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Sociosというサービスが見事にサッカーファンとクラブの課題解決にハマった

私は普段サッカークラブで働いており、最近在マルタのブロックチェーン企業Chilizが運営するSociosというサービスをクラブに導入しました。(以下リンクをスクロールダウンすると日本語版が読めます)

これがファンエンゲージメントを新しい次元に昇華させるのみならず、クラブの課題解決にも繋がっていたので、その理由を書いていこうと思います。

以前、こんな記事を書きました。

端的にサマリーを書くとこんな感じです。
・サッカークラブの時価総額はかなり安い
・理由1: 非試合日の収益に乏しくROAが低い(選手・スタジアムなど)
・理由2: ピッチ上の現象を因数分解しづらいので経営指標(事業計画やKPI)に落とし込みにくい

本文では潜在的な解決法も提示していますので、興味があれば読んでいただけると幸いです。では、改めて課題の部分をおさらいします。

サッカー産業の課題

1. 市場での資金調達が難しい
ほとんどの場合、銀行借入や社債発行などは将来の資金回収見合いで行われます。例えば、商品が売れていて売掛金回収までの期間に手元の運転資金が足りない時や、キャッシュを生み出す設備投資に見合う貸付であれば「大体◯ヶ月くらいでお返ししますよ」という事業計画と共に提出すると借りれたりします。(私もいくらか借りています)

しかし、プロスポーツクラブは将来の計画を提出することが非常に難しいと言えます。選手が怪我するかもしれませんし、運悪く試合に負けて順位を落としてしまうかもしれません。予算をかけると勝率は上がりますが、必ず勝てるとは限りません。

特にサッカーは流動的なスポーツなので、ピッチ上で起きる現象のほとんどは説明できません。スタッツこそ出ますが、試合後にわかります。
それゆえ、通常企業で行われるような重要な数値(KPI)を決めてそこに投資することで事業成長しましょう、という枠組みが当てはまりにくいのです。
※一部のクラブは先進的な取り組みを行っており、これを可視化しています。これはまたの機会に。

お金を貸す側からすると、お金が返ってくるか不安です。せっかくお金を貸したのに、チームが試合に勝つことを祈らないといけません。経営指標に関するレポートと、ピッチ上で起こることは度々直結しません。「良い選手を獲得したから、彼/彼女が活躍して順位が上がるよ」と言われても、監督との折り合いがつかず途中交代させられてしまうかもしれません。

2. 資産稼働効率の低さ(非試合日の収益源に乏しい)
スポーツクラブ/エンタメ産業の収益は試合日/開催日に収益が偏重しています。資産の稼働効率が低く、きちんと工夫しないと収益性が低いです。

サッカーでいうと放映権料・スポンサー収入・チケット収入など、試合が無ければ発生しません。また、サッカークラブがカップ戦や大陸の試合などに出ても、多くてホームゲームは年間40試合程度です。自前でスタジアムを保有する場合、施設の年間稼働率は10%前後でしょう。

選手に至っては、運動は疲れるのでサラリーマンのように週5日付加価値を発揮できる訳ではありません。

1. 資金調達の難しさに戻ってしまうのですが、上記の理由から収益性の低さゆえにほとんどのクラブにとって株式上場することは現実的ではありません。

ヒント:プロスポーツクラブの無形資産はすごい

各クラブには歴史や伝統があり、ヨーロッパでは100年以上の歴史を持つサッカークラブがたくさんあります。これは別の機会にまた詳しく書きますが、特にヨーロッパは都市国家としての歴史が長いので、ほぼ都市国家間の代理戦争という形でサッカーの試合が行われています。(日本も藩制が長かったので、もっと盛り上がってくると思います)

例えばクラシコは、マドリードを中心とするスペイン政府がカタルーニャ自治区を併合した歴史がピッチ上やスタンドで発現していると言えるでしょう。

ファンの方も「親子3代ファンで、おじいちゃんは昔プロ選手としてプレーしていました」みたいな方が結構います。日本でも親子ファンの方は増えていますよね。SNSのフォロワーもクラブ+選手全員合わせたら小さなプロクラブでも10万人程度は軽く超えると思います。好きな選手が海外移籍したら移籍先のクラブも気になるので、ファンベースは地理的にも拡大します。

グローバルに発信するAmazonやDAZNなどの媒体を通じて、放映権という形で各国にリーチすることが可能なので、日本にも「プレミアリーグクラブのファンです」という若い世代は多いと思います。これだけで1テーマ書けそうなので別の機会にまた発信します。

