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長文感想『PK』 伊坂幸太郎

読書メーターのアカウントを取得したごく初期に読了した本。

前回の長文感想でnoteに投稿した『ゴキブリ研究はじめました』を読んで、ある意味「G」が主役? のこの本のことを思い出し、再読した次第。


この本は3つの章に分かれています。

序章は、サッカーワールドカップの出場をかけたアジア予選の大一番、ペナルティーキックを前に謎の逡巡をする選手と、試合のはるか後、その選手の微妙な表情の真実を追い求める、日本政府の大臣をめぐるストーリー・『PK』

次に、前章に登場した大臣が、若い頃、キャリアを重ねるきっかけとなった「赤ん坊の転落事故」。
彼が救った赤ん坊・本田毬夫(まりお)が青年となり、彼の携帯電話に届く「奇妙なメール」に導かれるように、件の大臣と面会するストーリー・『超人』

関連がありそうで、慎重に読むと細部にズレがあるこの二編。

実は、最後の章・『密使』を読むと、その意味がおぼろげながらも見えてくる、何とも奇妙奇天烈な筋書きなのです。

その各章で絶妙に物語に絡むのは、実は「G」なんですが…。
と、ここまであらすじを説明しても、何が何やら分からないですよね😅

登場人物も多くて、物語の概略をつかむのもなかなか一苦労(笑)。

それでも、このお話を再読したくなったのは、今まさに「理不尽な選択」を強いられている現実があるから。。。


『PK』の大臣は、同じ党の幹事長から「信念を曲げること」を強要され、己の「勇気」を試されていた―――

そして、『超人』の本田青年は、未来を予言する不思議なメールの内容を通じ、「命の恩人の大臣を殺さないと、将来、世界中が大変なことになる」と追い詰められていた―――

最後の『密使』を含めて、この2名以外の様々な登場人物も自らの「勇気」を試される物語は、サスペンスから次第にSFの領域に踏み込み、読み手を翻弄します。

その行く末は、この本を手に取って確かめていただきたいのですが、登場人物がそれぞれ「最悪の未来」を回避すべく尽力を尽くす中で、「奇妙なつながり」が生まれ、意外な展開へ。。。


現在は、民族同士の憎悪が拡大して、世界中が不安に包まれているご時世。

そんな中、解決を放棄して時流に流されるのか?
それとも、諦めず解決の糸口をつかむ「勇気」を絞り出すのか?

目の前の努力が報われなくても、その「勇気」は他の人間を勇気づけ、未来をより良い方向に向けるきっかけになるのかも知れません。

【以下、余談】


伊坂先生が前二章を執筆したのが2010年、著者としては初めて文芸誌に掲載した作品ということで、かなり凝った内容の物語になりました。

反面、SFアンソロジー向けに書かれた『密使』は、ひと味違う、エンタメ風味の濃い内容。

実は事情があり、いずれも出版が決まったのが2011年の東日本大震災の直前。
そんな災禍を暗示するような物語を、まさかそんなタイミングで出版することになろうとは…。

「めぐりの不思議」を感じさせる内容となったことが、あとがきと解説から読み取れますね。

【おわり】

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