく活動の証明であり、そこに価値はつきませんがフィジカルな活動をオンチェーンで表す有効な方法といえるでしょう。

ヴィタリック氏も「Soulbound」という言葉でその可能性について言及していました。音楽や教育系のプロジェクトなどあらゆるシーンで今後NFTが発行され、それはレピュテーションを検証するための手段となり機能するでしょう。

一方これらトークンはその発行チェーンに依存するため、クロスチェーンサポートの登場が求められます。

2.どれだけ持っているのか?

https://zapper.fi/account/vitalik.eth

流動性の低いNFTは何を持っているか?の項目で有効でしたが、流動性の高いトークンにおいてはそのボリュームを考慮することが大切です。

Web3上における活動の対価としてトークンが報酬として発行されることが一般的なため、仕事文脈において人を評価する際はどのトークンをどれだけ持っているかを確認しましょう。

これらクリプト通貨は、DAOへの貢献に応じて発行されるため、コミュニテ
ィへの関与や活動実績を定量的に測定するのに適した方法といえます。つまり過去成果の実績証明であり、資産でもあるのです。

従来においてはレピュテーションと資産は単一の場所で確認することはできず、一方的に信頼するしかありませんでした。

強い影響力をもってしてもマネタイズに繋げられず、逆に多くの資産があっても影響力に繋げられなど、それはイコールのものとはなりません。しかしWeb3の世界線ではその両者はアラインされ適切な努力をした人には資産と評判が合わせて積み上がる仕組みになっています。

これはコントリビューターを採用するときの、検証可能なクレデンシャルとして機能し、どのようなオファーをするかの明確な基準となるえるでしょう。

DeBankやZapperなどのプレイヤーがでている一方、まだ課題ばかりであり機能するのはもう少し先になりそうです。

このようにウォレットの中身がわかりやすく可視化されるツールです。

大きな課題としては、基本的にトークンは誰でも取得できる状態にありますので資産さえあればトークンを大量に購入することで、そのコミュニティの評判やガバナンスパワーを高めることができる点があげられます。

長期的な貢献によってトークンを得てきた人と明らかに違う性質をもっているオーナーであり、これから「購入したトークン」と「獲得したトークン」を分ける仕組みの登場が求められます。

3.保有している期間は?

Hold On for Dear Life

ボリュームにも繋がる部分ではありますが、取得におけるタイムスタンプもレピュテーションを検証する重要な要素でしょう。

1年前にBAYCを取得しているのか昨日取得しているのか、UNIトークンをエアドロップで得ているのかそうでないかを見ることは、クリプトリテラシーを評価するわかりやすい方法です。

また、veTokenの勃興をみても分かる通りトークンを長期保有してくれるユーザーは、発行体にとって非常に価値あるステークホルダーであるため優遇するインセンティブが発生します。

例えばCurveはCRVトークンを4年間ロックしてくれるユーザーに対してveCRVトークン発行し、それを活用して利回りをブーストできる仕組みを設けて売り圧力を抑えるという発明を行いました。この仕組みが非常にうまくワークしたため、Convex、Votiumなどのプロトコルを巻き込み独自のエコシステムを生み出しました(これが俗に言われるCurve Warです)。

まだ歴史的にも浅い業界でもあります。いつ取得したのかで評価されづらい部分もあります。このようにいつまで保有するのか?と将来に向けたコミットによってレピュテーションをveトークンやNFTによって可視化される仕組みはまだまだ生まれてくることでしょう。そしてそれはCurveのようにユーティリティを伴う一石二鳥的なツールとして機能することが予測されます。

4.どんなコンテキストを持っているのか?

日本だと特にそうですが、家族、職場、友人、趣味などコミュニティによって人は振る舞いを変えることが普通であり、それぞれのレピュテーションは変化します。

それはプラットフォームにもいえ、ほぼ全ての人がInstagram、Twitter、LinkedInで発信するコンテンツは異なるものとなっているでしょう。レピュテーションは文脈によって異なります。

まだWeb3やNFTのマーケットは大きくないため、単一のウォレットアドレスでレピュテーションは担保されるでしょうが、今後トークンが偏在するにつれてウォレットをどう使い分けるかがイシューになりえることが予測されます。

・単一のENSドメインのもと使うOne-In-All Wallet
・財産と評判を意図的に切り分けたPersonal/Public Wallet
・プロジェクトやジャンルごとに切り分けた個別ウォレット

