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ブロックチェーンゲームの面白さに関する考察

こんにちは、Murasakiの村田です。最初のBCGタイトルをリリースしてからありがたいことに色々なお話を頂く機会が増えました。また順次リリースしていければと存じます。

ちなみにスキポール空港でこの記事を書き始めまして、中国の空港でほぼ完成していたのですが電池が切れてしまいあえなく下書きセーブできておらず1からやり直しになってしまいました。

気を取り直して再度書き始めたところ、電車の乗り換えに失敗し東京でのイベントに遅れてしまうことになりました。数多の困難に抗って完成させた文章なので、是非とも最後まで読んでもらえると嬉しいです。

このツイートの主旨に沿って話題を展開したいと思います。

前提条件

ブロックチェーンゲームってシンプルな作りのものが多いのはなぜかという話から掘り下げていきます。誤解を恐れず言うとゲームっぽくないというか初見のユーザーが見たらクオリティが低いしコアゲーマーは誰もやらないのでは?と思いますよね。

BCGを開発している人、プレイしている人とゲーム会社でBCGをやったことない人、ゲームをプレイしている人でそれぞれ語る「ゲーム」の前提が違うから、話しても食い違うことがあります。そして、BCGは分類というよりフォーマットなので、BCGを一括りとして捉えてしまうとモバイルゲームやオンラインカジノとAAAタイトルを一括りにして他と比較するみたいなトンチンカンなこといなってしまいます。

ゲームの分類

カイヨワの「遊びと人」という1958年に書かれた古典書があるのですが、それによるとゲームは4種類に分けられるそうです。

競争 (AGON) :ルールに則り技能を競う(スポーツ・eスポーツ)
運 (ALEA) :確率にbetして勝敗を決める(カジノ・くじ)
模擬 (MIMICRY) :約束事を決めて何かになりきる(RPG)
眩暈 (ILINX) :非現実的な行動を楽しむ(アクション・Xスポーツなど)

これはゲームが明確に4分類できるよ、というものではなく幾つかの要素を持ったゲームが存在します。

Roger Caillois and one possible view about the complexity of games and play forms

よく「これからのBCGは面白いことが大事だよね」みたいな話を耳にするのですが、実際に困った事例があるので共有します。

分類別のゲームの面白さと期待値

以前こんな一幕がありました。とある大手ゲーム開発会社のお偉い方とお話しする機会があり、私たちが開発しているゲームの説明をさせていただく機会がありました。その際に、「そのゲームは面白いのか」という質問をされ、私は「このゲームの面白さはこういうところにあります」と回答しました。しかし、「そのゲームはXX(超有名RPGタイトル)と比べてどう面白いのか。私たちが求める面白さではない」と言われてしまいました。

私たちチームとしては、人々が求めるものを届けることが重要だと考えています。だからこそ、きちんと分析した上で、"面白さ"とはどういうもので、どのようにプレイヤーに届けていくのか、それなりに考えた上で開発しています。

その方がおっしゃっていた"面白さ"とは、一定のクオリティのグラフィックと没入感があり、ロールプレイングやアクションの要素、あるいは没入感や体験価値を指していると思います。上記の分類で言うと模擬 (MIMICRY) と 眩暈 (ILINX) ですね。スーパーマリオとかドンキーコングみたいなシリーズを連想しています。

ここで重要なのは面白さの期待値をずらさないことです。「みんなで遊べるポーカーのアプリケーションを作っています」という期待値を伝えられて、それが豪華絢爛なグラフィックやアクションで飾られていたら、プレイヤーは「いやいや、サクサク進めたいのに邪魔だよ」と思うでしょう。

でもアバターを作れて、例えば自分がプレイした履歴をアバターAIが勝手に読み取ってくれて、自動でポーカーをプレイしてくれる分身AIがテーブルで対戦してくれるよ、となるとそれは面白そうです。求めている"面白い”という体験が期待値に沿っていますよね。

同様にスポーツにおいてハーフタイムショーがある分にはいいのですが、試合中に突如としてエフェクトが出たり、音楽が鳴り響いたりするような状況は、スポーツが追求している文化や"面白さ"に対して不誠実だと考えています。

なので、「面白いゲーム」みたいな話をする時に議題に上がるゲームそのものの分類がズレているので話にならないことが多々あります。

ゲームカルチャーの違い

日本のブロックチェーンゲームの界隈ではあまり認知されていないのですが、現時点で最も成功しているブロックチェーンゲームといえば私はファンタジースポーツのSorareを思い浮かべます。

年間売上は400億円規模です。スポーツやギャンブル的な要素が含まれているため、ゲームと呼ぶことに対する抵抗感があるかもしれません。「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」のようなゲームを期待している方はゲームではないものとして映るのではないでしょうか。

