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会議、会議、会議

 ユネスコに戻ると、地球科学部の大先輩橋爪道郎さんが、オランダにある技術援助実施機関ITCで、「まずはアフリカ諸国から専門家を集めて会議を開こう」という話に発展し、1992年の秋に実施した。ヨーロッパ宇宙機関、ヨーロッパ委員会、国連宇宙部、アフリカ開発銀行、FAO、ESCAP、ECAなどからも参加者が集まり、受益国、実施機関、ドナーと参加者のバランスがよい国際会議となった。

 橋爪さんが担当していたモンゴルのリモートセンシングプロジェクトの評価ミッションも任され、パリからモスクワ乗り換えでウランバートルに出張した。ちょうとアジアリモセン会議(10月7-11日)が開催されていたので、日本の関係者とも旧交を暖めることができた。

 一方、ユネスコには「万国著作権条約(Universal Copyright Convention)」という著作権保護のための条約の事務局がある。担当のソ連人ゲラシモフ氏に、人工衛星データの著作権について相談した。彼が言うには、著作権は芸術家や学者の生活を守るところに意味があるので、機械が観測した地球のデータは保護の対象にならないというものだった。

 衛星データが著作権保護の対象になるかならないかは、まだ誰も検討していなかった。専門家の意見を参考にして、私は論点を整理し、誰もが容易に衛星データを利用できる制度を考えた。それを1992年4月に、ミュンヘンで開かれた国際宇宙年会議(EURISY)の、国際宇宙法研究所(IISL)シンポジウムで発表した。本件については、欧州委員会からも専門家意見を求められ、ゲラシモフ氏と二人でブリュッセルに日帰りも出張した。

 

会議は出会いの場であり、人は見かけによらない。

 ミュンヘンのEURISYの展示ブースで、アメリカの大洋気象庁(NOAA)のブースを通りかかると、パソコンの前で一見さえない男性が退屈そうに座っていた。目が合って、「私の話を聞いていくかね」と言われ、こちらも急いでいなかったので「お願いします」とパソコンの前の椅子に腰かけた。これがFelix Koganの干ばつ早期警戒指標Vegetation Condition Index(VCI)との出会いだった。NOAA衛星は、同じ仕様のセンサーによる全球の観測が8年以上蓄積されていた。それを統計的に処理すると、ある地域で干ばつがおきかけていることがリアルタイムに把握できる。実にスマートな指標だった。僕が知りうる限り、リモートセンシングデータの実用手法としてもっとも洗練されたものだった。その後、コガン博士とは幾度か顔を合わせることになる。

 この年、リオデジャネイロで国連環境開発会議も開かれ、ユネスコは賢人会議を開催した。それに参加された通信総合研究所所長の畚野信義さんが、パリに立ち寄られ衛星データセンターに興味をもたれた。そのおかげで、僕は11月中旬に東京で開かれたアジア太平洋国際宇宙年会議にも出張することになった。

 前川さんにアドヴァイスをもらってからたった一年で、アメリカ、ベルギー、オランダ、モンゴル、ドイツ、東京と、僕は世界を駆けずり回っていた。

(トップ画像は、ITCで開催されたアフリカ専門家会議の集合写真。僕は前列左から2番目)

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