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欧州スーパーリーグとCLの新フォーマットについて

※こちらは各クラブからスーパーリーグ参画のアナウンスがあった2021年4月18日に書いた文章でして、現在既にたくさんのアップデートがされていますので最新情報が気になる方は他のソースを参照下さい。

背景

これ、「誰がルールを作るか」という話です。

欧州スーパーリーグは、現在レアル・マドリードとマンチェスター・ユナイテッドがヨーロッパのPEファンド、キー・キャピタルと画策している欧州トップクラブを集めたリーグ構想です。

この構想自体は数回報道されていますが、主導しているレアル・マドリードのペレス会長の発言をざっくりサマると以下の通りです。

・無観客試合になったことによってビッグクラブの方が収益低減率が大きい
・若いファンはコンテンツ消費に慣れているのでそれに合わせたフォーマットに変更する
・日程が過密すぎて選手が怪我をする確率が高まっている

個別クラブの背景として、レアル・マドリードはサンティアゴ・ベルナベウ改修費用の資金調達の為に約750億円のローンを組んだばかりでした。最初の支払いは2023年に予定されていますが、観客動員が不透明な中かなり資金繰りが厳しい状況になっています。

元々はより多額の放映権料を獲得する為にビッグクラブ間で始まった議論でしたが、コロナ禍によって財政悪化した同クラブと、似たような状況に陥った複数のビッグクラブが集まって欧州スーパーリーグを実現しようという風潮が強まっています。

UEFAが発表した更なる商業的成功を目指す為の新しいCLフォーマットに呼応する形で、再度スーパーリーグを構想する複数クラブが「新しいリーグの実現にサインアップした」という形で声明を出すに至ります。

現在、同構想に参加を表明しているのは以下12クラブです。

イングランド:マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、マンチェスター・シティ、アーセナル、チェルシー、トッテナム
スペイン:FCバルセロナ、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリード
イタリア:インテル・ミラノ、ACミラン、ユヴェントス

これら12クラブは昨シーズン赤字決算で締めています。昨シーズンリーグがクローズしたのは3ヶ月のみです。(リバプールのみ未提出)

ちなみに、フランスとドイツのクラブは参加表明をしていないそうです。

これに対し、UEFAは「このプロジェクト(スーパーリーグ構想)は、社会がこれまで以上に連帯を必要としているときに、少数のクラブの私利私欲の上に成り立っているものです」と批判。

これにはUEFAが発表したCLの新フォーマットの構想やスーパーリーグの商業的可能性などが絡んでおり、その辺りを整理していきたいと思います。

CLの新フォーマットについて

そもそも欧州スーパーリーグ議論が再燃した原因は、UEFAが発表したCLの新フォーマットの発表に起因します。

これは結論から言うと、欧州スーパーリーグに加盟するようなビッグクラブに「寄せた」提案となっています。

時期:2024年から
可決予定:今春
フォーマット:現在のグループステージに代わって、36チーム(現在32チーム)による1つのリーグを設け、全チームが10試合を消化(スイスモデル)
増加試合数:100 例)ファイナリストは最低17試合(+4試合)を戦う
CL出場枠:増えた4枠のうち3/4がUEFA係数に基づき欧州での過去5年間の実績に基づいて参加クラブが決定

この新フォーマットには以下のような狙いがあります。

・裕福なクラブの持続可能性を更に高める(ビッグクラブのセーフティネット)
・チャンピオンズリーグ全体の放送価値を高める
・スーパーリーグの脅威を回避する

これは日に日に大きくなるビッグクラブの発言権と欧州スーパーリーグ構想に対する妥協案と考えられます。ある種欧州スーパーリーグの内容を包含してしまい、商業的にもより大きな成功を目指すことで収束に務めます。

UEFAは良くも悪くもCLのフォーマットをビッグクラブ贔屓に変更することで現在の構成を保とうとします。

Independent紙によると匿名のBIG6幹部は "We don't want too many Leicester Citys."という強烈な発言をしています。

ちなみにUEFAはこれ自体でも批判を受けており、Crystal Palace会長のSteve Parrish氏はこれを「国内リーグに壊滅的な影響を与える」として新フォーマットを批判しています。色々言われていますが、主に以下の理由です。

・事実上の国内カップ戦消滅を意味する
・これ以上の過密日程は物理的に不可能である(カップ戦消滅にも繋がる)
・クラブ間格差が拡大してしまう
・結局、欧州スーパーリーグと変わらないフォーマットになってしまう

クラブ間格差についてどうなるかと言うと、トッテナムは昨シーズン6位でしたが新フォーマットによるとCL出場権がありました。一方レスターは5位でしたがELスタートとなっていました。今年はエバートンがリヴァプールより上位でもリヴァプールにCL出場権が与えられる可能性が高いです。

今回の新フォーマットでは過去5年間の実績ですが、サッカーの歴史をどこまで振り返るかによっては、シティよりエバートンやアストン・ヴィラにCL出場権が与えられるべきかもしれません。

そして、この声明を受けてプレミアリーグから6クラブ(シティ・ユナイテッド・チェルシー・スパーズ・アーセナル・リヴァプール)がプレミアリーグから離れ欧州スーパーリーグへの参画を表明したと報じられます。

UEFAは一度本件に関してECA(European Club Association = 主要クラブによる委員会)とヨーロッパ各国リーグのサポートを得たものの、ECAの会長兼ユベントスの会長でもあるAndrea Agnelli氏がユナイテッドとレアル・マドリードを中心とするスーパーリーグ構想に肩入れする発言が明らかとなり議論が巻き起こっています。

