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現生人類は『人類のゆりかご』で生まれなかった

 

道祖神のヨハネスブルグ駐在員の高達(こうだて)さんに連絡をとって、人類のゆりかごのなかで宿泊できないかを問い合わせた。すると、そこはドロマイト石灰岩層に地下深く穿たれた雨水による浸食洞窟で、人骨化石は誤って穴に落ちたか、落とされたものであり、ヒトの居住した跡はないという。僕はハッとした。

 そもそも『人類のゆりかご』に指定されたスタークフォンテン洞窟は、英国人古生物学者ロバート・ブルームが、300万年前の化石ミセス・プレスを発掘した場所である。つまりその人骨化石は現生人類のものでなく、初期人類のものである。僕はそのことを知っていたにもかかわらず、『人類のゆりかご』で現生人類が生まれたとミステイク、思い違いしていたことだった。この世界遺産は『初期人類のゆりかご』と改称するのが正しいと思う。
 僕はヒトがハダカになった洞窟、つまり現生人類の生まれた洞窟を訪れるためにヨハネスブルク往復航空券を(割高なゴールデンウィーク料金で)買ったのに、無駄なことをしたとがっかりした。出発まであと1週間もない。

 だがそのとき、 1994年の全人種選挙のときに秘書のジョアンヌさんが切り抜いてくれたガーディアンの短期連載記事(毎週火曜に5週連続)、リアン・マランの「南アフリカ日記」を思い出した。「ヨハネスブルグから700マイルのところに最古の現生人類化石が発掘された洞窟があった」という記憶がよみがえってきたのだ。おそらく人間の脳は「しまった!間違った‼」と思ったときに、自分のもっている全ての記憶を奮い起こして、何か打開策はないかと、一瞬のうちに事態を立て直そうとするのだろう。

 ウェブ公開している「『民主化』の声に消された南アフリカの『植民地解放』」を開くと、

① 1980年だったか、東ケープ州のクラシーズ河にある洞窟を掘っていた人類学者たちが掘りあてた骨は、これまで見つかった中では最古の現生人類のものであることが明らかになった。他にもいくつか証拠はあるのだが、つまり現人類は俺の生まれ故郷から700マイルのところで初めて発生したということだ。
②1987年だったか、カリフォルニア大学の微生物学者A.ウィルソンはDNA研究から、現在生きている全ての人間は約14万2000年前に南部アフリカにいたある女性に発生した遺伝子を共有しているという結論に達した。この時代はクラシーズ河で見つかったものの推定年代とかなりよく一致する。
(リアン・マラン「南アフリカ日記」ガーディアン紙(ロンドン)1994年4月28日掲載、和訳は著者)
というくだりがあった。


トップ画像は、荒川修作の作品「MISTAKE


 

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