一方で、欧米のゲームの定義というのは広く、スポーツの試合もゲームと呼ばれ、ギャンブルも同様にゲームとして認識されます。つまり、「ゲーム」と呼ばれるものの範囲が非常に広いのです。例えば、スロットマシンとスーパーマリオを比較して、「これはゲームとして面白くない」という意見は適切ではないと思います。運やチャンスを楽しむゲームに対して、没入感やグラフィックの良さを求めるのはおかしいですよね。

ブロックチェーンゲームの現場において、しばしば見受けられるのは、自分自身があまりプレイしたことのない人々がマーケットやジャンルを混同してしまい、違う種類の"面白い"を求めてしまうことです。現時点ではブロックチェーンの特性上、金融との接続性が高いため、競争や運によるゲームが多いのも事実です。だからこそ、事業者としてゲームの話をするときには、その前提を揃える必要があると私は考えています。

ゲーム開発について

このセクションで言いたいことは、伝統的な文脈の面白いブロックチェーンゲームは作れるのかということです。結論から言うと、スタートアップにはリソースと競合環境の観点から難しいのではと考えています。

  1. グラフィックが綺麗で操作性の高いタイトルは数百億円のお金がかかる

  2. お金をかけても当てるのは難しい

  3. 競合が超強い

  4. 開発に時間がかかるので、その間にブロックチェーンのトレンドが変わる

コインテレグラフ本家のコラム連載にも書いたのですが、ゲームを開発してヒットさせるのは非常に難しいです。

良くあるのが、ティザー動画とデリバリーされた製品が全く違うという現象です。

まず、ゲームらしいゲーム、いわゆるAAAタイトルがブロックチェーン上で遊ばれる未来は訪れると考えています。しかし現状を見ると、ほとんどのAAAタイトルと呼ばれるゲームはティザーから大幅にダウングレードされるか、あるいはリリースされない可能性が高いと思っています。

例えば、ブロックチェーン版の「原神インパクト」を作るというプロジェクトがいくつか存在しますが、原神の開発には100億円以上と3年以上の時間が必要となります。さらに、運営にも年間200億円以上が必要となります。

ブロックチェーンゲームの開発の流れをおさらいしますと、

1. ホワイトペーパーを公開
2. 次にティザー動画を公開
3. NFTやトークンを発行し、プレイヤーや投資家からの資金調達
4. 開発開始

実はそれっぽいティーザー動画は100万円程度で作ることができます。あたかももうすぐティザー動画の内容が出るかのような紹介をして、期待値を上げていきます。

問題は見た目がそれらしいティザーと、実際の操作性、サーバー接続やバックエンドの安定したタイトルには99億円以上の隔たりがあることです。
このギャップを埋めるためには、資金調達時に期待値を煽ったり、ダウングレードしてリリースするしかありません。

プレイヤーや投資家、VCなどが、面白いゲームとしての要素を持つタイトルが流行ると考え、これに資金を提供することは多々あります。しかし、これらがゲーム開発中であると言われたとしても、実際のゲーム開発経験がなければ、その本質を理解するのは難しいでしょう。

最近では世界中のプロジェクトが開発予算不足でデリバリーができないケースが増えてきています。例えば、100億円以上かけてFPSタイトルを作れたとしても、APEX、フォートナイト、スプラトゥーンなどのような大型タイトルと競合することになります。ブロックチェーンじゃなくても熾烈な争いなのに勝てるのか、これがスタートアップの戦いなのかどうか、そのあたりも大いに疑問が残ります。

実際にリリースできているタイトルも存在しますが、100億円以上のコストを回収できるだけブロックチェーンゲームの市場が存在するのか、と問われれば、ないのではないかと考えています。

また開発に3年もかかってしまうと毎月変わるブロックチェーンのトレンドにキャッチアップできないのでは、とも。

スタートアップが目指すBCGの面白さ

AAAタイトルみたいなところは大手さんにお任せして、我々新興のスタートアップはどんな面白さを提供すれば良いのでしょうか。リソースが無限にある訳ではないので、ブロックチェーンだから面白いタイトルを目指すのが良いのではないかなと思います。

BCGの面白さの源泉は金融との接続性とプロトコル間の相互互換性にあると思います。これをWalletless-onboarding、つまりウォレットがなくてもプレイできて、後でアセットの交換や売買をする場合はウォレットを開設するようなタイトルが主流になると思います。

私も色々なBCGを遊んでいますが、Sorareなどの金融との接続性を活かした
「競争」や「賭け」を重視したジャンルは面白いと感じます。すぐにお財布にフィードバックが来るので、勝ったらまたプレイしようと思いますし、負けても次に勝てる方法を考えてしまいます。

もう一つは相互互換性です。これを重視したプロジェクトはまだ市場に少ないと思いますが、例えばNFTWarsなどはブロックチェーンを共通規格のDBと捉えて、無限生成されるNFTというコンテンツで遊べるようにするという、ブロックチェーンであることの蓋然性が高いプロダクトだなと感じます。モンスターファームみたいで懐かしいですね。

このあたりもう少し次回掘り下げたいですが、今回はこの辺で!


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