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フェアリーテイル

・推定上演時間:10分~15分
・人数:男性・1、女性1、指定なし・1(計3名)
・ジャンル:ファンタジー・ダーク
・あらすじ
ソウタが迷い込んだ店。そこは精霊の集まる店であり、墓場だという。
精霊など信じないソウタは店を出ようとするが――。

ご利用の際は末尾の利用規約をお読みください。

【登場人物】
エマ……性別指定なし
ソウタ……男性
ミカゲ……女性

***

SE:扉が開く

ミカゲ「あらぁ? エマ、お客様よー」
エマ 「ああ、いらっしゃい」
ソウタ「ここは……」
エマ 「ここは精霊たちの集まるお店、そして、墓場です」

ソウタ「これは僕が命を奪われるまでの話」

ミカゲ「さあさあ、中に入りなさい。どのソファがいーい? これなんかどうかしら。シンプルで飾りっ気がなくてつまらないあなたにピッタリ」
エマ 「ミカゲ、やめなさい。ごめんなさい。彼女は口が悪くて」
ソウタ「はぁ……」
エマ 「見たところ、あなたは人間ですね」
ソウタ「は? それ以外に何が……」
ミカゲ「えぇ? それならさっさと追い出しましょう? アタシ、人間なんて大っ嫌いよ。あ、エマ以外ね」
ソウタ「……歓迎もされてないみたいなんで帰りますね」
エマ 「そうですね。ここはあなたのようなヒトのいていい場所じゃありません。帰ってご飯を食べて、早く寝て忘れてしまってください」
ソウタ「どうも。では失礼します」

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SE:扉が閉じる
SE:扉が開く

ミカゲ「あら、おかえり」
ソウタ「は? え? ちょっと待ってください。何ですかこれ!?」

沈黙

ソウタ「答えてくれないんですか!?」
エマ 「待てと言われましたので」
ソウタ「天然か!? チクショウ! 僕は帰りますから!」

SE:扉が開く
SE:扉が閉じる
SE:扉が開く

ミカゲ「おかえり」
ソウタ「おかしいだろ!? なんで戻ってくるんだよ!」
エマ 「ど、どうしてでしょう……」
ソウタ「あんたが戸惑うのかよ!?」
エマ 「だ、だって、私のせいじゃありませんし……」
ソウタ「クソっ、何だっていうんだ」
エマ 「とりあえず、お茶でも入れましょう。何がいいですか? 紅茶? コーヒー? それともそこにオレンジジュースを混ぜますか?」
ソウタ「なんで混ぜた」
ミカゲ「アタシはココアで」
エマ 「分かりました。あなたは――。あなたお名前は?」
ソウタ「あんたらみたいな不審者に教えるわけないだろ」
エマ 「そうですか……」
ミカゲ「ちょっと、エマをしょんぼりさせないでよ。落ち込んだら三日キノコ生えそうなくらい湿るから(耳打ち)」
ソウタ「めちゃくちゃめんどくさい人だな。ああ、もう。僕はソウタです。伊崎いざきソウタ」
エマ 「ソウタ君ですね! 私はエマといいます」
ソウタ「どうも……」
エマ 「ではコーヒーにオレンジジュースを混ぜてきますので少しお待ちください」
ソウタ「オレンジジュース単品でお願いします!」
エマ 「美味しいですよ?」
ミカゲ「不味いわよ」
ソウタ「不味いだろ」

SE:ハイタッチ

エマ 「息ぴったりのハイタッチを見せつけないでください。仕方ありません。オレンジジュースとココアですね。少しお待ちを」
ミカゲ「うぅーん?」
ソウタ「なんだよ」
ミカゲ「なんだか、少し違和感を覚えるのよねぇ」
ソウタ「は?」
ミカゲ「だって、こんなに寒いのに、あなた半袖じゃない?」
ソウタ「いや、全然寒くないけど」
ミカゲ「そりゃあ、今は暖房入れてるからね。でも、外は吹雪よ」
ソウタ「嘘だろ? 今は夏だ」
ミカゲ「冬よ」
ソウタ「夏だ」
ミカゲ「冬」
ソウタ「夏」
ミカゲ「冬」
エマ 「どうしたんだい? 不毛な争いをして」
ミカゲ「聞いてよ、エマァ。この子が今は夏だっていうの」
エマ 「え、今って夏だっけ」
ミカゲ「冬でしょ。昨日、カレンダー捲ったのはどこのどなたさん?」
エマ 「そうだった。もう今年もあと一か月だねぇってね」
ソウタ「いやいや、そんなことないって。まだ、六月だから、六月だろ?」
ミカゲ「十二月よ」
エマ 「十二月ですよ。ほら、私のスマホを見てください」
ソウタ「精霊とか胡散臭いこと言ってるのに、スマホは持ってんのかよ……。どれ……」