(Agnelli氏にコンタクトしても捕まらないそうです)

追記:この後Agnelli氏はECAの会長を辞任しました。

欧州スーパーリーグについて

以下に欧州スーパーリーグ側の提案をまとめます。太字に創設グループ側の意図が見え隠れしています。


参加クラブ:15クラブ常任創設メンバー+その他5クラブ
頻度:1回/年
フォーマット:
・グループリーグ10クラブ×2グループ(H&A)
・各グループ上位4チームが準々決勝、準決勝、決勝(1試合)に進出
・試合はミッドウィークに行われる(国内リーグ所属が前提!)
創設クラブの特典:合計£3.1bn(約5,200億円)の「インフラストラクチャー・グラント」を約£310m(約460億円)から£89m(約130億円)を各クラブに分配(CL出場権は£100m程度の価値)これをスタジアムやトレーニング施設、あるいは「Covid-19によって失われたスタジアム関連の収入を補う」ために使用可能
OTTでの放映:クラブは1シーズンに4試合を自分たちのデジタルプラットフォームで放映する権利を持つ

放映権料の分配:
・創設クラブ(15クラブ):32.5%
・予選通貨した5クラブを含む全クラブ(20クラブ):32.5%
・グループ順位に応じて分配:20%
・クラブの認知度に応じたシェア:15%
給与と移籍金への支出は収入の55%までとする
Financial Sustainability Groupを設立し、各クラブ財務持続性をモニタリング

つまり、国内のリーグ参画を前提としながらも、UEFAの大会には出場せず自分たちでリーグを立ち上げてそこから巨額の利益を得ようという意図があります。

資金調達に関しては、JPモルガンが$6bn(約6,530億円)の融資を引き受けてインフラストラクチャー・グラントを成立させるようです。

そちらはアセットへの投資や収入補填に利用しましょう、ということになります。そこで人気クラブとして持続可能な財務体制を築き上げてリーグ単位で発展させていこうとする試みです。ちょっとアメリカのスポーツっぽくて、確かにユナイテッドのオーナーが好みそうなリーグ形態ですね。

更に、自分たちのOTTチャネルで試合の放映が可能になることで内製化されたデジタルサブスクリプションへの加入者促進を促すことができます。

これまでUEFAによって中央集権的に放映権が販売されていた欧州の大会について、世界各国のTV視聴者を自クラブの潜在顧客として直接的収益に結びつけることが可能となります。

あとはまあ、レアル・マドリードにとってはベルナベウ改修の支払いが2023年からなので、CLの新フォーマットが2024年からだと遅かったのかもしれません。

周囲の反応

UEFAは欧州スーパーリーグ構想に関して各連盟と共同声明を発表し「FIFAと6つの連盟が以前に発表したように、(本構想に)関係するクラブは国内、欧州、世界レベルの他の大会への出場が禁止され、所属選手は代表チームを代表する機会を与えられない可能性があります。」とコメントしています。

これに関しては選手は頑張ってトップクラブに移籍したのに、自分たちにコントロールできない意思決定で母国を代表できないのはかわいそうですね。

プレミアリーグは「このような構想は我々の資金と連帯によって成立しているヨーロッパのピラミッドに大きなダメージを与える」として公に反対意見を表明しました。プレミアリーグのルールに反するとして、スーパーリーグに参加するクラブはプレミアリーグの参加資格を剥奪される恐れがあります。

FAは「異なる協会のクラブが参加する新しい競技会を設立するには、関連する国内協会、連盟、FIFAの承認が必要です。私たちは、イングランドのサッカーに損害を与えるような大会には許可を与えません。フットボールの広範な利益を守るために必要な法的および規制上の措置を講じます。」とこれを批判しています。

まとめ

当初はレアル・マドリードとマンチェスター・ユナイテッドのスタンドプレーそしてある種のロビイング活動かと思われましたが、より大きな収益源へのアプローチとして位置付けるとビッグクラブの資金需要という意味で参画表明する各々の理由はあったかもしれません。(個人的にシティも参画したのは意外でした)

そしてUEFA側も、批判を覚悟でビッグクラブに寄せた設計にしたこともあり、面子が立たなくなってしまい全面的に対抗しています。

しかし、UEFAの共同声明の「フットボールは、開かれた競争とスポーツの実力に基づいており、それ以外の方法ではあり得ません。」という箇所は、「いやいや、UEFAも新フォーマットでビッグクラブ有利にルール変えようとしましたよね!?」というツッコミを禁じ得ません。このステートメントを公式に出してしまってよかったのでしょうか。

UEFAを既得権益を守りたい機構と捉えるか、それとも各国リーグやステークホルダーの利害を調整してきたバランサーと捉えるか、その両方なのか解釈の分かれるところです。

今後どうなるか静観したいと思いますが、どちらにせよビッグクラブの優位性を高めるフォーマットにはなってしまいますね。

大局観で見ると今までルールメイカーとして君臨してきたUEFAという中央集権母体が資本主義社会で肥大化し続けるビッグクラブに対して発言権を無視できなくなり、UEFAもビッグクラブ無しでは放映権が売れないので困ってしまいますね。

しかしFIFAや各国リーグを握っているのはUEFAなので、余りにも既存の枠組みを無視した振る舞いをビッグクラブが続ける場合、それなりの確率でカノッサの屈辱的なイベントが発生するかもしれません。

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