見出し画像

流れ星だと気がつくまで

私は都会で生まれて都会で育った。

いや、空気が綺麗ではない所、と言うべきかもしれない。

星空に魅力のない土地柄だからか、昔から夜空というものにまるで興味がなく、CMで見る親子で天体観測みたいなシチュエーションはただの不思議な光景に見えていた。

そして相変わらず心の狭い実家では、夜間の外出などもってのほか、夜空を見上げる機会もほとんど与えられなかった。

小学生の頃に一度だけ、田舎の親戚の家に泊まった時に田舎ならではの変わった間取りを活かし大人の目を盗んで外に出てみたことがあった。

人生で初めて見た、美しくて一つ一つが力強く光り輝いている星空に釘付けになった。

しかし私は日頃都会に住んでいるし、両親はあんなんだ。

すぐに興味は薄れ、直後に理科の授業で星の早見表が配られたが、どうせ自分は夜空を見せてもらえないからと、やはり興味を持てなかった。


2020年、感染症が流行りだしてしまった。

不要不急の外出を控える生活が浸透した頃、ムショ暮らしを終えたかのように一人暮らしで自由の身となっていた私はよく夜に散歩をしていた。

2010年代に比べて圧倒的に街中に人が少なく、元々3密が苦手な私にはありがたい時代の到来だった。

夜、広く整備された都会の道路に人はおらず、しかし煌々と街灯が路上を照らしている異様な光景、私はよく「人類絶望」「終末都市」などと心の中で呟いていた。

私は、ふと思い立って空を見続けながら歩いてみた。

だって誰もいない。

道路は向こう数十メートル整備されているので、段差がない。

犬を散歩させている人すらいない。

2010年代までは前を向いて歩いていなければ散歩をしている犬を蹴飛ばしたり踏みつけるリスクがそこにあった。

しかし今は誰もいない。

ゆっくり歩きながら空を眺め続けていたその時、上空の手前側から奥に向かって、一瞬青白く燃えるように何かが移動した。

たまたま、私から見て手前から奥という方向のせいで、航空機が炎上墜落しているのだと咄嗟に焦ってカバンの中のスマホに手を伸ばした。

NHKの生放送を見ても速報は出ないよな、というか速報すぎる、電話で通報か、ええと私がいる所から東側だから、東京湾寄りの、いや、情報が少なすぎる、墜落現場付近の人が通報するだろう。

しかし冷静に考えると、航空機が燃える色はオレンジなどの暖色の印象。

私が今見たのは完全に青白い。どう見ても寒色。

・・・流れ星だ!

そう気がつくまで数秒を要したくらい、私は今まで見たことがないものを生まれて初めてこの目で見て、少し混乱したのだ。

どこへ行っても人が少ない、私にとっては有難い日々の中で生まれた、都会で流れ星を見るという出来事。

最近はもう、流れ星を見た時間帯に外にいても、まだまだ犬が威勢良く散歩をしている。

夜空の下、前を向いて歩いていると、日常が戻ったんだなと実感する。

最近は犬の首に光る首輪のようなものが取り付けられているのをよく見る。

これが新しい時代のイルミネーションなんだ、楽しませてもらおう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?