グローバルに点在するファン達は、潜在的により踏み込んでチームに関わる機会を待ち望んでいますが、今のところ試合を観てグッズを買う程度の貢献に止まっています。

Sociosのビジネスモデル

前置きが長くなりましたが、Sociosは上述したファンやクラブの問題を解決するとても良いビジネスモデルです。Sociosは一言で表すならファン投票&報酬プラットフォームです。

ファンはまず、ブロックチェーンプラットフォーム且つ基軸通貨であるChiliz($CHZ)をSociosプラットフォーム内で購入し、各契約クラブのファントークン(暗号資産)を購入します。PSG、ユベントス、バルセロナなどのトークンがあり、FTO(Fan Token Offering)という最初の固定価格での売り出し後は需要と供給によって価格が変動します。

ファンはトークンを購入すると、トークンが投票券として機能しクラブの設定する投票に参加できます。ユニフォームの色やチームバスのデザイン、スタンドの名称など投票内容は様々です。トークンは暗号資産なので投票してもトークンは減りません。

議決権のような形で保有量に応じて投票に影響力を持つことが可能ですが、投票ごとにキャップが設定されているので投機家のような方が大きな影響力を持つことを防いでいます。この辺のバランスも非常に良いサービスです。

簡単に説明するとこんな感じなのですが、オリジナルグッズやスタジアムでの体験などクラブによって様々な特典を用意しており、トークン保有者はこれを享受できます。

何がすごいのか

じゃあこれが一体どうすごいのかというと、ファンとクラブの課題をめっちゃ解決しています。どう解決しているか、事例ベースで見ていきたいと思います。まずはファンからです。

ファンの課題事例とその解決
例1 )地元のファン「こんな状況下だからスタジアムに足を運ぶのが難しい。クラブを応援したいよ!」

例2 )グローバルのファン「遠くてそもそも観に行けないけど、もっとクラブを応援したいよ!」

例3 )ファン潜在層「サッカーが好きだけど特に応援しているクラブはないよ。ただ、新しいもの好きで面白い取り組みをしているクラブがあれば応援したいよ。」(意外とこういう方多い)

回答例)???「Sociosを通じてキャプテンマークに載せるメッセージを投票で選べます。あなたの選択がピッチ上で反映されます。離れていても一緒に戦いましょう!」

コンセプト良い・・・!

続いて、クラブの課題見ていきましょう。

クラブの課題事例とその解決
例1 ) 財務部長「チケット収入が激減して経営がかなり厳しいな。銀行には返済スケジュールのリスケはもうお願いしている手前、追加融資は断られるよね。クラファンや投げ銭などやり尽くしたけど、対価が余り無い中やり過ぎてもファンの印象よくないしな・・・。営業もこんな状況下で苦しんでいるし。何か対価をちゃんと用意して市場から資金調達できる手段はないだろうか。」
(リアルすぎる)

例2 ) マーケティング部長「海外から選手を獲得した影響でSNSのフォロワーが伸びているけど、地理的な条件に関わらずもっとエンゲージメントを高めてもらうにはどうしたら良いんだろう。」

回答例)???「Sociosを通じてファントークンを発行してみませんか?普段行われているクラブの意思決定に世界中のファンを巻き込むことによって、よりエンゲージメントを高めることを可能です。また、トークンの売り出しによってファンにとっても対価(納得感)のある資金調達が可能です。」

良い・・・・!!!!

ちなみに、$PSGや$JUVなど流通量の担保できそうなビッグクラブはBinanceなどの取引所に直接上場しており、時価総額もかなり魅力的なものになっています。また、FTO時には1-2USDで売り出していたので価格も5倍以上になっています(2020年12月末現在)
こちらで各クラブの時価総額がリアルタイムで確認できます。かなり魅力的な流通量になっていますね。

技術の使い方が良い
ブロックチェーン技術の良いところはデータの可用性と秘匿性にあります。世界中どこにいてもセキュアな環境でデータをシームレスに移動させ、価値交換が可能です。テクノロジーの特性を正しく活用し、ファンとクラブの課題解決に役立てているという点でとても優れたビジネスモデルといえます。

個人的には世の中に「それブロックチェーンじゃなくても良くない?」と思うモデルも多い中、技術特性と課題解決がピッタリハマっていてセンスが良いなと感心しました。

終わりに

そんな形で、ビジネスモデルに非常に感銘を受けて書き殴ってしまいました。Chilizチームの皆さんも良い企業カルチャーがあり、ムーブメントを作って行くぞ!という雰囲気を感じます。

補足するとPRではありません!

本noteは個人として書いていますので、個人の見解であることを前提にご理解頂けますと幸いです。

気づけば年の瀬ですが、まだやれることがたくさんあるので振り返るというより駆け抜けていきます。それではまた。

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