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棚分類の問題

 S市の独立系書店で働いており、書店員目線で本のことを綴っています。

 お客様と本当の出会いがうまくいくように、また、売り上げが上がるように、書店の棚分類を整理することになった。
 やってみるとよくわかるのだが、分類しやすい本としにくい本がある。例えば、『トムは真夜中の庭で』ならば「絵本・児童文学」へ、『第二の性』は「ジェンダー」へ、『ふしぎの国のバード』なら「マンガ」の棚に置く。ちなみに全部在庫していますよ。
 けれど、例えば、鴻上尚史『世間ってなんだ』講談社+α新書などは難しい。「教育」「政治」「西洋哲学」「東洋哲学」どれもしっくりこない気がする。スタッフ協議の上、「社会」というジャンルはあえて作らないことになった。なんでも放り込んでしまいそうで、かえって、本を探しにくくなりそうだったからだ。

 そんな折、旧知のベテラン書店員K氏が来店してくれた。そこで特に、棚分けについて、早速質問攻めに。
「この本なんかはどうやって分類しますか」
 そう言って、『世間ってなんだ』を手渡す。
「三部作ですよね」
 書店員K氏は即答する。そうなのだ。この本は、『人生ってなんだ』と『人間ってなんだ』 というのもあるのだ。
「確かにこれは悩みますよね。そういう本って、結構あります。可能ならば、何箇所かに分けておくこともありますよね。その場合には、棚登録も複数しておきます。ただ、うちの場合は、新書は新書コーナーに置くのでまずそこにあって、そのほかにどこに置くのかということになりますね」
 なるほど。ぼくがいる書店は「新書」コーナーがないので、いっそう悩むのだ。でもこのやりとりを通じて、分かったことがあった。それは「ベテランでも棚分けは悩む」ということだった。だから、これからも一所懸命悩むことになるだろう。ただし、お客様がどうやってその本に辿り着くのかということを、一冊一冊について考えていかなければならないのだと思った。

 翌日、書店員K氏からメールが来て、「とてもよいお店でしたね。 置いてある本が(わたしにわかる範囲で)どれも「好きな/気になる」本でした。」
と、嬉しい言葉をいただいた。
 さらにそれだけではなくて、「持っている本を人からいただいたのでもらってもらえませんか」と書かれてあり、後日、若松英輔『悲しみの秘義』文春文庫、が届いた。
「以前この本を読むきっかけになったのが所収の一篇「花の供養に」で、わずか7頁のエッセイですが心に沁みました。」とあったので、早速そこから読んでみると、参ってしまった。めちゃめちゃいい本ですね。
 しかもこの本は、ぼくのいる書店でよく売れている本なのだった。この間、過去の売り上げランキングを作ったら、上位にランクインしていて、とても気になっていたのだった。
 そのことを書店員K氏に伝えると、「よい本はひろがるものなんですね。地道に売れ続ける本が数十点あれば、なんとかやっていけるという小さな本屋さん、そういう商売が成り立つ世の中は暮らしやすいだろうなーと夢想します。」と返事が来た。
 そうだよな。「地道に売れ続ける本が数十点あれば、なんとかやっていける」なんて素敵なことだな。そして、そんな本を書きたいし、売っていきたいものだなあと、しみじみ思ったのだった。

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