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国境で飲むビールはうまい(我々の偉大な旅路7-3)

↑こちらのシリーズの続きです

↑越老国境編(7-2)はこちらから


ラオス人民民主共和国 入国


ラオスへ向かう一本道

 ベトナムからラオスへと向かう道は森の中を流れる小川に沿った一本道で、ラオス側へ向かってやや下り坂になっていた。ベトナムを出国しており、かつまだラオスへは入国していない。国境地帯を歩いているので、いま現在はどこの国にも滞在していないことになる。いまここで事件が起きたら、あるいは急病になってしまったら、どちらの国の警察や救急がやってくるのだろう。

森を流れる小川を渡る橋

「Welcome to BoliKhamxay Province」

 そんなことを考えながら歩いていると、ラオ語と英語が書かれた看板が見えてきたので、英語の部分を読み上げた。ようこそ、ボーリカムサイ県。我々はラオスのボーリカムサイという地域にやってきたのだ。ここまで中国は特別行政区(香港)・省、ベトナムも省であった。省も県もProvinceなので大した違いはない。ただ、ここまでベトナムの省はバクニン(北寧)、タインホア(清化)などと漢字で表記できるものであった。しかし、ボーリカムサイは漢字で表記されない。中国語では当て字が当てられるが、その漢字には意味がない。漢字地名のないエリアへと踏み出したのだ。漢字文化圏すなわち祖国から遠ざかっていることを感じた。

 ラオスのイミグレーションが見えてきた。ベトナム側と比べるとやや簡素で、国境施設というよりは大邸宅のような雰囲気である。左右両方に車が通行できるゲートがあり、その脇から中に入ることができるようだ。続々とベトナム人たちがイミグレへと入っていく。我々も彼らに続いてイミグレへと吸い込まれていった。

遠くに見える建物がラオスのイミグレ

 ラオス側ではベトナム人も日本人も外国人になる。ラオス人はほとんどいなかったので、ほぼみんなが外国人であった。イミグレの窓口は施設に入った右側左側の両方に設けられていたがどこも混み合っていた。我々は比較的空いている窓口に並んだ。人数こそ多く並んでいたが、一人当たりの手続きはそれほど時間がかかっていないようで、思いの外すぐに我々の番が来た。所定の用紙に必要事項を記入しパスポートと一緒に渡すと、イミグレのスタッフは何やら書類をホッチキスでパスポートに止めて返却した。

 無事にラオス人民民主共和国への入国が済んだ。初めて訪れる国、ラオス。この国は海を持たない内陸国である。また、悲しい事実だが、アジア最貧国の一つとも言われている。今回の旅行まで特別関心を抱いたことのない国。いったいどんなことが我々を待ち受けているのだろうか。


初めての買い物


ラオス側の風景

 イミグレの施設を抜けても特別景色は変わらなかった。鬱蒼と茂る森の中に一本道が通っており、イミグレの施設の横には売店を備えた小さな食堂があった。既に出国を終えたベトナム人たちが店の中や外に集まっていた。店の中に入ってみると、キヨスク程度の品揃えの冷蔵庫と菓子棚があった。

 冷蔵庫の中を覗いてみると、世界標準のコカコーラやペプシコーラがあるのはもちろん、日本語の書かれた商品も並んでいた。お茶のようだが、日本では見かけないブランドだ。おそらく中国メーカーが日本っぽく見せかけた商品を東南アジアで売っているのだろう。ラオ語がメインで書かれた商品は少ないようだ。英語や中国語、そして日本語や韓国語が書かれたものが多い。その中から見慣れぬ文字の書かれている飲み物を手に取ってみた。コーヒー牛乳のような飲み物なのだろうか、イラスト以外の情報で何の飲み物なのかを当てることは難しかった。ラオ文字のように見えたが、解読することができない。きっとタイ文字なのだろう。

購入した飲み物。後ろに映るのは白米。まだここも箸の文化圏内のようだ。

 レジの横にはコンビニおでんよろしく謎の肉が刺さった串や白米が用意されてあった。そういえば朝食を取っていなかった。イミグレで両替を済ませており、ラオスキープの紙幣も持っていたので、ここで飲み物と軽食をラオスでの最初の買い物にすることにした。先ほどのコーヒー牛乳のような紙パックの飲み物と、ジェスチャーでレジ横の軽食をオーダーする。白米はポリ袋に入れて渡された。おにぎりあるいはお椀に盛るのが通常の日本人からすると驚きの配膳スタイルだが、これもここの文化なのだと、受け入れることにした。

「それ何の肉?」

ワカナミが問うが、私は答えを知らない。口にしてみても、よくわからなかった。

「何の肉だろうね。不味くはない」

「前、上海で食べてたソーセージみたいなのも、何の肉かわからなかった」

「あの怪しい肉ね」

「あれ実は…」

「怖いこと言うなよ。人が食事してる時に」

ワカナミは以前の上海旅行の際、豫園で食べた謎の肉を"ヒト"のものであったとする説をよく話していた。あるわけないが、異国の地であれば全くあり得ない話ではないのかもしれない。信じてはいないが、食事中にされる話ではないので、話を遮った。


待ちぼうけ


 軽食を食べ終え、バスを待った。もう1時間も待っただろうか。バスは一向に来なかった。通関の手続きに時間がかかっているのだろう。他のバスの乗客たちは国境からやってくる通関を終えたバスに再び乗り込んではラオスの山奥へと消えていったが、我々のバスの乗客はひたすらバスを待った。気づけば、周りは同じバスの乗客だけになっていた。

「なかなか来ませんね」

後ろの席に乗っていた日本人男性氏に話しかける。お互い気を遣っていたため、これがこの日最初の彼との会話だった。

「他のバスの人たちはもう出てるのに、うちらだけ遅いですね…。さっき、あそこのオーストラリア人の方たちと話したんですけど、うちらのバス以外はほとんど通過しているらしいです。」

「あの人たちも一緒でしたね。まあ、そのうち来るでしょうから気長に待ちますか。」

 いつまで経ってもバスは来る気配がない。ただ、ベトナム・ラオスの国境は深圳に入る時の羅湖のように一日に何万人もの人々が往来するポイントではない。のどかな森林に囲まれたこの土地なのだから、きっと国境の手続きものんびり行なっているのだろうと勝手に結論づけた。

「ビール飲むか」

 私は、完全に暇を持て余したワカナミを誘い、売店でビールを買って飲むことにした。再び売店に入り冷蔵庫から「Beer Lao」と書かれたラオスビールを買う。売店の外に出て早速缶をあける。ベトナムのビールに似ている、薄味の飲みやすいビールだ。昨日のハノイほど暑くない山の中とはいえ、少しずつ気温も上がってきており、何よりバスに待ちぼうけを食らわされて退屈だったので、Beer Laoを美味しく感じた。

ラオスのビール「ビアラオ」


(続く)


旅程表
2018年9月17日 "我々の偉大な旅路" 4日目

ベトナム・ラオス国境

7 越老国境編 ハノイ-ヴィエンチャンの移動

午前7時 ベトナム社会主義共和国 出国

午前7時半 ラオス人民民主共和国 入国

午前8時頃 ラオス側のキオスク にて 朝食

午前9時半頃 飲酒を開始

(時刻はすべてハノイ・ヴィエンチャン時間)


主な出費

ラオスキープの紙幣たち

両替
 1,000 タイバーツ → 263,000 ラオスキープ

入国手数料 100,000 ドン (二人分)

朝食 20,000 キープ (国境のキオスクにて)

ビール 20,000 キープ (国境のキオスクにて)

↑7-4 越老国境編 続きはこちらから

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