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第1章 邂逅 vol.9 暗黒

「が」ではない。「も」だ。

中3当時の状況を整理しておくと、隣ではあるがクラスが違ったことによって岡部との接点はほぼ皆無であった。3年生の時の彼女との記憶はまったく無いと言っても良い。またNとは前述のとおり同じクラスになったことでそれなりの接点があったが、一度終わった関係が再度築き上げられることもなく僕自身も好感は持っていたものの恋愛感情のそれとは違うことでどこか冷めた関係となっていた。大人の関係と言うと意味深になってしまうが、良くも悪くも昔よりも少しだけ成熟した関係と言うのが実情に一番近いのかもしれない。一方後輩ちゃんとは学年が違うのでそもそもの接点がないのだが、生徒会役員の友人を利用して顔見知り以上の関係は築いていた。

そして冒頭の「も」である。後輩ちゃんのことも好きになっていたが、岡部に対する気持ちがなくなったわけではなかった。この時は紛れもなく2人とも好きだった。だいぶ前にポリアモリーの可能性を否定しないと書いたが、それはこの時の体験がベースとなっている。ただ岡部に対してはクラスという高い壁に阻まれていたし、後輩ちゃんとは少しずつ関係を築き上げていったもののある程度の深い関係になるまでは時間も機会も少なすぎた。受験生ということもあったが、中3の時は年賀状を女子に出すことは無かったし女子から来ることもなかった。また学年が違うということもあったが、僕と後輩ちゃんのことは一切噂にはならなかった。真実なんてどこにもない。

そうして季節はあっという間に過ぎて入試の話になる。勝負弱い僕はここでも失敗する。人生で最大の失敗且つ最初の大きな挫折だ。第一志望の公立高校に落ちて滑り止めの私立高校に行くことになった。そのショックが大きすぎて入試後のことは卒業式も含めてほとんど記憶がない。
そんな状態なので当然のことながら誰かに思いを伝える気力など沸くはずもない。当時の僕にすればこれでフラれたら普通にショック死できるという状態だった。結局は告白する勇気がなかったことの言い訳に過ぎないと言われればそれも確かにそうなのだが、この状況で告白に至れなかったことはさすがに仕方がない面もある。
ついでに言うと僕が絶望に打ちひしがれていたからというわけでもないだろうが、告白できなかったのはともかくとして、卒業式の時に女子から告白されるということも一切なかった。それまでのモテ男伝説はいったい何だったのか。やはり噂など虚構でしかないのだ。

入試後のカラオケでこれを歌っていた友人も落ちた(Warner Music Japan公式ホームページより)

こうして卒業式という最大のチャンスを活かすことができずに僕の中学生活は終わった。しかし僕の中で区切りが付いたというわけではない。片思いのしんどさは残ったままだ。まさかこの後30年も経ってまだ引きずることになるとは当時の僕は知る由もないが、話はまだ続く。

僕が行くことになった高校は既に述べたが男子校だ。もちろん行きたくて行ったわけではないのだが、それを知った友人が男子校に行くことに驚いていたのは当時の僕の一面を図らずも現している。まあそれは良い。
何の希望もなく僕の高校生活は始まった。男子校なので当然のことながら新しく好きになる異性など現れるはずがない。そんな中で僕はまず岡部との関係をハッキリさせようと考えた。というか、未練タラタラだった。彼女も私立高校に通っていた。ちなみに僕が住む地域では一部のトップ校を除いて私立高校を第一志望にする人は珍しく、多くの生徒は公立高校を第一志望にしていた。もしかしたら彼女も挫折を味わった組だったのかもしれないが、そのあたりの情報もクラスの壁に阻まれて入ってこなかった。
それはともかく、僕も彼女も電車を使い、2人とも通学に1時間半近くかけていた。それぞれの学校の方角が自宅のあるエリアから反対方向に位置するので通常の通学路だとかすることもなかったのだが、僕が寄り道をすると1駅だけ通学路が重なる区間があった。平日だと授業終了の時間にバラつきが大きく彼女の帰宅時間が読めなかったので、午前中で終わる土曜日の放課後に彼女との通学路が重なる最初の駅で待ち伏せをした。ストーカー気質があることは否定のしようもないが、今のところ犯歴はない。
余談ながら週休2日制が始まったのは僕らが高校生の時で最初は隔週で週休2日だったが、それは公立校の話で私立の学校は土曜日の半ドンがまだ一般的だった。

僕らの小中高時代は時間割に土曜日の記載があるのが普通だった(Template boxホームページより)

そうして土曜日の放課後に偶然を装って彼女と再会するようになった。回数としては片手で余るくらいだと思う。しかし再会できても区間は1駅でしかも降りる駅は別々だったので、時間としては電車の待ち時間を含めても最大で10分かそこらだ。彼女は彼女で新しい生活が始まっていたし、仲が良かった時期があったとしても過去の話だ。おまけに毎週のように待ち伏せされていれば気味も悪かったことだろう。そして僕に突然勇気が備わったわけでもなく、そもそもその場にそういう空気が生まれてないので、何度会っても告白などできるわけがなく、夏休みになる頃にはそうした現実を受け入れざるを得ない状況になっていた。何も始められず、そして自らケリをつけることもできないままに僕の初恋は終わった。
ついでに言うと中学校は卒業してるので会うことは無かったが、後輩ちゃんへの片思いはもうしばらく続いた。そして僕が高2の秋、某公立高校に進学していた後輩ちゃんを某所にてまたしても待ち伏せした。しかしこの時は彼女に声をかけることすらできず、自らが置かれた状況を自覚したことで恋を終わらせた。自分で書きながらその惨めさにちょっと泣きそう。

その後、高3の時(おそらく秋頃)岡部と偶然再会した。これは本当に偶然だ。受験生の僕らは、僕がSで始まる予備校、岡部がKで始まる塾に通っているという情報を交換した。しかし双方の予備校があるターミナル駅での再会だったのにその後に電車で一緒に帰ったという記憶がなかったのですれ違いざまの再会だったのか、あるいはもはや一緒に帰るような関係ではなかったのか。曜日や時間帯、制服か私服だったのかといったことも覚えていないので詳細は分からない。

長々と書いてきたが、過去の話は次でいよいよ最後となる。

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