公務員はよくも悪くもルールの中でしか動けない

「融通がきかない公務員」への怒りの声をよく聞く。私も若い頃は怒っていたりしたのだけど、トシをとってわかってきた。融通がきかないのは、公務員という仕事が融通きかせてはならない職業だからだ、ということ。よくも悪くも「公務員はこうしか動かない」と予測できるのは、ある意味すごいこと。

公務員は法律の通りに動くことを義務づけられている。マジメな人なら、法律やルールから外れてはいけない、となるのは当然。この場面ではこうしたほうがいいに決まってるやん、というのが誰の目にも明らかであっても、彼らは法律に従うことを求められてるので、融通きかせるわけにいかない。

「アンタッチャブル」という映画がある。禁酒法がある中で、ギャングたちはお酒をこっそり提供することで荒稼ぎしていた。で、警察は見事にボスを逮捕することに成功するのだけど、映画のラストシーンで「禁酒法廃止の動きがあります」と記者から尋ねられて「その時は祝杯上げよう」と主人公。

このやり取りは、公務員というものの動きをよく示している。法律が酒を禁じてるから取り締まる。酒を禁じなくなったら自分達も祝杯を上げる。公務員は、このように法律を守る生き物であって、現実に対して融通をきかせる生き物として設計されていない。

公務員に融通をきかせようとするなら、誰かが責任をとる形で、従来のルールが想定していない対処を可能にする「文書」を用意する必要がある。その文書さえあれば、公務員はその文書に従って動ける。溝を切ると水が低きに自然に流れるように。

阪神大震災のとき、避難所に神戸市職員が派遣されてきたのだけど、ボランティアとケンカになっていた。理由をボランティアに聞くと「みそラーメンと塩ラーメン足せば被災者全員に配れる数があるのに、『それだとみそ味がいい人に塩が来るかもしれない、それでは不公平』だから配るな、と言うんだよ」

私に任せてほしい、と頼んで神戸市職員と話した。「ラーメンはどこから供給されてるかご存知ですか?」と尋ねると、神戸市からだと答えた。私は首を振り「いいえ、違います。ラーメンは私達ボランティアが集めたものです。ですのでラーメンは私達ボランティアの責任で配らせてもらいます」

「ただ、配ってしまえばなくなります。ですので市職員の立場を利用して、救援物資の確保に努めて頂けますか。ラーメンの種類の不満が出る件に関しては、我々ボランティアに任せてください」と言ったら、あっさり引き下がってくれた。その後、救援物資確保に非常に機敏に動いてくれるようになった。

神戸市職員は、物資が神戸市からの供給だと勘違い。その誤解を解いただけで「ならば私があれこれ口出す話じゃない」と理解してくれた。被災者からの不満はボランティアが引き受けると伝えたことで肩の荷が下り、他方、物資調達という新たな使命を見つけて、それに邁進すればよい、と思ったらしい。

公務員は、法律やルールの範囲内で動いているという確信が持てれば、その通りに動ける。誰かがその点で責任を被る、と明言すれば、できるだけそれを文書で明確にしておけば、公務員は安心して融通をきかした対応ができるようになる。それこそ、コロッと。

法律やルールから逸脱していない、ということを証明できる文書やリクツが用意てきれば、公務員も柔軟な対応が可能。
こうした動きを可能にするためには、公務員がどんなルールで縛られているのかを察知し、現実に求められている対応とのギャップを埋める「リクツ」を発見する必要がある。

そのリクツを実現するために、しかるべき人に文書を出してもらうよう、説得に動く「根回し」をする人が必要。何なら文書の下書きも用意し、その人がわざわざ文書を作る手間も省いてやる。するとギクシャクしていた組織が急に円滑に動き始めたりする。

まれ〜に、こうした根回しを自らやってくれる公務員に出会うことがある。こうした場合は公務員といえども実に融通がきく。けれど根回しは公務員の義務ではないため、誰にでも求められるものではない。そういう場合は、一般の人が根回しに動く必要がある。

公務員はルール通りにしか動けない。ならばルールを新たに用意すればよい。そのためのリクツを考える。そのリクツを体現した文書を準備する。すると、水が低きに流れるように動き出す。そうした知恵を持つと、世の中もう少し潤滑に動くかもしれない。

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