などなど、そのコンテキストに応じて、ウォレットを使い分けるなどの活用は進んでいくでしょうし、その保有トークンのシャーディングの技術などもこれから加速していくと考えられます。

この課題を解決しようとしているプロトコルも登場しています。

日々のオンチェーン活動と合わせて、オフチェーンの活動のどこまでを記録するのかなどの考慮や、どのトークンやNFTの所有をHIDEするのか、などウォレットのプライバシー保護はマーケットが成熟するにつれより求められるようになるでしょう。

ブロックチェーン上では、(Web2時代のように)なかったことをあるように振る舞うことはできません、だからこそよりクリティカルな問題としてあったことを隠すための技術が求められるように思います。

5.存在する唯一の人間によるものなのか?

https://www.proofofhumanity.id/

レピュテーションを評価するにあたって、現状のテクノロジーではウォレットを参照することが唯一の手段であることがおわかり頂けたかと思いますが、案外見落とされがちなことは、そのウォレットアドレスの持ち主はその本人のものであるかどうかという論点です。

中央集権的なプラットフォームが個人であることを担保するわけではありませんので、そこには分散型ID(DID)という自分が自分であること、そして自分に関する情報を証明する技術が必要になってきます。

それは「Decentralized Identifier」また「SSI(Self-sovereign ID)」と呼ばれる領域であり、基本的なものとして、第三者に対し自分が存在していてそのアカウント情報は私個人によるものであると承認してもらう仕組みが挙げられます。

例えば先日BrightIDというアプリでIDを作ったのですが、アカウントを承認するには、決まった時間にBrightID Connection PartiesというZoom Callに参加してBrightIDのスタッフのQRコードを読み取りお互いに承認しあう必要がありました。

その時のスクリーンショット(中央上が筆者)。このあと2人参加しましたがスタッフと右下の彼を除き全員が黒人の方でした。

こちら含め以下がDID領域の代表的なプロダクトです。今後のレピュテーション評価において様々なプロジェクトにマストなものになりえるでしょう。

Grant DAOの代表格であるGitcoinでは、ユーザーはこれらDIDのアカウントと紐付けることを求められます(必須ではありませんが、インセンティブが提示されます)。

https://gitcoin.co/shinichirokinjo/trust

サクラとなるユーザーの発生を防ぐための施策ですが、Web3の特性ともいえる偽名経済において、今後クリティカルなイシューになりえることが予測されます。

レピュテーションとアイデンティティはクリプトのフロンティア

何をどれだけもっているのか?そしてそれはどの期間もっていて、どのウォレットにあるのか?そのウォレットは誰のものか?レピュテーションを正しく検証するにはこれら要素を考慮する必要があり、その最適解はまだないように思えます。

多くのトレードオフをはらんでいる領域であり、主に以下のような論点があげられます。

  • レピュテーションの要素は動的と静的どちらであるべきか?

  • 全てオンチェーンにするべきか、特定の要素はオフチェーンでも許容するか?

  • オフチェーン要素をどのように、継続的にオンチェーンに乗せていくのか?(オラクル問題)

  • IDとの紐付けをどこまで強制するのか?

実質デファクトスタンダードになっているウォレットのメタマスクは未だに月間3000万ユーザーとなっており(重複もかなりの数あるでしょう)、まだニッチの領域を脱していないといえるかもしれませんが、このウォレットを軸としたレピュテーション/アイデンティティの改善はこの1年で急速に進むことが予測されます。

ソーシャルメディアがWeb2時代のキラーアプリケーションだったように、Web3 Social領域にもたくさんの資本が注ぎ込まれています。僕たちYoursDAOプロジェクトもまさにこのレピュテーション問題の解決に繋がるプロダクトを仕込んでおり、コントリビューターの活動履歴をソーシャルキャピタルに変えていくためのチャレンジを推し進めています(興味ある方はぜひDiscordへ)。

「トラストフリー」がWeb3の本質であるならば、この領域は一丁目一番地といえ、ブロックチェーン開発に次ぐ最重要プロトコルの一つといえるでしょう。

L1ブロックチェーンのプレイヤーが出揃いL2領域も含め熾烈な競争が起こっている今、このレピュテーション/アイデンティティ分野が次なるフロンティアな気がしてなりません。

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