絵 それは空   絵 それはたいよう
絵 それは海   絵 それは日々のびゆく葉
絵 それは呼吸  生きている呼吸  誰かの呼吸
絵 それは言葉 交わされた言葉たち
絵 それは

時間を見ている 作家と絵と 一緒に呼吸した時間を
愛し合った時間を やわらかなたたかいの痕跡を
その奥にある、たしかに存在する絵を 見ている

うつろいゆく空を一緒に見たかった。飛んでいく鳥、きえていく星、沈む月
一緒にあびたかった、今だけの光と 
一瞬だけの空気を 空を 一緒に見たかった
どこかにいっても忘れない絵を、一緒に見たかった

白をみている 左上にのりあげた 鉛のかたまりを見ている
葉をみている 白に寄せ合う葉の色をみている
呼吸はゆっくりだったんだと思う
絵を描くところはみていない

何にも似てない風景をみた 

圧倒的な現実の残像
作家が生きていたことの残像
ここにいない人間の残像をみた
確かに生きていたと言っていた その時にしか描けなかった線をみた
きっと二度とうまれない絵たちをみた 何度もみた 
悲しくなかった

人はいなくなった 
葉は枯れて、鳥はとんでいった 星は消えた 太陽は沈んでいった 空の青は消えた

私の心には絵が残った


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