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アルコール依存症の夫がアルコールを断った話

知人に紹介された、はじめての美容室に行ってきました。

わたしの夫がロシア人と知り、
「やっぱりたくさんお酒飲むんですか」
と訊かれて、
「ああ、飲まないです。というか、飲みすぎてアルコール依存症になったので飲酒、やめたんです」

夫の話になると、ロシア人は大酒のみ(実際、その通り)というイメージから、よく「やっぱりウォッカ飲むんですか」などと話をふられるのですが、そのときは正直にそう答えています。深刻に言うと相手も困るので、つとめて明るく。「一切飲まないんですよ、わたしが目の前で飲んでても全然平気で」。そうすると相手も、「へえ、すごいですね~」と言ってくれるので「そうなんです、それはほんとに尊敬しています」と返します。

ロシア人のアルコール依存症は深刻な問題です。
夫の弟も、33歳で死にました。
ひどく具合が悪くなり、翌日には死んでいたと。解剖したけれど、原因はわからないとのことでしたが、もう何年もアルコール依存症だったので、それでどこか臓器が悪くなっていたのか、悪いアルコールを飲んでしまったのか、兎も角、アルコールが原因なのは間違いないようです。

弟とは2年くらいのつきあいでしたが、ロシアで会った時から意気投合して仲良しになり、日本にも2回、招いたくらいでした。けれど、会ったときには既にアルコール依存症で、いつでも飲酒しており、飲んでるか、寝てるかでした。体内アルコール度数が低いと不機嫌になり、高くなりすぎると不機嫌になっていました。夫の友人宅に一緒にいくと、夫は歓迎するけれど、弟は、…という雰囲気を感じました。日本にいる間になんとかできないかと、インターネットの情報がいまほど充実していなかった当時、アルコール依存症の本を何冊か買って読んだりしました。

弟の訃報をきいて非常なショックを受けた夫は、これまで適度に飲んでいたアルコールの量が激的に増えた気がします。それから数年の間にどんどん進んでいき、気が付くと、飲みだしたら寝るまで飲み、ふだん優しいひとなのに、飲んででかけると制御不能になり、途中でふいっといなくなり、わけがわからないまま知らない道を遠回りして歩いて帰ってくることもありました。ロシア人の酒飲み友達と飲み始めてとまらなくなり、友達の家を夜にでて、道に迷って翌日昼過ぎに帰ってきたこともあります。

当時働いていた小さな会社でも、
「大丈夫大丈夫、社長はぼくのこと好き。酔っぱらっててもちゃんと仕事さえすればいいと言ってる」
と言っていたけれど、あるとき社長から電話があり
「旦那さんの具合が悪いようなので、奥さん迎えにきてもらえませんか」
という。
夫にかわると
「ダイジョ~ブダイジョ~ブ、ちゃんと帰れる!」
と言う。
しかし、社長とよく話してみると
「じつは、外出して帰ってくると、旦那さんの机の下にチューハイの空き缶がたくさんあるんです。さいきんでは、酔っぱらって仕事にもならなくて…」
夫がかたくなにひとりで帰れると主張するので、夫との子どもである、下の娘と「そろそろ帰ってくるかな」という時間に外に出て、会社のほうに目をこらすけれど、いっこう現れない。心配しながら待っているとむこうのほうから、動きのあやしい外国人のような人影が近づいてくる。やはり夫。さっきまで雨だったので傘を持っているけれど、どこかで転んだらしく、傘は曲がっているし、顔は血だらけで服にまで流れているけれど本人はへらへらしている。娘とふたりで、泣いた。

そんな日々が続いていたときに、ある朝「ピンポーン」。
皆寝ていたが、夫がふらふらインターホンにこたえると、警察。

当時荒れていた、前の夫との子ども、16歳の娘が逮捕された。
昔でいうと、男を取った盗られたの女同士の争いに同席していた、という状況だったらしいが、結局中等少年院送致になり、「少年院、刑務所などに行くなんて人間として終わり」くらいに考えてる親に育てられたわたしだから、相当なショックだった。

そんな状態なのに夫は酔っ払いで、いろんな本読むと精神科に行かないといけないとか、アルコールアノニマスとかAAAとか、しかし日本語あまりしゃべれないし、文化的に全然日本とは異なる夫がそこに行って意義を見出すとは思えない。あれこれ考えたり試したり、なだめたりすかしたりしても効果がなくすっかり疲れ切って、ある日家出した。親しくしていたおじさんが車を出してくれて、ドライブして福井のほうの漁村にいってぶらぶらして一泊して帰ってきた。そうしたら、夫が「離婚したくない」と言ってきっぱりお酒を断った。

もとから、性格的に、「これ」と一旦決めたらすっぱりそのことを自分から切って捨てられるひとだったけれど(以前の妻子さえ、、、)今度もそれを発揮して、一旦「やめる」と決めたらそれはもう、驚くばかりに完全に断ち切れた。「依存症は精神力うんぬんの問題ではない」とあちこちで読んでいたのでびっくりしました。これは、たぶん、夫の性質、脳のつくりによるところが大きいと思うのですが、そこはほんとによかったと思うし尊敬します。いまではむしろわたしのほうが飲むのをいい加減やめなければ…と思うようになり、ようやく、平日中は飲まない日々を過ごせるようになったところです。

ひとと話をしていると、どうしても夫の飲酒の話になりますが、下手に隠したくないので、正直に話します。戸惑うひともいるようですが、だいたい、受け入れてもらえます。

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