沈黙

エマ 「ソウタ君?」
ソウタ「設定ミスってんのか?」
ミカゲ「ううん。お店の人が設定してくれたもの。大丈夫なはずよ」
ソウタ「じゃあ、なんで2023年なんだよ」
エマ 「へ?」
ソウタ「今は2020年だろ……?」

沈黙

ミカゲ「ああ、なるほどね」
エマ 「そういうことか」
ソウタ「な、なんだよ」
エマ 「あなたは精霊です」
ソウタ「は?」
ミカゲ「それにしても、こんな人間に近い精霊は初めて見たわぁ。何の精霊なのかしらね」
ソウタ「何言ってんだよ」
エマ 「ごめんなさい。私はあなたのことを殺さないといけません」
ソウタ「は? な、なんだよ、どういうことだよ?」
エマ 「はじめに言った通り、ここは精霊たちの集まるお店、そして、墓場なんです」
ミカゲ「エマがその命を奪うからね」
ソウタ「や、やめろ。近づくな、近づくな!」
エマ 「あ、逃げちゃった」
ミカゲ「大丈夫よ。結局逃げられないから」
ソウタ「畜生! どういうことだよ! なんで、なんでこんな目に!」
ミカゲ「それは、あなたが精霊だから」
ソウタ「うわぁ!」
エマ 「こちらへどうぞ」
ソウタ「お前のいうことなんて聞くか!」

走り息を荒げるソウタ。
SE:扉を開ける

ソウタ「ひっ!」
エマ 「見てしまいましたね」
ソウタ「なんだよ、この墓の数……」
ミカゲ「これは今までエマが殺してきた精霊の墓」
エマ 「そうです。全部全部全部、私が殺しました」
ソウタ「い、嫌だ……」
エマ 「あなたは何の精霊ですか?」
ソウタ「僕は、僕は……精霊なんかじゃない。人間だ……!」
ミカゲ「なら教えなさい。あなた誰かに愛されて記憶はある?」
ソウタ「何言ってんだ! 当然だろ!? 家族も友達も恋人だっている!」
エマ 「顔は覚えていますか?」
ソウタ「当たり前だ!」
ミカゲ「なら、家の場所は?」
ソウタ「知ってる」
エマ 「出会いは?」
ソウタ「……それは」
ミカゲ「手触りは?」
ソウタ「……」
エマ 「温かさは?」
ソウタ「しら、ない」
エマ 「そうでしょう。だって、あなたは触れたことがないのだから」
ミカゲ「エマ、彼が何の精霊か分かったの?」
エマ 「ああ。声も知っている。それは電話という機能があるから」
ソウタ「……やめ」
エマ 「顔も知っている。それはカメラ機能があるから」
ソウタ「違うって……」
エマ 「住所も知っている。それはGPS機能があるから」
ソウタ「やめて……」
エマ 「でも知らない。あなたは出会いを知らない。だって、あなたを手に入れる前から、あなたの主人は友人や恋人に出会っていたから」
ソウタ「……」
エマ 「あなたがその手触りや温かさを知らないのは、触れたことがないから」
ソウタ「……もう、やめてくれ」
エマ 「あなたは、主人に捨てられたスマートフォンですね?」

SE:画面が割れる

エマ 「お休み。ソウタ君。いや、伊崎ソウタ君のスマートフォン」
ミカゲ「あらあら、あれだけ騒がしかったのに、今じゃ、人の形も失って、ただの壊れたスマホ。かわいそうね」
エマ 「ミカゲ、君が言うことじゃないだろう?」
ミカゲ「ふふ、そうね。じゃあ、エマ。いつも通り、彼もお墓に入れてあげて」
エマ 「……うん」
ミカゲ「躊躇ってるの?」
エマ 「そうだね。彼ほど人間に近い精霊だと、少しね」
ミカゲ「でも、あなたは彼をお墓に入れるわ。だって、そうしないとあなたがお墓に入ってしまうものね」
エマ 「墓の精霊の君と、そう約束した、いや、そう約束させられたからね」
ミカゲ「あら? そんな無理矢理だったかしら」
エマ 「無理矢理だったよ」
ミカゲ「さあ、早く埋めに行きましょう」
エマ 「うん」
エマ 「ごめんなさい。そして、さようなら」
エマ 「こうして、私はまた誰かの命を奪うのです」

【終わり】

***

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